第568話 賭け事

 最近流行りのウノみたいなゲーム――たぶん勇者が広げた過程で、こっちの世界の要素が混ざった――をしている。


「がああああああっ! 15枚!」

叫ぶディノッソ。


 持ち札を全部捨て切った人が上がりなのは一緒だけど、場にカードを捨てられない時、テーブルのカードの山からカードを引いて手持ちを増やす、その枚数が二十面ダイスを振って出た枚数というルールが混入している。


「ほほ、ご愁傷様でございます」

執事がカードを捨てる。


「なんで! なんで俺だけ毎回2桁! 絶対なんかしてるだろうお前ら!!」

「してないわよ」

ハウロンが心外そうに答える。


 うん、今はしてない。


 ときどきなんか執事とイカサマのしあいというか、潰し合いみたいな別のゲームを本来のゲームとは別にしてることはある。


 見てる限り当の2人以外には影響ない感じ。器用だなって眺めてる。


「ウノ」

我関せずな感じで、ダイフクを膝にしたレッツェが残り一枚を宣言。


 もちっと流れているダイフクの腹に顔を埋めたい。こねたい。寝ているダイフクのお鼻とお耳がピンク。リシュの真っ黒なお鼻ももちろん可愛いけど。


「なんでそんな淡々と!」

ぐぬぐぬしているディノッソ。


「なんでって言われてもな。俺の運は良くもなければ悪くもねぇ」


 レッツェの引く枚数はだいたい平均値をうろうろ。俺は多いか少ないか両極端。


 執事とハウロンがゲーム以外の争いに気を取られている間に、大抵レッツェ、時々俺が勝つ。ディノッソは何故か本人が気が付かないところで、執事とハウロンの争いの影響で負けてる。


 気づかないっていうのとはちょっと違うかな? なんとなく察してしまうから、それに気を取られてカードを出し間違えたりしてる感じ?


 苦労性だね!


「上がりでございます」

「賭けるものがないと盛り上がらないわねぇ」

ハウロンが最後のカードを場に捨てて、順位はレッツェ、俺、執事、ハウロン、ディノッソになった。


「お断りいたします」

「まだ何にも言ってないでしょう!?」

薄い笑顔の執事に賭け事希望のハウロンが反論する。


「どうせ遺跡とやらの見学に、ついて行くか行かないかだろ?」

レッツェが呆れたように言う。


「そうだけど!」

キレ気味なハウロン。


「だいたいノートだって、アッシュとジーンが付き合うことになったら、これから先絶対やらかしに巻き込まれるのよ!?」

「いえ、ジーン様はアッシュ様の前では穏やかに、普通に、いつも同じに振る舞ってらっしゃいますので。むしろルタの飼い葉が変わったくらいです」


 うん。馬の地の草原の草、ルタに良さそうだなって。


「え? デートしてるの?」

意外そうに言うハウロン。


 デートというか、お出かけはしてますよ。


「アッシュ様へのギルドの依頼がなければ、週一で遠乗りを。ですが、やりとりに変化がございません。1ミリたりとも変化がございません」

表情を変えずに念押しするみたいなことを言う執事。


「うちの子供よりダメじゃん」

ディノッソの言葉に目を逸らす俺。


 子供の無垢さでぐいぐいいく歳じゃないんです!


「ちょっと別なことに誘ってみたらどうだ? でも相手もアッシュだしな。買い物でもないだろうし、観劇とかでもないだろうし。ちょっと強めの魔物狩りとかにでも誘ってみたらどうだ?」

腕を組んで悩むしぐさをしながら言うディノッソ。


 ディノッソのアドバイスはディノッソとシヴァの場合だろうか? 成功例?


「よし、じゃあドラゴン狩りにでも……」

「よせ」

「なんでそうなるのよ」

「お前の基準じゃなく、一般的なちょっと強いにしとけ」

「ちょっと強めの範囲外でございます」


 アドバイスに従おうとしたら全員に止められた。ひどくない?


「狩りはやめとこう。あとは風景の綺麗なとこに行くとか?」

「遠乗りしてる」

ディノッソ、それはしてるんです。


「季節外れの花を咲かせた場所など、それなりに。アッシュ様もお喜びですが、あまり顔に出されるかたではないので……」

執事が困ったように言う。


「わかった。お前らプロポーズしないと進まないタイプだ、諦めろ」

「ひどい」


「じゃあ賭けゲームしましょうか」

「何がじゃあなんだ?」

笑顔で話題を変えようとするハウロンに、レッツェが半眼で突っ込む。


「いいじゃないの。アタシが負けたら薬草取りに付き合うわよ、採取と加工の解説つきで。レッツェにも子供たちにも、ためになるわよ」

ウィンクするハウロン。


「大賢者の薬草知識か……」

 


◇ ◆ ◇



 二日後、再びカヌムの家。遺跡の見学ツアー参加者が集まる。


「なんで俺まで? レッツェがいればよくない?」

「負けたんだから大人しくしなさいよ。分散するでしょ!」

ハウロン。


「しないだろ! それぞれダメージ受けるでしょ!?」

「往生際が悪いわね!」


 朝から血圧高そうな応酬が続いている。あの夜はハウロンが勝ち、付き添い権を手に入れていた。


 ちょっと改築前の遺跡を見せるだけなんでダメージを受ける話ではないはず。また海中に沈んでるの引き上げるんじゃないし。

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