第545話 話すのと見るのと

「ま、ご主人の願いは広くゆるくだな!」

エクス棒が明るく言う。


「素朴な疑問なんだが、『王の枝』は国になくってもいいのか?」

猫船長がずっとイカ耳。


 エクス棒を見据えて、なんかどこか不満そう。『王の枝』に夢見てたのか、もしかして? 神殿の奥とか宝物庫にあること期待? 猫船長は隠されたものが見たい、チラリズム派の方ですか?


「ご主人は自分自身の王だ。ご主人のそば、ご主人のいる場所、ご主人の家がオレの在る場所だぜ」


 なんか言い方が格好いいけれど、単に国のことも領民のことも考えてなかったというか、そういうことを願う場所だって知らなかったもんで。


 そしてあれか、『家』が本国か! ……そういえば、俺の領地ってことでもらったんだった。


 目を逸らす俺、口は閉じとくことを覚えました。


「……大丈夫でございますか?」

執事が猫船長に聞く。


「あんたの方が大丈夫じゃねぇ顔してるな。俺は――俺は、他の『王の枝』の話も聞いてるしな」

ふんっと鼻から息を抜いて猫船長。執事はダメな感じ。


「他の枝ってどんな?」

俺は馬の枝くらいしか見たことがない。


 馬の枝は半分朽ちて、土の中だったし。『精霊の枝』は偽物からナルアディードの麦の穂様まで何本か見たけど、『王の枝』らしい『王の枝』は見るチャンスに恵まれていない。


 話を聞いた限り、即位の時とか『王の枝』を手に入れた直後の建国記念日とかみたいだしな。宝物庫に忍び込んだりしない限り、なかなか見る機会はないだろう。


「少なくとも、無口だな」

「無口」

麦の穂様も普段は静かだけど、しゃべる時はしゃべるから『王の枝』もそれ系じゃないか? 本当にしゃべらないのか?


「納得いかねぇ顔してやがるな? あとこんな動かねぇ。枝葉を伸ばしたり、精霊が姿を現し、導くことはあるらしいがな」


「エクス棒も棒の部分は動かないけど?」

「わははは! オレのアイデンティティだからな! うさぎ穴だってつつけるし、カニだって釣るぜ!」

エクス棒が元気よく言う。


 最近キノコもつついたし。


「カニ……」

執事から声が漏れる。


「うさぎ……」

ぼそりと呟くソレイユ。


「もうつつくのは諦めたわ……」

悟ったようなハウロン。


「……あんたら」

耳がますます後に倒れる猫船長。お耳ナイナイ。


「火の国シャヒラの『王の枝』は?」

ハウロンに目を向ける猫船長。


「さすがにうさぎ穴やらカニ獲りやらに興味ねぇだろ?」

「うん。多分?」

通りがかりにちょっかいかけて来たツノウサギを倒すくらい? カニ獲りは誘ったことないから、好きかどうかわからないけど。


「多分ってなんだよ、多分って。――おしゃべりってんじゃねぇだろ」

「うん。無口だな」

「忙しなく動いたりしねぇだろ?」

「うん。寒いと特に」

「暑いと動くのかよ? ――って、なんで益々ダメな感じになってるんだ?」


 執事とハウロンのライフが0です。ソレイユとファラミアが二人を見て戸惑っている。ちなみに船員さんは話についていけてないのか、ついてくる気が元々ないのか、部屋の隅に控えて静かにしている。


「我が国の王は素晴らしい方よ……。実際見てもらえれば、それは理解してもらえると思うの。国としての体裁がもう少し整ったら、内外に建国の宣言を行うつもりよ。招待するから来てちょうだい」

ハウロンが作った笑顔で言う。


「おう? 楽しみにしてる」

少し戸惑いつつもハウロンの誘いを受ける猫船長。


 『王の枝』が王様なことがわかってないと、話がずれてる感じになるよね。ハウロンにも執事にも説明する気がないようで、微妙にずれたまま、カーンの国に猫船長とソレイユを招待することを約束して、解散。


 執事とハウロンがナルアディードをうろつくのに付き合い、帰りに商会に寄って、ソレイユが頼んでくれたエビを回収。【転移】でカヌムに帰る。


「小麦の件、改めてお礼を言うわ」

ハウロンに頭を下げられる。


「タイミング的にちょうどよかっただけだ。建国宣言だっけ? いつ頃になりそう?」

メール小麦なんて、ちょっと前まで知らなかったし。


「食料の問題がクリアできたから、人が集め易くなったわ。いくつかの集団にはもう声をかけて根回し済みの状態だし――」

少し考える仕草をするハウロン。


「そうね、ティルドナイ王と相談して、目標を決めましょう。アナタが望んだ稲の収穫の日あたりはどうかしら? レッツェの予定も確保しないと」


 どこか楽しそうなハウロン。


 すぐかと思ってたけど、実はまだ先な気配。国を造るって大変だな。


「まさか黒の忌み子まで来るとは思いませんでしたが。カオスな印象しか残っておりませんが、まとまってようございました……」

穏やかな笑みを浮かべながら言う執事。


「普通の顔して控えてたわね? 『青の精霊島』の暗殺集団のことは、事前情報があったし驚かなかったけれど」

肩をすくめるハウロン。


 ちょっと、なんでそんな外聞の悪い!


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