第556話 島の店

 国造りのハード面は楽しいんだけど、政治や人のこととなるとあまり関わりたくない。青の精霊島でソレイユたちにも言ってるけれど、いざとなったら俺は逃げるから。


 建物や物は残せるけど、他との繋がりを作るのは、俺じゃダメだと思う。それは置いといて。


「いらない」

「だわよね」

島にソレイユから色々報告を聞きにきたら、爵位を領地ごと買わないかの打診を聞かされた。


「土地はともかく、なんで人の国の爵位なんかもらって嬉しいと思うんだろう」

それを名誉に思えるような国ならともかく、この世界で見えるとこだけでもクリーンで素晴らしい王政敷いてます! なんてところは見たことがない。


 自由にやってるのに何が悲しくて人の下につかねばならないのか。


「旱魃のおかげで立ち行かなくなってるところが多いみたいで、爵位を売りに出す貴族が増えてるのよね。その割に『精霊灯』が欲しいと言ってくるところはまだあるし、一部が貯め込んでるのよね」

全体的に景気が良くなってくれないと、清々しく商売できないわ、と、ソレイユが言う。


「マリナやこれから付き合いが見込まれる国に、少し入れておくか」

「将来役に立つかもしれませんし、表に出ない情報が拾えれば防衛の役に立ちます」

考えてる顔のキールとアウロ。


 入れるって、スパイというかこの場合草の者? 爵位買ってその国に住ませるの? というか何年計画?


「できれば人間に埋没できるチェンジリングがいいが、難しいな」

「長く人と一緒にいれば、どうしても違和感は抱かれます。その違和感を勘違いして、裏を探られる場合も多い」

アウロは俺への説明も兼ねているのか、時々こちらを向いて話す。


「面接者の中から良さそうなのを見繕うか」

「人間も、この島に関わりのない者をスカウトしましょう」


「いや、まあ、必要だと思うならやってもいいけど。爵位買うの自体は犯罪じゃないだろうし。こっちに火の粉が飛ばないようにな」

答えを求めるように二人が俺を見てきたので口を開く。


「では選別を終えたら極秘裏に対面してもらおう」

悪そうな顔で笑うキール。


「我が君に忠誠を」

手を胸に頭を下げてくるアウロ。


 そこも俺なの!? 


 思わずソレイユを見ると、どこかどんよりした目が逸らされた。ああ、やっぱりソレイユもこの二人はやりすぎだと思ってるんだ?


「販路の確保が、国の保全の確保になってる……」

ボソリと呟くソレイユ。


 そっち!? そして、商売のためならスパイも潜ませるのもアリ?


「おかしな条件のない土地なら、増やしてもいいかしら?」

「それはもちろん」

野菜は色々作りたい。


 ついでに家屋も作って物質度(?)上げたいです。自分のために。


「マリナはさすが『王の枝』を掲げて、ナルアディードを持つ国らしく、よく保たせてるわ。代わりにタリア半島の国々やアミジンの方は物資が回らなくって、危ない地域が多くて。お金もないだろうから、小麦の代わりに土地をもらうことになりそうだわ」

ため息を吐くソレイユ。


 アミジンってどこだ? 『精霊図書館』のあるテルミストの傍だっけ? 後で確認しよう。タリアなら野菜がいっぱい作れるし、テルミストの傍ならサトウキビがいけそうだ。


「小麦はどう?」

「メール小麦は運んでくる前に、売り先の算段済みだったけれど、小麦はまだまとまらないわね。買いたい国は多いけれど、買えない国の方が被害がひどいんですもの」


 なるほどそれで土地で支払いなのか。


「量が少なくなっても、なるべく広範囲に行き渡らせたいのよね? ニイ様の話だと、旱魃は落ち着くんでしょうから、それまで保つくらいに」

「うん、面倒でもよろしく」


 ちなみにファラミアはソレイユの後に立ってました。ソレイユが叫んだり倒れたりヒクヒクいったりしなかったので、気配がなかっただけだ。


 今月分の焼き菓子を差し入れて、ソレイユに面倒ごとを押し付け、俺は街で買い食い。いや、買い食いは大事、大事なことなんだ。


 『精霊の枝』がある広場に面したレストランは、通常予約が必要。俺の場合は突然利用しても平気だろうけど、慌てさせるのもなんなので今回はパス。


 観光客に混じり、しばらく路地を歩いてソレイユとアウロに教えてもらった小さな店に入る。


「いらっしゃい。カウンターが空いてる」

手を動かしながら店主が声をかけてくる。


 言われた通りカウンターに座ると、水が運ばれてくる。これは、俺が宿屋とレストランにサービスとして勧めたことが広がってるらしい。他の国は水が有料な場所が大半だけれど、この島はどこにでもあるしね。


「ムール貝、手長エビがあるよ!」

「じゃあ、手長エビで」

「おう」


 案内してくれたのは手伝いらしい子供で、返事をくれたのは店主だ。そしてすぐに運ばれてくるミートボール。


 いや、ここメインがミートボールで席に座ると自動で運ばれてくるんだ。事前に聞いててもびっくりするけどね。ただ焼いたり煮たりするだけでいい手長エビとか貝類を、ミートボールじゃ足りない人用に少し仕入れてるんだって。


 少し小ぶりのミートボールにマッシュポテトがどんと添えられ、他にキュウリのピクルス、トマトが乗っているワンプレート。俺には普通だけど、最新の野菜が添えられてて、知る人ぞ知る、らしい。


 広場に集中しないように何軒かこういった店を路地に配置しているんだそうだ。住人にも大人気だそうで、昼には早い今の時間でも、カウンターしか空いてなかった。


「この赤いの、トマトだっけ? ようやく食えた!」

「俺はこのじゃがいも、ナルアディードでも食ったな」

「この酢漬けも美味いぜ」

客の声を聞きながら、料理を口に運ぶ。


 赤ワインが香るグレイビーソースと、ミートボールの歯応えがいい感じ。なお、野菜は普通な模様。

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