第570話 海路

 青い空、青い海。


 ウフとセイカイがいるけど、気を使ってなのか姿を消してくれてるので問題ない。なんかハウロンと執事がぷるぷるしてるけど、問題ないハズ。


 大賢者と見える金眼を持つ執事、頑張って! 


「あの男が船に弱いだと? とんだ弱点もあったものだな」

キールが小声で呟く。


「停泊中の船と揺れはそう変わりませんが……?」

前回、船の上で執事と会っているファラミアが無表情のまま声を漏らす。


 チェンジリング二人組は見えないから平和。ん? キールは? 見えてない脳筋か、興味ないことにはまったく拘らない脳筋か、どっちだ?


 ファラミアも……ウフとセイカイの見えなくする意思が強いのかな? チェンジリング2人は人と感覚ずれてるからどっちなのか予想つかない。


「いい天気だな」

俺は進行方向を向いて海を眺める。


「……」

「……」

ディノッソとレッツェの視線が痛いんだが、俺はなにもしてないヨ? 


 ウフとセイカイは猫船長の手伝いしてるみたいだし? いつの間に仲良くなったんだろうな? さすが茶虎猫! カリスマが溢れてる! 


 その猫船長も俺のことを半眼で眺めて、尻尾をぴったんぴったんやってるんだけどね。猫船長は見えてるのか? それともディノッソとレッツェみたいに気配を察してるだけ?


「大賢者様もノート様もよろしければこちらの薬を」

ソレイユが気分の悪そうな二人に言い、ファラミアを見る。


 ファラミアにしては一拍遅れて薬を差し出す。


「……大丈夫、船酔いじゃないわ」

「大丈夫ではございませんが、船酔いではございません」


 ハウロンと執事、微妙にどっちが重症だかわからない答え。


「船足速いし、目的地に着くのも早いよね」

早くこの状況から脱せればいいね。


「内海にしてはあり得んほど速いな」

俺を見たまま言う猫船長。


 ちょっと、へんな言い方やめてください。


 海の上を滑るように走る帆船。ウフの助力に戸惑いながら、帆に風を送り、船を後押しする猫船長のお友達の精霊。ハウロンのきょどっている一反木綿、興味深そうにしている他の3精霊、ディノッソのドラゴン型の精霊はあんまり動じてないみたい。


 執事の精霊は相変わらず身を隠している。大体どこにいるか分かるようになってきたけど、わざわざ覗きにいって驚かすこともないだろう。


 船旅は順調というか順を飛ばして早く、目的地が見えてきた。


「見えてきた」

普通はどれくらいかかるんだろう? 猫船長の反応からすると倍どころか3倍くらい速く進んだっぽいけど。


「アンタ、目がいいな」

「そう?」

「俺の船の物見よりいいヤツに初めて会った」

猫船長に驚かれる。


 この体、腕力とかだけでなく、視力もいいようです。アフリカの狩りする人って、10.00以上あるんだっけ? それよりいい? 


 陸がぐんぐん近づいて、全員の視界におさまる。


「どこに着ける? 着けるっても、崩れやすい崖だ。少し近づけてあとは小舟に乗り換えるしかねぇが」

「このまま真っ直ぐ、あのへこんでるとこに」

城塞があるはずのところを指差す俺。


「この半島のへこんでるとこは、崖が崩れた後で海が浅いんだよ。そう近づけねぇぜ」

そう言いつつも、船員に合図をしてくれる猫船長。


 精霊たちはよく頼みを聞いてくれたみたいで、他の崖とまったく変わらないように見えてるけど。いや、やっぱり城塞が戻ったのって気のせいだった? 精霊の見せた幻とかこう――。


「おお、すげー!」

手をかざして歓声をあげるディノッソ。


「これが、ハウロンが誘いに乗って見たかった遺跡か」

遺跡全体を眺めるレッツェ。


「ふん、思ったより早くついたな。この船足の速さで想定し直して島の防衛も見直さんとダメか……」

キールの思考の中心って、ソレイユか島の防衛かどっちかだな。あと、お菓子。


 あれ以上防衛能力追求したら、そのうちバリアみたいなのが出現するか、島ごと飛びそうな気がする。


「なんで……」

「なんでだ」

ソレイユと猫船長。


 はい、城塞が見える領域に入りました。あったね、城塞。


「これがジーンの見せたかった巨石時代の遺跡……。アタシの記憶じゃ、ここにこんなものはなかったのだけれど」

ハウロン、ここも活動範囲でチェック済み?


「先ほどまでの風景は目眩しでございますか……。ですが、長の年月の中、他に近づいた船がなかったとは思えません。何故今まで噂にあがらなかったのか……」

巨石の時代からこの城塞がこのままだったら、執事が言うように確かに誰か見つけてるよね。


 これができたのちょっと前だから!


「無かった、無かったわよ! なんでこんなものが!? 私、ここ通ったわよね、ファラミア!? ここからは上陸できあがれないから通っただけだけれど!」

「はい、数日前まではございませんでした。目眩しの気配も無かったかと」

無表情で淡々と答えるファラミア。

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