第554話 今の状態

 ヴァンも気まずかったのかダイヤを食べた後、すぐに姿を消した。夜だし、ルゥーディルを呼んでおこうか。いや、契約状態の精霊を出入り自由にすればいいのか。……エスとかこないよね?


『ルゥーディル、カダル、イシュ、パル、ミシュト、ハラルファ。来てやってもいいと思うならどうぞ』

個別指名にしました。


「よ〜やくこれた!」

空中にぱっと現れるミシュト。


「随分時間をかけたのぅ」

すーっと姿がだんだん濃くなるハラルファ。


 同じ光属性でもやっぱり少しずつ違う。


「自身も承知の結界に阻まれるとは思わなんだ」

やれやれという感じのカダル、こちらはテーブルの側。


「畑の様子も気になるねぇ」

パルが現れたのは台所、流しにある蕪を持ち上げしげしげと眺める。


「リシュに負けたヴァンならともかく、僕たちまで君に取り込まれるとは思わなかったよ」

イシュも台所、来た早々ちょっと辛辣。


 ああ、司るものがそばにあったほうが呼び出しやすいというか、来やすいのか。


 ルゥーディルがエクス棒を齧るリシュの隣を無言でキープしてる。うん、そうだった。以前は夜になると闇に紛れていつの間にかリシュを眺めてて、怖かった。


 さすがに寝室は遠慮してくれてたみたいだけど、暖炉の火と俺のライトの魔法が光源で、暗がりは家のそこかしこにある。最初は部屋全体を明るくするようなライトを使ってたんだけど、カヌムで過ごすうち暖炉の火に慣れた。今はライトで明るくするのも作業をする場所だけ。


 瞳の色も黒から紫になったからね、日本人だったころより光が眩しく感じるのもあるかも。


「すみません、俺もずっと守護のままだと」

俺が力を増すほど守護する神にも力が流れこんで強くなる――けど、リシュが元気になるように力を振り分けてたし、さらに7人に分割なんだよね。


 うっかり強くなりました。


「守護からの逆転はほとんど聞かないね。でも嫌ではないよ」

パルが言う。


「私も〜。ここに来れないことの方が嫌だったわ」

笑顔のミシュト。


 他の神々もこうして来てくれたからには、思うところはあっても良しとしてくれたのだろう。


「ほとんど、ということは以前にあった?」

話しながらテーブルに神々の好物を用意。


 パルに籠いっぱいの焼き立てのパン、ルゥーディルにワイン、カダルに薬茶、ミシュトに蜂蜜、ハラルファに皿に浮かべた花々、イシュにエリチカの塩の結晶。それぞれがそれぞれの顔でテーブルにつく。


 なお、あんまりなのでうちで採れた野菜の素焼きも添えてあります。


「人形でもないのに精霊を食らう者がおった。精霊たちの力を丸ごと取り入れ、守護した精霊よりも強くなり、食らってそして石になったはずじゃ。儂もその一度しかしらぬ」

カダルが薬茶を飲みながら渋い顔をする。薬茶が渋いのか話の内容が気に入らないのか。


「やっぱり強くなりすぎると石に?」

「強くなりすぎるというより、偏ると、だ」

ぼそりとルゥーディル。


「一つの属性に偏るとく、二つの属性に偏ると早く――精霊せいしんに偏り過ぎれば自身が石になる。そしてその上限は世界が物質に満ちていれば上がる」

俺と視線を合わせないままルゥーディルが続けて言う。


 視線が合わないのは、言いづらいことをはっきり伝えているから、ではなくって視線の先にリシュなんだけどね。リシュは完全スルー。


 取り込む属性が多いほど強くなっても大丈夫――というか、属性同士影響しあって弱まったりするんだっけ? 


「世界のバランスもあるが、それはそなただけの話ではないしの。勇者の国の人形が、腹に溜め込んで世界から精霊を隠しておる」

ハラルファが皿から花を掬い上げ、顔に近づける。


「西と南では物が増えているけれど、中央では物が減っている。西と中央で、ナミナの眷属と黒い精霊は増えているけれど、他の精霊は減っている」

イシュが塩の結晶を齧る。


 大丈夫、さらさらした塩でなければビジュアルから受けるダメージは少ない。体に悪そうって思うのは人間の感覚、人間の感覚なんですよ……っ!


「ジーンはそのままで大丈夫!」

笑うミシュト。


「世界の心配もそうせずともよろしかろう。いささか精霊にかたよっているが、これは元から」

「そのために勇者を喚んだんだもの!」

パルにミシュト。


 そういえばこっちに喚ばれた理由はそんなのだった。


「そなた自身が精霊に偏っている。人と関わること、人の世界の――人の手を経た物を食うこと使うこと。世界のために新しい物を増やすこと、物を生み出す人を増やすこと。その辺りが効率がよい」

ルゥーディル、リシュに視線を釘付けにしたままワインを優雅に飲んでいる。


 ルゥーディルは変た……おかし……いや、おれとは違う感覚を持ってる精霊なのに、割と分かりやすくアドバイスをくれる。


 リシュは可愛い、リシュは可愛いよ? どうしよう、建物の中は出入り禁止にしたほうがいい? でも窓にはりつかれるのも怖いよね? 


「ありがとう。とりあえずこのまま頑張るよ」

うん、アドバイスもらったし、リシュは気にしていないみたいだし、出禁はやめておこう。俺がちょっとビクッとするくらいだし。


 とりあえず島のレストランで週一で食事するか。あ、ディーンにオススメの肉を焼いてもらおう。

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