第548話 金の……

 とりあえず聞き取りしつつ、希望を心に留めておく。米以外は完全に嗜好品のつもりでいたからちょっと目から鱗。ちょっかい出すなら住む人の要望は聞かないとね。


 というわけでスイカは甘いやつと甘くないやつの2種類つくることにした。甘くない方は楕円形か白っぽくしてもらって見分けがつくようになるといいかな。


 ナツメヤシはもう植えているそうだ。あれは食料でもあるけれど、水が砂に埋もれないように防砂林の役割もある。ベイリスがいるから砂の心配は無用だけど、それに頼って対策をしないのもよくないってことで。


「そういえば、シュルムはまた一つ国を手に入れるつもりのようよ」

「また?」

 一回目はなんだっけ? 


 ああ、移住した元国民が虐げられてるとかなんとか……。しかもシュルムの話ではなく、中原の小国同士の話で、そこに首を突っ込んでってるとか聞いたような?


「ええ。今度は一度も領土だったことのない鉱山を、自分の領土だと主張し始めた国の後押しの形ね。鉱山所有の主張自体もシュルムが考えたんでしょう」

ハウロンがスイカを齧りながら言う。


「割と無理やりだな?」

「難癖よね。だんだん手を貸す理由も怪しくなってるし、まあ、以前からシュルム自体が中原を征服したいだけなのはわかってるんだけど」

肩をすくめるハウロン。


「建前も取っ払って、隠す気がなくなってきたな」

コーヒーを飲みながらレッツェ。


「雑!」

「記録なんざ勝てばいくらでも書き換えられるからな。その記録自体、読めるやつら少ないし」

識字率低いもんね。


「俺は今回複雑だな。目をつけられた国には、エンの【収納】のことを知ってるヤツがいる」

「農家やってたとこに来たあれ?」

あのシヴァが倒した暴漢集団。


 だったら潰れてしまえと思う。シヴァとバクを人質にとって、ディノッソに殴る蹴るしてたし、多分命令を出した上もろくなもんじゃない。いや、俺の基準でいうとまともな国の方が少ないのか。


 どの国にも味方をしたくない何か。でも親しい人への危険の排除とか、食い物をはじめとした物の流通は確保したい。


 それはそれとして、国外、それも海を渡ってまで追いかけさせる財力がある国ってことだから、今回シュルムが取り込む気でいる国は結構大きめなのかな。


「そそ。ただ、シュルムに情報が渡ったら面倒だ」

腕を組んで唸るディノッソ。


「シュルムにも時々【収納】持ちが出るけど、今はいないものね」

ディノッソに同情したような、それでいてあまり関心のなさそうなハウロン。


 ハウロン、結構ディノッソと執事にキツくない? 気のせい?


「シュルムは併合するときに、相手の王族と神殿のトップは始末するパターンが多いらしいが……」

レッツェが言いよどむ。


 エンのことを知ってる人が、それを口にしないままならいいけど。


「何かすることがあれば協力するよ」

クリスが明るく、それでいて心配そうに申し出る。


「俺も俺も!」

ディノッソファンのディーンは、なんかやる気の犬みたいな勢い。


「アメデオたちは、難癖つけられてるその国に入ったそうだぜ? その集団にローザがいるかは聞けてねぇがな」

レッツェが再び口を開く。


「そういえば、シュルムの下――地図でいうと下のなんとかって国に、ローザの仲間がせっせと武器とか物資運んでるって」

レディ・ローザは海賊をやめて陸戦するんだろうか。


 ローザとレディ・ローザ、化粧を落として並べたら、そっくりだったりするんだろうか。


「準備を整え、いよいよ直接対決をするか」

カーンがボソっと言う。


「せめて勇者をどうにかしないと無理じゃ? こっちに火の粉がかからなきゃ、どうでもいいけど」

ローザはローザで、『王の枝』を求めるために【収納】持ちに執着しそうだ、とディノッソ。


「情報収集を頼む精霊を増やしておこうかしら。人形が出てくると厄介なんだけど」

憂鬱そうなハウロン。


 最近知ったんだけど、というか、普通はそうなんだけど、精霊に頼むのって結構大変だそうで。特に長期間の同じ命令は飽きちゃったりするんで、そうすると自由にしたい精霊を縛っておくことは苦労する。


「あ、そういえば」

「何だ?」

俺の声にレッツェが聞き返す。


「ディノッソが置いてきた家畜、だいぶ様子がおかしくなってるけど、このまま俺が飼ってていい?」

【収納】持ちのエンを狙って、隠れ住む場所にやってきた追手。


 結局ディノッソとシヴァは、冒険者に戻ってその名と実績でもって家族を守ることを選んだ。ギルドに顔も効くし、なにより家族以外がいない環境というのも子供にとってよろしくないと思ったらしい。


 で、カヌムに移動するときに置いてかれた家畜を俺が『家』に連れ帰った。


「へっ?」

ぽかんとした顔をするディノッソ。


「ちょっと、様子がおかしいってなによ」

小声でハウロンが言う。


「うちの山羊やら豚?」

「そう」

もう情が移ってるし、とても役に立ってくれてるけど、役に立ってくれるようになったからこそ、元の飼い主のディノッソに伝えておかないと。


「もうあそこに放ってきた気でいたし、ジーンの好きにしていいけど――」

「好きにしたら様子がますますおかしくなるでしょ!」

ディノッソの返事を遮って叫ぶハウロン。


「金の林檎やら、金の芽キャベツに続いて、今度は金の肉とかか?」


 ちょっとレッツェ、お肉にするな! せめて金の卵――ああ、例示が山羊か豚だった。金の山羊乳……? せめて金の羊毛……ディノッソ、なんで山羊と豚を例に挙げたんだ!


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