第572話 やる気継続中
アーチ状の開口部から入り、遺跡の船着場へ。
「なるほど、上から熱した油を落とすなり石を落とすなりできるのだな」
キールがさっそくチェック。
影に入ると一気に薄暗くて、特に天井付近は暗いんだけど。チェンジリングは暗いところでも見えるらしい。階段の上に穴があったのは気づいたけど、ここにもあったのか。俺も見えるけど。
「お前らはここで待っとけ」
猫船長が船を漕いでくれた船員さんたちに言って、すたっと上陸。
あんよ濡れるけどいいの? 猫だけど気にしないタイプ?
「ソレイユ様、足元が濡れております」
「ありがとう」
先に降りたファラミアが、小舟を降りるソレイユに手を貸す。
いいの? キール、防御チェックしてる場合じゃなかったんじゃない?
「暗いな」
「『暗闇に
レッツェの一言に、ハウロンがライトを使う。
杖の先のライトに照らされ、はっきり見える範囲が広がる。
「すごいわね。崖を掘る技術も、この大きな石を組み合わせる技術も。人が去っても永遠に残る……」
いえ、ちょっと前まで崩れてました。
ハウロンの感想に心の中でツッコミを入れる。心の中でなんで、こっちを見るのをやめてください。
無言のレッツェから目を逸らす俺。
「流通の利便より、防御の孤高をとった時代か」
ディノッソの感想。
「触れただけで崩れてしまうような場所よりはマシですわ。……ええ、ちょっと前までは白っぽくって波に攫われて下が崩れ、支えを失って上が崩れていた記憶があるのだけれど……」
ソレイユが何か思い出した!
大賢者様がいると不思議なことが起こるね、大丈夫。大賢者様には普通のことだよ。あんまり言いすぎてもわざとらしいので、きらきらした眼差しでハウロンを眺めるのにとどめる。
「……俺、物理担当でよかった」
「範囲外でございますな」
ディノッソと執事が言い合う。
そして無言で俺のほっぺたをつまむレッツェ。何も言ってないのにひどい。
「荷運びするにはもう少し広い方がいいのだけれど」
階段を上りながらソレイユ。
もう船からの積み下ろしを考えてる。
「この遺跡壊しちゃうのもったいないし、大きい船用の港は、反対側の崖につくる予定で。でも、荷物を運ばなくても階段はちょっと狭いね」
ファラミアのスカートが両方の壁に擦りそう。
「待て。動いてねぇ?」
ディノッソが立ち止まる。
「階段の途中で止まると危ないぞ」
後ろがつかえる。
「……動いてるな」
「階段が広がっておりますな」
キールと執事。
崖側から迫り出すように階段がずれてってるというか、伸びてるというか。
「さすが大賢者様?」
「……っ!!!!!!」
ハウロンが俺を見てぱくぱくと口を動かす。
「どう考えても違うだろ?」
猫船長のジト目。
うすうす感じてたけど、猫船長に魔法の呪文が効かない。
上の部屋に到着。ここも階段が伸びた分、ちょっと広がっている。覗き窓みたいな小さな四角じゃなくって、大きく窓を取りたいところ。学習したんで今は口にしないよ!
口にしてないからジリジリ広がるのストップ、ストップ! なんだろう? 戻ったばかりのせいか、やる気に満ち溢れてる気がする。動くの癖になったとかじゃないよね?
「……」
何人かの視線が痛いんで、お願いだから今は大人しくしといてください。もうちょっとしたら夜陰に紛れて大々的に動いてもらうんで。人前では取り繕って!
色々事故りそうになりつつ、あちこち見て歩く。正しくはハウロンがぶつぶつ言いながら細部を確認し、ソレイユがこの空間はどう使うとか使えるように色々運び込む手順をどうするかとか考えながら歩くのについてく感じ。
「魔物出ない遺跡はやることがない」
ディノッソはあちこちに目をやってるけど、付き合ってる感満載。
「こっちの通路は雰囲気が違うな?」
「うん。この通路はこの城砦っていうより、隠し神殿みたいなとこに出る。あ、海側は空いてるから隠しってことじゃないのかな?」
レッツェが神殿(?)への通路を見つけた。
通路の入り口付近は、城砦と同じような作りだけど、その先は自然窟みたいな状態。
「巨石の時代の神殿、古い時代は女神が多いのよね」
「そうなんだ?」
ハウロンの言葉に前にざっと読んだ精霊図書館の本を思い出す。
うん? 人型よりも動物とか植物が多いような? いや、それは時代を戻りすぎか。あとは人間が信仰してる神に限定してるとかもあるかも?
「行ってみましょう」
ちょっとうきうきしている様子のハウロンが足取り軽く先へと進む。
楽しんでいるようで何よりです。
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