第555話 一区切り

「ところで、俺が名前を呼んで契約をしてしまったんでしょうか?」

契約というか、名前の上書きで縛ったというか、俺の今の状態でいうと眷属化したというか。


 一応覚悟して――魔石を持って全員の名前を呼んだんだけど、ごっそり魔力は減ったとはいえ、倒れるほどじゃない。ネネトとスコス、エスと続けて契約した時よりは楽。


「我らのうち何人かはリシュに直接降されておるからの」

意味ありげに笑って周囲を見渡すハラルファ。


 バツが悪そうに視線を逸らす何人か。


「ジーンに名前を呼ばれること、受け入れてるから」

にこにことミシュト。


「他に降ることに抵抗があるものどもは、負けるのを承知でリシュに挑んだのもおるのう。軽く考えればいいものを」

「ルゥーディルなんか、リシュの眷属になりたくって正面から行ったのに、スルーされたんだから!」

言い合う二人。


 思わずルゥーディルを見て、足元のリシュを見る俺。目があったリシュがこてんと首を傾げて見上げてくる。よし、よし、水を新しいのにかえとこうな。ドラゴンの骨も出そう。


「ジーンは私たちの扱い何も変わらないの、わかってるのにね〜」

ミシュトが蜂蜜をスプーンで口に運んで嬉しそうにしている。


 どうやら守護してくれた神々は、全員俺に名付けられることが嫌ではなかったらしい。ただ、「名付けられる」こと自体に抵抗がある――あった神々はリシュに降された、ということらしい。


 リシュ最強。


「ヴァンも呼ぼうか」

「やめておあげ」

せっかくみんないるのだから、と思って口にしたらパルに止められた。


「あれが一番バツが悪かろう」

カダルが言う。


「戦の神が負けちゃ、格好がつかないね。剣の弟子の元につくのも」

焼き野菜に塩を慎重にかけているイシュ。


「うふふ。面白いの、たくさん見たわ」

「よい余興じゃった」

ミシュトとハラルファの悪い感じの笑顔を見て、ヴァンを呼ぶのはやめようと思った。きっとこの二人にからかわれたんだろうな……。


「ご馳走さま、またね」

そう言って食べ終えたミシュトが消えたのを皮切りに、それぞれが俺に声をかけて神々が姿を消す。


 まあルゥーディルはリシュにだったけど。久しぶりに家が賑やかだった。


「リシュ、ありがとう」

リシュの顔を両手で挟んでわしわしと撫でる。


 守護してくれた神々はエスのように古い神々というわけではない。たぶん、人間が中原ここに来てから生まれた神々なんだと思う。予測だけどね。


 メールが話を聞かれることを警戒したモノはきっとエスより新しくって、守護してくれた神々より古い。まあ、エスたちは人間がというかルフが現れるより前に存在してたんだろうし、な。


 リシュはどっちだったのかな? 今のリシュは俺の愛犬なんでどっちでもいいけど。古い精霊の中にもそのモノに名付けられてるとかもあるだろうし、新しい精霊だって俺や他の人に名付けられてるし。


 俺のこの待遇を神々を通して叶えてくれたのは、たぶんそのモノなんで、特に敵対するつもりもない。でも、どんな存在か知りたいと思う好奇心はある。大体何をしたいかわかる気がするけど、どこにいるか謎なんだよね。


 さて、風呂に入って寝よう。俺がやることは引き続き、生活水準の向上! 人の作った美味しいものが食べられるように、野菜と調理法を広める方向で。


 服とかアクセサリーとかは姉たちがやってるみたいだし。ちょこちょこ拾う噂では、揺れない馬車は失敗したらしいけど。


 ちなみに姉たちは口を出すだけで、実際に動くのはシュルムの国の人々。で、サスペンションを作ったわけじゃなくって、精霊を憑けることで揺れをなくして姉の要望を叶えようとして、いざ完成品納入したらダメだったんだって。


 人形に憑けた精霊が食われたんじゃないでしょうか? と話を聞いてて胸の中でツッコミを入れた俺です。


 まあ、あっちはあっちで俺に関わらないよう頑張ってほしい。戦いをふっかけるのはやめてほしいけど、シュルムが介入する前から、ずっと小競り合いを繰り返してるみたいだし、中原は落ち着かないね。


 俺は部外者だからノータッチ。争いが長く続きすぎて、今どっちが悪いとか意味がない感じだし、どの国の味方にもなれない。みんな早く落ち着いて暮らせるといいなとは思うけど。


 とりあえずジャガイモを広めて、飢える人は減らしたい方向。直接やると目立ちすぎるんで、ナルアディードの商人に権利ごと売ったんだけど、割と順調。


 青の島経由のトマトもいい感じだし、早くあちこちの料理人が使ってくれると嬉しいんだけど。精霊がいるから情報が回るのは早いけど、現物の輸送は時間がかかるから、カヌムの方まで広まるのは年単位だ。頑張ってほしいところ。


「リシュ、おやすみ」

ベッドから手を伸ばして、リシュをなでおやすみなさい。

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