第544話 王の枝の効果
「……ゴート、キャプテン・ゴートと呼ばれている」
どこか機械的に名乗る猫船長。
「猫! 精霊にすげー執着されてんな!」
わははと笑うエクス棒。
「執着されてるんだ?」
猫船長を見る。
猫の姿はそれが理由かな? 風の精霊は普通に仲良いっぽい雰囲気だったし、たぶん別の精霊のことだよね?
「……」
猫船長が香箱を組む、ややイカ耳。
「本物か……」
そしてすごく納得いかない顔で声を漏らす。
「ええ……。そう、何故か持ち歩かれているけれど、本物なのよ」
何故かハウロンも顔を逸らす。
「エクス棒様は、エクス棒様よ?」
いい笑顔のソレイユ。
「『王の枝』を前にして、『王の枝』ではないと否定できない不思議な圧がある、という話は聞いていたが。なるほど、これか」
猫船長。
「口に出して否定することは可能よ。だけど心の中でこれは絶対『王の枝』だ、と肯定してしまうというか、納得してしまうのよね」
どこか諦めたようなハウロン。
腹をすかせてるっぽいエクス棒にホットドッグを食わせる俺。
「ですがエクス棒様は、エクス棒様よ」
いい笑顔のソレイユ。
エクス棒以外の呼び方――『王の枝』を拒否している気配。
「なかなかいい折り合いの付け方しているわね」
ソレイユに感心した風なハウロン。
「『王の枝』って食うんだな。精霊と同じく、朝露とかで過ごすもんだと思ってたぜ」
エクス棒を呆然と眺める猫船長。
「美味いぞ! ジーンの作る飯は材料からして、ちゃんと俺たちが食えるように祝福されてっからな!」
さっさと食べ終えたエクス棒が言う。
エクス棒に出したのは、オニオンとレリッシュ――ピクルスなんかを刻んだ薬味――を乗せただけの簡単なホットドッグ。表面はパリッと中はしっとりふんわりなパン、そのパンからはみ出し気味のソーセージはプチンと弾けて肉汁が出る。
具材がシンプルとはいえ、それなりの大きさだったのだが、相変わらずエクス棒はひと口が謎の大きさ。
「祝福って?」
俺がもらってる神々の祝福のことじゃないよね?
「それをジーンが聞くの?」
ハウロンがちょっと上体を引いて呆れた声。
「精霊が好むのは自分の属性に近い物。光、夜の帷(とばり)、吹き渡る風、大地。これらは世界に広く有るから、影響を受けている精霊は多いの。次に水、朝露、夜露、清流――。火のゆらめき、熱、色。花の香り、木々の騒めき」
「それは食い物……?」
思わず口を挟む俺。
「精霊が好む物は大抵影響を受ける物、自分の存在を強化してくれるものよ。さっき上げた事象の中では、多くの精霊が力を得て元気になるわ」
いや、精霊は好んで食べているというか、寄って行って力を得てるのは知ってるけど。
「広い範囲で起こることなんで普通は分散しているけれど、それを有る程度凝縮させた場所が『精霊の枝』よね? たぶんジーンの畑の場所は、『精霊の枝』に似た環境で、精霊が集まって細かな力を振りまいているのだと思うわ。精霊の細かな力は、どの精霊でも取り入れられて、存在を強化してくれる」
ハウロンの説明が続く。
「味がするというのはその細かな力を含んで、こっちの世界が精霊に近くなってるんでしょうね。――長くなったけど、祝福された食材というのは、要するに精霊がいる場所の収穫物のことよ」
ようするに精霊とかチェンジリングが食べて、味がする食材ってことでファイナルアンサー?
自分の興味があるものだけ味がするっていうのは、自分の興味があるものが力を与えてくれるものだから? ハラルファは花粉好きだけど。
「青の精霊島の食材も、自慢ではないけれど、ほとんど全部祝福されているわ。花は年がら年中咲き乱れているし、気持ちのいい水も流れて、島全体が『精霊の枝』なのよ」
ソレイユが誇らしげに言う。
「美味しく食べられるんならいいことだ」
「相変わらず雑にまとめるわね……」
ごめん、丁寧な説明はありがたいんだけど、理解が追いつかないんです。だって細かな疑問を追求してくと、最終的に精霊を完璧に理解しないといけないことっぽいし。精霊、不条理だし。
そもそもこの世界の仕組み、たぶん俺みたいなのの気分で変えられてる疑惑がですね……。
「とりあえず『王の枝』より、飯の方に惹かれている自分に安心した。ありがとよ」
猫船長にお礼を言われた! イカ耳のままだけど!
「持ち運びされようと、うさぎ穴をつつこうと、エクス棒様は『願われた願い』と同じ願いを心に持つ者を惹きつける効果をお持ちです」
執事がエクス棒――の、ちょっと下を見ながら話し始める。
エクス棒は気さくだから直視しても怒ったりしないぞ?
「願った者の思いの強さが、惹きつける強さとも言われているわね」
ハウロンが補足する。
「じゃあ船長の友達は見た『王の枝』の願いと同じ願いを持ってたんだ?」
しかも聞いてると、惹かれる人の側の願いの強さの方も影響しそう。
もしかして結構厄介? 同じ願いの住人を集めるにはいい感じだけど。
「エクス棒様の『願い』に人が抗うことは難しそうですが、願った方がゆるいため、助かっておるのかと」
執事が沈痛な面持ちで言う。
「ああ……」
ハウロンが俺を見る。
「そうなのね……」
ついでソレイユも。
「こいつか」
猫船長。
「……」
無言のファラミア。
なんですか?
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