第573話 ましゅまろ女神
ハウロンを先頭に洞窟を進む。
ハウロンの斜め後ろをソレイユ、反対側をぷらぷらとディノッソ。その後ろにファラミアとキール。猫船長はディノッソの肩、うらやましい。一番最後は執事。
執事ライトの魔法が照らす範囲からあえて離れてない? 気のせい? そういう習性?
「王狼様は、やはりドラゴンなども倒されるのですよね?」
「ぶっ!」
「それはもちろん! 伝説の王狼ですもの。物理担当ですもの、ね?」
振り返ってにこやかにハウロンが答える。
「……いや、まあ。な」
盛大に動揺しているディノッソ。
ソレイユのちょっと確信というか、半分確認のような質問を、ハウロンが嬉しそうに肯定し、ディノッソが追認する会話が続く。
猫船長の尻尾がぴったんぴったん揺れている。
「……やばいモンに行き着く前に聞いておきたいんだが」
斜め後ろのレッツェがボソリと話しかけてくる。
「何だ?」
内緒話?
「ここに揃ってる奴らで、
「ソレイユとキール、ファラミアは俺が【転移】で行き来してることや、水を湧かしたり、石の塔を一晩でいろいろ改造するのは知ってる。猫船長は付き合い浅いけど、海神が俺のこと精霊王って呼んで構ってくるのは知ってる」
「……ハウロンにおっかぶせる必要がどこに?」
レッツェの呆れた声。
「これからもお世話になると思うし? あと、ソレイユの現実逃避先」
「目の前の非常識より、伝説の中の連中におっかぶせて夢の中か。うすうす気づいているのに目を塞ぐってのはどうなんだ?」
レッツェの言い方はあれだけど、だいたいそんな感じ。
「この洞窟は商売にまだ結びついてないから……」
ソレイユはゲンキンですよ、現金と書いて。
「お二方の伝説は、まだまだ壮大になるようですな」
他人事のような執事の声が後ろからした。
「まって、壁画が」
ハウロンが立ち止まる。
「巨石の、狩猟時代のものね」
ライトを大きくして、壁や天井を照らす。
「採取と狩猟、遊牧から定住、農墾に変遷して、時代を支配する精霊が変わるたび、また再び家を捨てて
壁画を見ながら、ハウロンが独り言のように。
ここは水没してたけどね。むしろその辺はカーンに聞いたほうが早くない? 町を砂に埋もれさせて使えなくした本人じゃない? 実際力を振るったのはベイリスだけど。
ああでも、カーンの場合は狂ってしまった『王の枝』の影響が国全体に及んでいたからか。住み続けられるような状態じゃなかった。
滑りやすい洞窟を転ぶことなく無事進み、女神と対面。
「白の女神と弓持つ女神が一緒に……? 一緒に信仰されていたというの?」
何かショックを受けてる気配なハウロン。
明るい開口部をバックにそそり立つ巨大な八角形の岩、片方に白の女神、片方に弓を持つ女神。
『やあ、来たな。私のあるじ、人の男と女もいるようだが、私の血族ではないな』
そして登場するましゅまろ。
「な、ん……!?」
「精霊!?」
一歩下がるハウロンと剣を構えるディノッソ。
つられたのかキールとファラミアも戦闘態勢。
「ごめん、危ないものじゃない。『血族を集めるに当たって、この辺をどう使うかの下見。今、アミジンの人たちはこの辺りにいないから』」
出てくるとは思わなかった半分、出てきても声は聞こえると思ってた半分。
『血族以外も受け入れようが……。私の姿が定まらぬゆえに、変質してしまうぞ。姿の変わった私を血族達は認識できるか』
特に困ったような声でもなく、ましゅまろが言う。
『そのふわふわした姿はすでに変わってるのでは?』
『ああ、そうだな。だが、大した違いはない。私は白く、豊満な女神だ』
目鼻があるましゅまろ土偶を想像しました。
「……いきなりこの強大な精霊との対面は勘弁願いたいぞ」
ディノッソが息を大きく吐いて剣を下ろす。
つい最近まで海に沈んでたのに、強大なのか。いや、うん、ずっといる精霊みたいだし、力を削られ続けてる状態でもあの大きさだったし、なるほど強いのか。
なんかこう、最近、出会う精霊が大きくなってない? 気のせい?
「なんだ、いつも出てくる精霊か」
「ニイ様の契約精霊でございますか」
キールとファラミアも戦闘態勢を解く。
「いつも……?」
「いつも、で、ございますか?」
ディノッソと執事が二人の言う何かに引っかかった。
「白い女神……
ハウロンはましゅまろを見つめたまま、何か思考をめぐらせている。
さすが大賢者、狼狽えない。知識欲の前には色々些細。
「……」
俺はレッツェにほっぺたを伸ばされている!
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