第559話 穏やかな朝

「おう! 宴会の了承を得た!」

「祭りだ!」

「準備だ!」

「島のソレイユにふるまおう!」

「いつも貰ってばかりだからな!」

「たまには我らがふるまおう!」

「硫黄谷に声をかけろ!」

赤銀しゃくぎんの谷に声をかけろ!」

「黒炭のほらも参加したがっていたぞ?」

「この際、全部呼べ!」

「獲物を持って来た者は受け入れろ!」

「酒を持って来た者は受け入れろ!」

「ハーヴグーヴァはどこだ?」

「パフィンの飛ぶところだ!」

「海の怪物を島のソレイユに!」

「海の怪物を島のソレイユに!」


一瞬ドラゴンを狩りに行かなくちゃならないかと思ったが、地の民がお祭りのご馳走を用意してくれるようです。


 というか、ハーヴグーヴァって何だ? 今いる部屋より大きな、鱗を持った怪物っぽいものの豪快な丸焼きが頭に浮かんでるんだが。


 あと島のソレイユ連呼のおかげで、俺の頭の中でその丸焼きの前にいるのが途方に暮れてるソレイユです。後ろでファラミアが通常営業で給仕してるとこまで浮かんだ。


 珍しい食材と料理は大歓迎なんだけど、何を食べさせられるんだろう、少々不安だ。


 普段はパンと肉、酒! みたいな素朴というか単調な料理だけど、お祭り用は色々な食材で色々作るみたい。少なくとも海の怪物がメインで入ってくる。うん、怪物。ドラゴンいるし、いるよね?

 

 ハーヴグーヴァは想像がつかないけど、クラーケンはイカなのかエイなのか、ファンタジー世界だからやっぱり怪物なのか考えながら、地の民と一緒に酒を飲んで肉を食べる。


 美味しいんだけど、どんどん注がれ、どんどん盛られるから、味わう暇がない。地の民たちは自分の体重以上に飲んでる気がする。


 そして家に帰って、リシュに嗅がれるプレイ。


「ごめん、リシュ。酒臭いだろ?」

ついでに暑苦しい匂いもしているかもしれない。なにせ地の民は酔っ払うと肩を組んだり叩いたりで引っ付きたがる。


 見上げてくるいつものつぶらな瞳が、俺を責めているようだ。リシュの頭を撫でて、風呂に向かう。酒に酔って風呂に入ってはいけないんですよね、わかります。


 でもこの体は死ぬような状態異常にはかからないので、ちょっとふわふわするけど、それ以上いかない。溺死の心配もないので、風呂にどぼん。早く匂いを抜きたい。精霊に願えばさっさと抜けるんだけれど、ここは人間らしく甘んじて。


 しばらく浸かっていたけど、ふわふわも消えないし匂いも消えなかったので、諦めておやすみなさい。ひんやりしたシーツに潜り込むと、ふわふわしたまま眠気が襲って来た。


 一晩経てばスッキリ。


「リシュおはよう」

ベッドの隣の籠の中、手を伸ばすとリシュが指先を舐める。


「さて、散歩だ!」

がばっと起きて、動き出す。


 俺もリシュも水を一杯飲んで、日課の散歩――山は異常なし。畑はパル、果樹園にはカダルとハラルファ、水路にはイシュとミシュト、異常なし? 神々がいるのは通常扱いでいいんだろうかと、頭の片隅で思いつつ。


 神々はそれぞれ自分の領分のものを愛でるのに忙しそうなので、ふたことみこと話して別れる。ばたばたはしてないけど、愛おしそうに触れたり眺めたりしてるんで、邪魔しちゃ悪そうなんで。


 畑と果樹園、水路の水が輝きを増した! 小さな精霊と違って、神々クラスだからだろうか? 漏れ出てる力が洒落になりません。やめてもらいたいんだけど、ここを気に入ってくれていると思うと言い出せない。久しぶりだからね。


 もう今作ってる分の野菜と果樹は、カヌムに持っていくのは諦めよう。……地の民のところと島ならいいだろうか……。


 イシュが力を注いだせいか、ミシュトが輝く飛沫で遊んだせいか、水路の土手にタンポポが一面に花を咲かせている。タンポポって夜は花を閉じて、陽の光を浴びて開き始めるんだけど、ミシュトのお陰か早朝だというのに満開。


 一斉に咲いたせいか、柔らかそう。一部なんかガクが黄金がかってる気がするけど、気のせいだ。よし、タンポポ蜜でも作るか。


 【収納】から籠を出して、タンポポの花を摘み取る。籠いっぱい採って帰宅。リシュをわしわし撫でて、ブラッシング。引っ張りっこで少し遊んで、リシュのご飯用に水と肉を出す。


 タンポポはその間、籠ごと【収納】。リシュとの日課が優先です。よし、俺も朝食にしよう。


 焼きおにぎりの焼くだけにしたものを【収納】から出し、味噌汁を作るために火を付ける。


 えーと。


「おはよう?」

「うむ」


 ――ヴァン。火の神なのは知ってるけど、台所に出るのは甚だしくイメージが違うんでやめてください。せめて向こうの暖炉にですね? ここに出られるとすごく料理が作りづらい!!!


 暖炉に火を入れることで解決しました。ヴァンもさすがに場違いさは感じていたらしい。後で納屋でガラス瓶でも作ろう。


 落ち着かない朝食を終えて、タンポポに取り掛かる。まず花を洗うんだけど、ゴミは落として花粉はなるべく残すという難易度の高いミッション。でもこのタンポポは一斉に咲いたばかりなんでさっと洗えば条件達成。


 摘んで洗っても花弁が元気いっぱい綺麗に開いたまま、さすがイシュとミシュト混合の怪しいタンポポ。水とレモン果汁を加えて煮る。煮汁が薄茶になったら火からおろして、冷暗所で明日まで放置。――おい、薄茶にならないぞ? 金色だぞ? まあいいか。


 明日になったらして、砂糖を加えて煮詰める。それでタンポポ蜜の完成。メールに行くときのお土産にしよう。

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