第562話 外観チェック

 崖に張り付いたような要塞。うまく組みあがらなかったらしい美しいモザイクの床が、半分海に沈んで波にあらわれている。ターコイズの海が綺麗ですね。


 よし、隠蔽しよう!


『ありがとう。お疲れ様ついでに大気の精霊さん、光の精霊さん、海の精霊さん、近づかないと見えないように隠蔽お願いします』

さすがに派手すぎる。


 これ、テルミストの島から見えるだろ? いや、島の中の町から見えなければセーフか? こっち側に船着場とかあった? とにかく隠蔽です!


 ここにくる人? 大丈夫、ここはもともとこうです。もともとあったんです。ここ最近近づく人がいなかったから気づかなかっただけです。


 ……。


 理由はソレイユに丸投げしよう。現地の精霊に受け入れられたら、城も見えるようになったとか適当な理由があるだろう、たぶん。


 組み上がった要塞に近づくと、あちこちガタがある。長い年月波にさらわれて、無くなってしまった石もあるのだろう。あと、古い時代の建物なので、生活の快適さは考えられていない気配。


 どうなってるか確認して、明日以降生活しやすいように直すしかないかな。海に浸かったアーチが並んで口を開いてるけど、これもしかして船着場? 巨石の時代の船は小さかったんだなきっと。船が大きくなったのは風の時代っぽいし。


 うーん。内海のさらに湾の中、しかも湾の正面にはテルミストの島。波はほとんどたたないし、あっち側に船の接岸用の岸壁作ろうか。船縁と同じ高さに崖を掘って縄梯子使わなくても乗り降りできるやつ。


 乗降や荷積がしやすい作りは貿易にはいいけど、守り的にはどうかな。キールがすごく嫌がりそうだ。隠蔽してるからセーフだろうか。


 船縁って、荷物の重さとかで高さ変わるよな? 日本のことを考えても、クレーンでコンテナつってる映像しか浮かんでこないや。こっちも木製クレーンみたいなのはあるけど、あれを設置すればいいのかな?


 島の城を作ってる石工さんに聞いてみよう。石を持ち上げるのに使ってたから。まあ、滑車つけて人力で綱を巻き取ってるだけな気もするけど。


 竜の三本指、左側の指の間が城塞が戻った方、右の指の間はなんでか砂浜になった。細かく砕けた岩が、それでも戻ってきた結果? 岩壁はもう崩れる気配はないし、これはこれでプライベートビーチっぽくっていいね。


 西側と北側の手の甲(?)の部分も崖だ。海から切り立ってるけど上の方はなだらかな丘から続く段々。曲線といかないのは、ここもたぶん何度か崩れてるからだろう。こっち側の石の精霊たちも、今は崩れる気配はないのでよし。


 外観を確認し、船着場っぽいアーチから城塞の中に入る。やっぱり船着場かな? これはこれでいい感じなんで利用する方向で。


 階段を上がって上へ。階段狭いなあ――ああ、はい、上に熱湯を落としたり矢を射かけたりする穴があるね、階段が狭くて急なのも敵を迎撃しやすいようにわざとか。荷下ろしには向かないな。


 あ、もしかして軍船だった?


 色々想像しながら中を見て回る。分厚い石壁、太陽の熱を嫌う小さな窓。むしろ全部矢窓かこれ、みたいな。


 石で区切られた小さな空と海を眺める。海の先にはテルミスト。『精霊図書館』の管理の坊さんに様子を聞いたら、テルミストにある町はやっぱり水も食料もだいぶきついって。


 ソレイユの話では、この半島よりはレースの取引で訪れる商人がいて、金じゃなくて今は食料と交換って話だったけど。あとで食料持ってレースを買いに行ってみよう。


 まだ黒く濡れている床と壁、天井からも時々海水が滴ってくる。城塞の中は床も板じゃなく石なんだ? と思ったら崖側をくり抜いて部屋が作られており、なんというか海側のほぼ壁だけが石積みだった。床も部分的に穴あきなので、補修しないと。


 ……島の城塞は床が木製で落ちてたんで、また板で床を作ったんだけど、こういう場合はどうしたらいいんだ? 石で埋めるの? 


『すみません、ちょっとこっちに移動してくれる?』

コンコンと壁を叩いて石の精霊にお願いして解決。石で埋めました。


 床を埋めながら確認。いるのはなんだ? 受付と受付の人が休む部屋、荷捌きの人の部屋、荷を入れる倉庫、食堂。あとトイレと風呂。


 とりあえず排他的な印象がばりばりなので、少し窓を大きくしたり明るい印象に改造しよう。排他的な印象も何も隠蔽してるけど。隠蔽がとけて現れたのが、この無骨な城塞じゃ、殺意が高すぎるのでは。


 あ、改造する前にハウロンに見学してもらったら喜ぶだろうか。遺跡とか好きそうだよね、ハウロン。


 でもそれは俺のほっぺたの人権と引き換えになる可能性。このまま隠蔽で――ダメだハウロンにはソレイユを紹介済みだった。隠しきれないなにか。


 ハウロンに見せるか見せないか、それが問題だ。どちらがましだ、非道なる運命が浴びせる矢弾を――ハムレットごっこに突入しようとしたら、明らかに今までの雰囲気とは違う道を発見。


 道というより洞穴。上がって、下がったから海面近くな気がする。これはあれか、白い女神の本体がある場所に続いてるのか?

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