第553話 不在の理由
精霊ノートが扱えるのは、綴られた名前の精霊たちがまとまっても精霊ノートよりも弱い時。そしてなんか本の厚さを揃えることに拘ってるようで――強い精霊が混じった時とか、別に
精霊ノート自体が強くなっていっているので、扱える範囲も多くはなってるんだけど。
「ああ、これ」
「なあに?」
ハウロンに小袋に入れたスイカの種を渡す。
「水代わりの方のスイカの種。元のからあんまり変わってないけど、同じ条件で実をたくさんつける。必要なところに
俺はエス川を行き来するコースしか知らない。
「ありがとう。山羊を養いながら、塩の谷に旅するために使わせてもらうわ」
そう言って遠慮なく受け取るハウロン。そっと俺への説明を入れてくるあたり、さすが大賢者。
「塩の谷は場所で言ったらエスの方が近いかもしれないけれど、砂の砂漠と嵐、海からは山で行けないの。随分遠回りになるけれど、決まったルートでしか入れない場所なのよ」
「秘密の場所?」
特定の人しか入れないような、何か魔法がかかっているのかもしれない。もしくはその塩の谷の精霊が人の出入りを拒んでいるか。
「そう、秘密。塩が採れる場所は大抵ね、エリチカが特殊」
エルウィンがいる塩鉱は、観光地になっている。
「エスに住み着いていた遊牧の民のうち、またその生活に戻りたいと願っている者たちを迎え入れる算段よ。塩の谷への最初の旅は、アタシも一緒に行くつもりでいるわ」
「スイカの道でバレないように」
言わなくても分かるだろうけど、一応警告。
スイカを辿っていったら隠してた塩の谷にたどり着いたとか、笑い話になってしまう。
「ええ、気をつけるわ」
笑顔のハウロン。
「じゃ、このへんみんなに夜食に」
パンを始め、料理を数品置いて『家』に帰る。
レッツェに会う前に退散しないとね、なんかバレるから。俺の隠してるつもりがないものまでバレるし。
幸いというか、冒険者ギルドのほうでここ二、三日、昼から夜中にかけての仕事を受けてるみたいで留守だけど。
ディーンとクリス、アッシュも魔の森に魔物が増えてるんで忙しい。シュルムが中原に本格的に介入したから、黒精霊が増えてるんだろうね。
大規模魔法でやらかした程じゃないのかもしれないけど。三本ツノの調査にみんなで行ったのがちょっと懐かしい。またみんなでどこかに行きたいな。
あ、そういえば、そのやらかした国がシュルムの侵攻方向とか言ってなかったっけ? どうなったんだろう。ハウロンが調べておくと言ってた気がしたけど。
それにしても、ハウロンもカーンも勇者たちとニアミスしそうでちょっとドキドキする。それを想定して、俺との契約を破棄しないことを選んでくれたんだろうと思うと、さらにドキドキする。
シュルムの間者とかもいるだろうし、二人とも目立つから。スカウトするには目立った方がいいこともあるんだろうけど。
レッツェやディノッソたちと違って、ひどいことになってもカーンは国を捨てて逃げることはしないだろうし、ハウロンもカーンに従うだろうし、逃げ場の提供するなら国ごと受け入れられるようじゃないとダメだよね。困る。
「リシュ、ただいま」
駆け寄ってくるリシュを手の中に迎え入れてわしわしとなでる。絶対的に安全な『
ここもきっと、俺より強い存在には
ところで神々たちに最近ここで会わないんだけど、なんとなく思い当たることが一つ。
『えーと。もしかして、ヴァンこられる?』
リシュのはんぺんのような耳をむにむにしながら恐る恐る言葉を発する。
これで何も起こらなければ恥ずかしい独り言でバツが悪いし、姿を消していたヴァンが来たら来たでバツが悪い。
『……』
で、来たんですよね。すごく仏頂面で視線を逸らしたヴァンが。
「こんばんは」
「ああ。――呼ぶならもっと早く呼べ」
もしかしなくてもこれ、守護してくれてた神々よりうっかり俺の力が勝って、この場所の結界に入れなくなってましたね?
『リシュが俺に許可も不可も出す気はないようだ、上位のお前が望まぬと入ることすら叶わん』
やっぱり。というか、ヴァンに至ってはリシュの配下になってる気配がそこはかとなく? そういえば可愛さ選手権でリシュに敗北したんだよね? あれで上下が決まってしまったのか?
とりあえずどっかの火山と、アヴァンチュールな日々を過ごしていたわけではなさそう。
「とりあえず、ここに出入り自由で、と伝えておけばいい?」
「……うむ」
でかい精霊にこられても目立つし困るので、ここに強大な精霊の訪れは遠慮してもらっている。今まではその結界を張る側だった守護神たちが、
一番初めにリシュに負けたことがきっかけでヴァンが、ヴァンが俺の――というかリシュの――眷属になったことで、他も力のバランスが崩れて、みたいな感じだろうか。
神々の強さとか、リシュに負けたのか、他の神々に負けたのかでも守護から変わったタイミングは違いそうだけど。
「確かめるためで特に用事はないんだけど、ダイヤ食べますか?」
「……食う」
なんとも微妙なやりとりになるのはしばらくしょうがない。リシュは我関せずと、俺の足にジャレついてる。
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