第566話 お誘い
宴会が2件続くことが確定した俺です。
地下神殿を後にして、地上の神殿を見学中。そしてハウロンの飾り付けの希望を聞いている。
地上の神殿も砂に埋もれてたやつなんで、火の時代のもの。石造だし、どっしりした建物だけれど、規則的で美しい。床には新しく削った跡があって、これエスの通る溝なんだろうな、みたいな。
小高いところにあるのに、
「ここに花と水盆……いえ、エス様がいらっしゃることを考えると、この辺りは水で満たされるのかしら? 花が流されないための盆ね。いらっしゃってもいらっしゃらなくてもいいような配置で――花は見栄えのするものを40束ほどをお願いするわ」
どう飾り付けするか口にしながら、必要なものを俺に伝えてくるので、俺は図面に丸を書いて要るものを書き込んでる。
「ああ……ここからあちらまでの柱に1本につき2つ、篝火のための飾り台を作ったのよね。薪もお願いしたいわ、外の宴会でも使うから多めに。――砂漠のブッシュではとても足りないわ。椰子もまだ育っていないし……」
ブッシュというのは根元から細い枝がたくさん生えてる低木とか草。暑いし水はないしで木々は大きくなれない。椰子の木の皮やら殻の繊維っぽいわしわしはよく燃えるんだけど、国を興してというかエスが蛇行してまだそんなに経ってないからね、育ってない。
ここには、ココ椰子やらパーム椰子やらナツメ椰子やら砂糖椰子やらたくさんの椰子を植えている。砂糖椰子からはグラメラという樹液を煮詰めたココナツシュガーが採れるんだって。ココ椰子の花からも作るらしいけど。
オイルもとれるし、お酒もできるし、繊維も使えるし、万能よ! というのがハウロンのセリフ。
「細かいところは全部おまかせするけど、ティルドナイ王のイメージを強調してちょうだい」
カーンのイメージ……。
モテ男?
「ちょっと、不穏な顔しないでちょうだい」
顔に出てましたか?
「可愛くなりすぎないようにとは伝えておく。というか、面倒なんでソレイユ連れてきていい?」
俺にコーディネートのスキルを求めないでくれ。
「気軽、気軽すぎる……っ!」
頭を抱えるハウロン。
でも伝言ゲームで齟齬が出るより、直接やりとりした方がいいよね?
「あとついでに猫船長……じゃないキャプテン・ゴートと石の時代の遺跡見学しない?」
「猫船長……。石の時代の遺跡……。ついで……」
微妙に泣き出す寸前みたいな顔でハウロンが俺を見る。
「どこからツッこめばいいの!? レッツェはついてくる!?」
大賢者、どこまでレッツェに頼ってるんだ? 俺より頼ってない? 気のせい?
「レッツェの勧誘は任せる。遺跡は改造じゃない、改修して手を入れてしまうから、見るなら今だけだぞ」
「言い直しても改造でしょ!」
資材を運ぶ手間が省けるし、人が造ったものを利用しない手はない。復活させたの俺だし。
この世界、遺跡の上に都市があるとか、以前の町を広げて使ってるとかほとんどないよね。同じ時代でなら別だけど。なんか丸っと引っ越ししてるイメージが。数えるほどしか遺跡見てないけど。
「ううう。ティルドナイ王の王国復興は、順調すぎるくらい順調で喜ばしいことなのに、何か腑に落ちない……」
「いいじゃないか、順調なら」
ハウロンが情緒不安定なまま、一緒にカヌムへ。
「レッツェとノートを呼んでくるわ。ジーンはディノッソをお願い」
「帰ってるかな?」
ディノッソは子供たちを連れて城塞都市の迷宮に行っていたんだけど、帰ってきたようだ。子供たちの教育はスパルタっぽいけど、順調に強くなってるみたいだし、家族仲もいいままだ。強くっていうか、いろいろなことへの対処方法を覚えてる感じかな。
とりあえず勝手口から出て、隣の扉を叩く。石造の建物は生活音とかわかりづらい。おっと、籠用意。
「おう! こんばんは」
「お帰り」
「ただいま」
運良く、というかハウロンは帰ってるの知ってたのかもしれないけど、ディノッソがいた。
「ジーン、こんばんは!」
「こんばんは!」
「こんばんは!」
ティナがディノッソの傍をすり抜け、抱きついてきて、すぐに双子も勢いよく抱きついてくる。
大丈夫、予想していたので転んだりしない。
「いらっしゃい」
奥から顔を覗かせるシヴァ。
「お帰り、こんばんは。ディノッソ借りてっていい? ハウロンが来てるんだ。あとこれ食べて」
ティナに籠を渡す。
布巾をかけた籠の中はパン、干し葡萄入りのパウンドケーキ、ハムの塊、ワイン。人に見られてもセーフな、いつでも出せる差し入れセットです。
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