第558話 宴会準備

 料理よし、毛皮で裏打ちした防寒具よし、耳当て付きの帽子よし。銀と金の装飾もほどほどによし!


 地の民のところにお邪魔する前に、北方の民たちの交易の島でお買い物です。最初に行った時は黒ローブで浮きまくったけど、今回はそこで買った服と靴だ。


 何度かふらふらして買い物のコツがわかった。というか、最初に聞いてたんだよね、銀の腕輪は貨幣の代わりにもなるって。要するに金と銀の装飾品をある程度つけてないと、敬遠されるみたい。


 交易の島は中原のものもだいぶ入ってて、金貨銀貨でやりとりしてるんだけど、やっぱりある程度身につけて見せておいた方が、相手も安心するらしい。


 そういうわけで慣れない装飾品がじゃらじゃらです。金の鎖に金のコインをたくさんつけたようなネックレスを長さを変えて3本、指輪が2個、腕輪が金と銀で数本。


 準備完了して【転移】、途端に寒い。


 ダンちゃんに付き合ってもらうべきだったかと思いながら、市場に紛れ込む。


 一番多いのはずんぐりむっくりに感じる髭面の人たち。太ってるんじゃなくって筋肉なんだよね、厚い布やら毛皮の服でわからないけど。


 次に多いのは中原の文化と混じったような服の人たち。こっちは体型も少し細くなる。俺より筋肉ついてそうだけど、一番多い人たちに比べれば。


 で、最後に半裸に毛皮マントの、背が高くて筋肉ついてて、腕が他と比べて長い人たち。女性もムキムキ半裸なんで目のやり場に困る。


 実用第一みたいな布なのに、刺繍が綺麗。いや、この刺繍も第一に丈夫さを増すためのものなんだろうけど。分厚い布、しかも裏に革付きときては、刺繍にはとても力が要りそうだ。


 さすがに全部は貫通(?)してないけど、部分部分では刺繍糸が裏にも出ていて、表よりも簡易だけど裏にも模様がある。


 服も天幕も使う予定がなさそうなので、帯だけ何本か買う。壁に飾るか、サイドボードに敷こう。ああ、ソレイユに買っていったら珍しいから喜びそうだ。


 アッシュには剣のお手入れセットを。良い砥石と仕上げ用の鹿の皮。この辺りは鉄の産地で、剣や槍なんかも売ってるけど、みんな精霊剣を持ってるんで需要がない。


 ここは鉄製品が豊富。鉄鉱石も取れるみたいだけど、大部分はオレンジ色の土から作るそうだ。沼鉄鉱、湖鉄鉱とか呼ばれる水辺にある鉄で、北の民に黄金の水とか黄金の土とか呼ばれるんだそうだ。こっちで見たことないけど、日本のベンガラみたいな色なのかな? 赤錆? 


 それを焙焼して粉っぽくして、薪の上にのっけてまた焼いて溶かして粗鉄にする――と地の民が言ってた。これはこれで水の精霊の影響か、マーブル模様の変わった刃ができることがあるそう。


 とりあえずオレンジとか赤い土は目立つから、鉱山掘るより分かりやすいし、手間がないのかなと乱暴な理解をした俺です。場所によっては土が凍ってそうだけど。


 市場をうろついて、良さげな酒をあちこちで購入。1箇所で買うと【収納】がですね……。買い食いに魚の揚げたの。


 大きな鱒っぽい魚を豪快に丸揚げにしてたのでつい買った。内臓を抜いて、両面から1センチ間隔の切れ込みを入れて揚げたもので、売ってくれる時は切れ目のちょうどいいところから、ハサミで5センチくらいに切り分けて4つ入れてくれる。千切って食べるんだけど、程よい塩味とカリカリ感、白身はふんわり。


 さて、酒も買ったことだし、地の民の集落へ。うっかり食べちゃったけど、宴会確定でした。ドラゴンの肉の後だから、肉のグレードにがっかりされるのではと心配だがしょうがない。


「島のソレイユ、よく来た!」

「歓迎しよう、兄弟!」

「歓迎だ、兄弟!」


 ガムリを始め、地の民たちが全力で歓迎してくれるので、ちょっと気恥ずかしいような気持ちになる。


「これは差し入れ」

樽酒と、北の大地で買った瓶酒、料理を出す。


「おお、宴会だ!」

「宴会だぞ!」

「宴会だ!」

そう言いながら、俺の出したものをバケツリレーのように奥に運んでいく。行き先はいつも飲み食いする広間だろう。黒鉄の竪穴は今日も騒がしい。


 どんどん進む酒と料理の後を、地の民に囲まれてゆっくりついてゆく。最近、地の民の性別がようやく見分けられるようになりました。あと、髭が短いの、これまだ10代なんだなってことも。


「頼んでおいた小屋の進み具合はどう?」

隣を歩くガムリに聞く。


「おう、出来上がるぞ! 島のソレイユに立ち会ってもらおうと思ってな、最後のパーツをつけずに待っていた!」

「待っていた!」

「島のソレイユを待っていた!」


 どうやらもう完成のようだ。


「それで相談だが、他の集落の奴らも呼んで、お披露目したい!」

「他の集落の奴らも関わっている」

「道具に!」

「彫刻に!」

「美しい曲線に!」

「磨きに!」

相変わらず地の民たちとの会話は、輪唱のように声が広がってゆく。


「いいけど、じゃあ集まる日を決めてくれるか? 小屋を見るのは俺もそれまで楽しみに取っとく」


 そういうわけで本日はただの宴会。改めて出直すことになりました。肉の調達しなくっちゃ! 地の民の好みはかみごたえのあるタイプだから、和牛くんはメインに選べないんだよね。


 どうしよう? 魔物化したドラゴン狩りに行く?



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