第561話 白の女神と石の精霊たち

 で、ソレイユたちと一旦島に帰った後、またアミジンに今度は一人で来ました。さっそく精霊たちの様子を見ながら、なんでこんなに崩れやすいかのまずは調査。


『はい、はい、石の精霊さん踏ん張って踏ん張って。すぐに横にならないでください』


 ここの石の精霊、なんかふんにゃりしてやる気がないというか縦になる気がない。石の精霊って立ち塞がって動く気がない! みたいな雰囲気が多いんだけど、ここの精霊は別の意味で動く気がないな? 働く気がないというか。


 いや、精霊ならそれでいいんだけど。この状態って、どんどん変化して完全に別の精霊になってしまうか、『細かいの』になって消えてしまうか。精霊によっては消えてしまうことも全く気にしてないんだけど。


 でも人間の感覚だと、なんとなく寂しい。そして勝手だけど、ここの海岸線が崩れてくのがとても困るんです。ぜひ頑張って!


『僕ねぇ、海に行きたいの』

『僕たちねぇ、海に崩れたいの』

『僕ねぇ、白い女神の腕に行きたいの』

『僕たちねぇ、白い女神の胸に抱かれたいの』


 誰ですか?


『その白い女神ってどこにいるの? 海の中?』


『僕ねぇ、知ってる』

『僕たちねぇ、覚えてる』

『僕ねぇ、白い女神が崩れていったのを知ってる』

『僕たちねぇ、行きたいのは海の中だよ』


 巨石の文明の時代にここにいた精霊とかかな? そしてまた海中ツアーか。慣れたもので、また大気の精霊に頼んで、とぷんと海の中。


 そしてやってきました海中城塞! ……そこは神殿じゃないの? なんかごついんですけど。そうね、ルフの時代の遺跡は優美だけど、巨石の時代とか火の時代の前半あたりの遺跡は質実剛健というか、なんか四角いよね。喧嘩っ早くて戦争も頻繁にしてたみたいだし。


 本で読んだ知識だけだけど、今の中原みたいな色々小細工して攻め込むとか、罠に嵌めるとかではなくって、「お前、この土地寄越せや、嫌なら今から攻め入るぞ?」って宣言してから戦い始めたらしい。


 正々堂々というより、そこで見せつけた兵力に、相手が戦わずに要求を飲むことが一番いいみたいなかんじ。力で奪うことが罪だとか後ろめたいことではなかった時代だ。


 なので建物も基本ごつい。信仰してる精霊の種類にもよるけど、ここはゴツかった。白の女神ってことで、もう少しこう別なの想像したんだけど。崩れてる石も一つ一つが大きいし、曲線というものが皆無、崩れずに残っている部分も直角! 直線! みたいなこう……。


『白の女神さんいますか?』


『いるよ』


 誰か知ってるかと呼びかけたら、まさかの返事。多分本人?


 声のした方に移動すると、崩れた城塞の石に半分埋もれるように真っ白で大きな精霊がいた。――マシュマロでできた土偶? 目鼻はないけど、なんか白くてふくよかな感じ。


『こんにちは。石の精霊……だよね?』

『そうさ。でも違うね、石壁に白い石で描いた絵さ』


 肯定しておいてからの否定! でも微妙か、絵とはいえ描かれたのも描いたのもどっちも石だ。


『地上にいる石の精霊たちが、あなたを恋しがって崩れそうなんだけど、何か崩れない方法ある?』

ここはダイレクトに聞く。


『私の古い眷属たちは、私と同じく消えたいのさ。私は消えたくないけどね。だから私を引き上げれば崩れないよ』


 この大きなのを引き上げる……自分で起き上がってくれないかな? いや、でもこれ何で埋もれてるんだ?


『もしかして本体が埋もれてるのか?』  

『そう、崩れてね。もう本体ではないけれど、失せたら私を作ってるものも弱くなって消えそうなのさ』


 それは本体って言わないのか? 色々謎すぎる。でもまあ、引き上げれば脆い石問題も解決しそうなので、引き上げる方向で。


 まずは白い女神を埋もれさせてる城壁の石の精霊から。


『えー。みなさん、そこからどいてもらえますか?』

『『『はりつきたい』』』


 ……。


 胸に? 腹に?


『別なところじゃダメか?』

一斉に返ってきた答えに困惑しつつ聞く。


『どこでもいい』

『ハマるところがいい』

『『『はりつきたい』』』


 はりつきたいのはわかりました。


『じゃあ、海水と波の精霊、大気の精霊、そして君たちに俺の魔力を分けるから、白い女神以外ではりつきたいところにはりついてくれないか?』

どこがハマるのかわからんけども。


 今は崩れて半分はばらばらだけど、元は石同士を組んで作ってあるものだから、組み上がりたいというか、石同士くっついて、ハマりたいのかな? 


『わかった』

『願った』

『ハマった』

『♪』

『転がすよ〜転がすよ〜』


 城壁の石の精霊が了承の返事をしたとたん、様子を見ていた精霊たちが一斉に動き出し、俺の魔力を少しずつ掠めながら楽しげに作業を始める。


『すみません。待って! そこならせめて少しずつに! ゆっくりに! 一度にそれはああああああ!!!!』


 どこにはりつくか聞かずに言ってしまった俺の責任かこれ?


 崩れた城壁は、今まで崩れた白い石と合わせ、逆回しのように半島に戻ってゆく。いや、礫だったよね? くっつくの!? さざれ石どころじゃないぞ! あと結構魔力持ってかれてる! 


 待って、待って! さすがに一夜にして城塞が出現するの困る!

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