第575話 歴史の記録
「アタシもここは初めて見たし、アミジンの話も集めたいわ。いくつかの定説と、予想も覆されるだろうし、逆に信憑性が増す説もあるの。話すのならば、そのあたりを精査してからにしたいわ。それに
ハウロンが言う。
やっぱりでっかい(?)女神から分かれてるんだ? 精霊図書館行ってちょっと調べようか?。
でも土偶ちゃんについても大して記述は見つけられなかったんだよな。書かれていた大部分は伝聞みたいな形だったし、口伝みたいに文字という形では残さない文化が挟まってるのかな?
恥ずかしがりの土偶ちゃんと違って、ここの精霊は話してくれるので聞けばいい気がするけど、勇者召喚のナミナのことを考えると、精霊自身の記憶の改ざんがあるかもしれない。詳しく聞くなら、ある程度調べてからがいいかな?
「この顔はまた何かアタシが叫ぶことを考えてる気がする……」
ハウロンが呟く。
「もう少し歴史をたどってみようかなって思ってただけだぞ?」
「本当に?」
疑い深い視線を向けてくるハウロン。
「本当、本当」
「――本当だろうな。ただ、たどり方が多分おかしいだけで」
ちょっとレッツェ!
「まあ、行き着く先は一つなのでしょうから……」
「事実は一つ、真実はたくさん!」
執事のまとめと対極な感じのディノッソ。
でも確かに、一つの事実から受け取り方は様々、人それぞれだよね。
「とりあえずはアミジンの人たちを探して、ここを見てもらって、地上に抜ける別の道を作っていいか確認するところからかな?」
別の道作るのがダメだって言われたら、城塞からしか入れないてことになるから使い方と動線考えないと。
とっと、その前に。
「『ここって、もっと来やすいように地上から道を作ってもいい感じ? 限定したい感じ?』」
興味深そうにこっちのやりとりを眺めていた女神に聞く。
『どちらでも。触れられるのは好かんが、にぎにぎしいのは好きだ。誰が来てもかまわぬが、アミジンの者たちが多く訪れるのならば歓迎だ。太鼓と鈴を所望するぞ』
「『はい、はい。一定の距離までしか近づけないように制限して、音で祀るよう用意するか。アミジンの人たちは? 触れてもいいの?』」
確か染料持ってこいだったよね?
『アミジンには夏至の日にだけ触れることを許そう』
「了解」
あれ、土偶ちゃんも夏至になんか祭りしてたな? やっぱり元は同じ女神っぽい。
「そうね。何故かある城塞の使い方よね……。お陰で直接上陸できるようになったけれど。もう葡萄の苗木の手配を始めたほうがよさそうね、アミジンの人たちとも交流が続くのならば、そちらも考えないと。話の流れからも、石柱にある女神の姿からしても、アミジンの神なのよね……。契約があるからこの地を返せとは言われないだろうけれど」
ソレイユがぶつぶつ言っている。
うん、弓を持つ女神は契約の時現れた女神です。なんかもう、契約の時に強い精霊が現れるのにソレイユたちは慣れすぎてる気がする。俺だってびっくりするのに。
精霊が出ることにじゃなくって、現れた精霊の種類にだけど。最初は俺と縁がある守護する神々の中から契約内容とか相手によって出て来てたのに。最近は契約相手と縁が強い神が出て来て契約をガチガチにしてゆくという……。
「精霊語を
ディノッソの肩の上で猫船長が尻尾をぴったんぴったんしてる。
「おかげでアタシも精霊語の単語を新しくだいぶ覚えさせてもらったわ。意思の疎通ができるかは別としてだけれども。……ここ、大々的に改装する気配ね。その前に記録に残させてもらいたいわ、時間はあるかしら?」
俺が精霊と喋ってたことについて、さらりと流すハウロン。
「どうぞ?」
ハウロンはスケッチブックを取り出し、何やら描き始めた。ドラゴン解体の時もやってたな、そういえば。
「さて、じゃあハウロンが作業してる間、ご飯にしようか」
「おう!」
嬉しそうなディノッソ。
「……デザートは?」
キールは相変わらず甘いもの好き。料理に味があることにも喜んでるけど、甘いものは格別らしい。
本日はおにぎりとサンドイッチ。本当は地上の草原でって思ってたんだけど――暑いし、ちょうどよかったかな? 海を眺めながら食べよう。
ハウロンにもおにぎりを持たせ、お茶を回す。猫船長がおにぎりを不審そうに眺め、嗅ぐ。苦手だったらサンドイッチでもいいんだぞ?
おかずはおにぎりにもサンドイッチにも合うように、ミートボール、卵焼き、みかん。
「おー! この肉団子、大好き」
ディノッソがつまんで口に入れる。ミートボールはディノッソ家に人気だ。
デザートはドーナッツ。キールが先に食べようとするから、まだ出さないけどね!
で、ハウロンが満足するまで、ソレイユたちと打ち合わせ。打ち合わせと言ってもアミジンにまだ話を聞いていないんで、計画しても覆るかもしれないんだけど。
猫船長、レッツェやディノッソ、執事の意見もききつつ。半眼で眺められつつ。
そしてハウロンはまた連れてくることにして、船に戻る。――いつまで経っても終わらないんですよ、ハウロンスケッチ。
「うわぁ……」
「……にゃぁ」
先頭のディノッソと猫船長が声を上げる。
猫船長、にゃあ? にゃあなの?
「お前……」
「……これはまた、風景が変わっておりますな」
レッツェと執事の言葉に前を見る。
対岸では精霊による忖度港工事が起工していた。
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