第560話 アミジン

 アミジンに来ています。マリナの南、竜の手っぽい半島です。マリナも入り組んだ地形で爪みたいになってるので、マリナが右手、アミジンが左手って感じ。


 結局土地をもらうことになったので、早速ソレイユたちと一緒に契約に来た。爵位とか面倒なものがついてない土地なんでいいかなって。まあ、急いだのはアミジンの人たちがギリギリな感じだったからだけど。


 ギリギリなのにギリギリまで余所者を入れることに、喧喧囂囂やってたみたい。


 アミジンは半島だけど、国としてはもっと内陸まで続いてる。巨石の時代に栄えた地だったけれど、大きな岩の精霊が去ってからは人も減って細々と生活している感じ? 


 国といっても昔、国だったからなんとなくそう呼ばれているだけで、今はほとんど定住も、個人で土地の所有もせず、遊牧しながら家族単位であちこち移動しながら過ごしているというのが正解かな。


 そして家族と言っても、大家族というか、一緒に移動する血族全部まるっと家族って言ってるっぽい。


 旱魃の影響で羊や山羊の餌が減り、食料の備蓄――この場合家畜が備蓄だったようだが、それも危うい状態だそうだ。家族の家長が集まって、話し合いをし、助けを求めることに決め、求めた先が最終的に青の精霊島だった。


 で、かりんとう饅頭ちゃんの影響が大きかった海に突き出た半島の海沿い、手の部分を丸っと、小麦の代わりに貰う話だ。


 ソレイユなんて、大きな船の入れる深さのある湾が欲しくてしょうがないのに、遊牧の民に海は必要がないらしい。


 もっとも、過去にナルアディードから溢れた商人たちが、頑張って港を作ろうとしても上手くいかなかったそうだ。大きな岩の精霊がいなくなってからは、崩れやすくなったみたいで、海辺に色々建てられなかったらしい。


 そもそも巨石文明時代の城が、海に面したところにあったのに、がぼっと崩れて海の中に沈んだそう。で、崩れたせいで、ドラゴンの手みたいに地形も変わった――というのが、精霊図書館調べです。


 本で調べただけではなんなので、現地の方に聞いてみましょう。アミジンの石の精霊さん?


『僕ねぇ、火に焼かれるのよ』

『僕たちねぇ、火に崩れるのよ』

『僕ねぇ、木に穿たれるのよ』

『僕たちねぇ、木に割られるのよ』

『僕ねぇ、風に溶けるのよ』

『僕たちねぇ、粉になるのよ』


 現地からは以上です。


 変な遊びは置いといて、ここでは巨石の時代、火の時代、木の時代、風の時代っていう推移かな? でも他の場所より弱体化というか、瓦解がひどいな。いや、それも人間の感覚で言ってなんだけど。


 カーンの国といい、栄えてたところが徹底的に平げられてる気がする。栄えてたところは、その時代の精霊の力が一番強かったところ、であってるか?


「では、遊牧は竜の手の平の中心までで、あとの竜の手はこちらで自由にさせていただきます」

「うむ。アミジンに住む、家族という家族、その取り決めに従う」


 家長の代表者が契約書にサインして血判を押し、次いで発言権のある家長に回してゆく。血判という時点で遠い顔になってる俺です。


 なんか掟とか厳しそう。掟が厳しいのは、自然が厳しくて、生きていくのが大変だからってわかるんだけど、俺はゆるく生きたいです。


 というか、ソレイユ慣れてない? 傷つけた指を消毒するためのアルコールを、清潔な布ともども回してるんですけど。


 戻された血判状……じゃない、契約書をソレイユが確認し、俺に回してくる。契約書はアミジン側の様式。俺も血判しなきゃダメ? そういえば猫船長も血判だったな……。すぐに治るんだけど、嫌なものは嫌という。


 でも雰囲気的にやるしかなさそうなんで、ぴゃってしてべってして、すぐ治した。


「おおお……」


 そして出てくる何か。知らない精霊なんですぐ消えた。


「あの姿は我らが血の精霊……」

「語り部の語る、薄れた古き記憶が蘇ったぞ!」

「我らの地を、よそ者に明け渡すこと、反対したことを撤回する!」

「我らの地と血が、受け入れている」

「なんということだ」

「この目で見るとは……!」


 なんかアミジンの人たちにとって、特別な精霊だったようだ。やっぱり自分たちの土地に他の人を入れるのって、反対する人はいるよね。契約まで漕ぎ着けても遺恨は残りそうなこう……すでに解決したっぽいけど。


「えーと。よろしくお願いします? よければこれからも交流してもらえれば。落ち着いたら、竜の手のひらこのばしょに定期的に市を立てますので、固く考えずにのぞきに来てください。まずは小麦からですね」

にっこり笑って言う。


 余裕がある時は、マリナやナルアディードから、定期的に商人が来て物々交換していたが、旱魃がひどくなってからは、途絶えてしまったそうだ。外からは主に食べ物、アミジンからは織物と刺繍、鹿と狐の毛皮。


 食べ物持ってきますので、ゆるくお買い物交流でお願いします。


「約束の小麦はそちらの麻袋です、開けて中身をお確かめください。それと塩と砂糖も用意しました、こちらは今日の約定を祝ってお贈りいたします」

ソレイユが言うとアウロと時々みかける従業員が、荷にかかっていた布を取り去る。


 ちなみにメール小麦です。もう、小麦と交換が間に合わなくなってきたので諦めました。メール小麦とバレなさそうだし、ただの小麦ってことで一つ。


 ソレイユ、余裕そうに進行してるけど、港が作れないもんだから、実際には頭を抱えてるんだよね。とりあえず土地の造成は俺がやるつもりでいるんで安心してください。


 ここで酒、酒を造りたい。葡萄か、サトウキビか――度数の高い酒希望です。いやもう、次の地の民との宴会には間に合わないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る