第540話 それぞれの言い分

「とりあえず通路で話し込むのはどうかと」

船員さんが困ってる。


 船の上はスペースが限られる、廊下もかなり狭い。そして薄暗い――んだけど、今日は前回より明るめ。ちゃんと待ち合わせしてるからね、船内にカンテラがいい感じで点いてる。猫船長のサービス。


「常識人、常識人ムーブ……っ!」

「アナタが言う、アナタが言うの……!?」

「……」

「キャプテン・ゴートがお待ちでございます」


 突然混ざった執事にギョッとする四人。俺と、ソレイユと船員さん、ファラミア。ファラミアはびっくり半分警戒半分? ハウロンはなんか慣れてるのか、あまり驚いてない。


 どこから混ざったの? 廊下狭いし、入って来たドアを開けたら陽の光でわかりそうなもんだけど。


 ファラミアが無茶苦茶警戒したのか、ソレイユと執事の間にそっと身を滑らせる。大丈夫、大丈夫、その執事は同業なだけです。無差別に襲ったりはしないと思うんです。たぶん。


 時間に関してはおおらかなところが多いんだけど、ナルアディード周辺は割と正確。刻を知らせる鐘が狭いからよく聞こえるからというのもあるけど、商人同士で競争してる島だからね。


 言いたいことがたくさんありそうだけど、とりあえず大人しく移動し始めた面々。


「よく来たな」

机にいた猫船長が出迎えてくれる。


 何度目かの船長室、海図があるとこです。一回目に具合の悪い女性と対面させるために奥の部屋に連れてかれて、次もなんとなく奥の部屋だったけど、普通客はここ止まりだよね。


 だがしかし、猫船長が机から音もなく飛び降りて、ついてこいとばかりに奥の部屋へ。何で?


 ハウロンを見る、特に何の反応もない。執事を見る、特に何の反応もない。俺の疑問に答えてくれる人がいない!


「ここが海神セイカイの現れた部屋だ」

ベッドサイドの引き出しみたいなのに乗って、説明する猫船長。


 その間に船員さんが、隣の部屋から人数分の小さなグラスと酒を持って来て、みんなに配る。


「商売の成功を」

「商売の成功を」

「商売の成功を」

「商売の成功を?」


 グラスを軽く持ち上げてなんか言う猫船長とソレイユとハウロン、ついでに俺。そして一気に酒をあおり――残した一口を床に落とす。


 えー? えー?


 一応二、三滴落としたけど、こういうことは言っておいてもらわないと困ります! そしてこの床どうするの? このまま?


 これはあれ? 契約の時出た精霊を特別視して、精霊が出たその場所でなるべく集まるとかそんな習慣があるの? 俺が知ってる前提でことが運ぶの困ります。


 ちなみに猫船長の分は舐めた後に船員さんがこぼしました。


「改めて自己紹介させてもらうわ。私はソレイユ、今回中継ぎさせてもらう、ナルアディードの商会長よ――青の精霊島で領主代理を勤めているわ」


「アタシはエスのさらに南、火のシャヒラ王国で宰相を務めているハウロン。大賢者と名乗った方が通りはいいわね」


「俺はキャプテン・ゴート、あんたらに比べればしがねぇ船乗りだ。それにしても大賢者に青の精霊島の代官か、それに精霊王」

猫船長がちらっと俺を見る。


「俺はとりあえずソレイユ=ニイ?」

「ちょっと、そこで疑問系なのはどうなのよ?」

ハウロンに困ったような顔で言われたが、ジーンとどっちを使ったらいいのか。


「精霊王というのは……?」

引き攣った顔をしているソレイユ。


「ちょっと俺の呼び名に混入して来ただけだから気にしないで」

ここは一つ穏便に。


「気にするわよ! というか、驚かされるのはもう諦めたから、バラすならせめて事前に周囲に人がいない時にしてちょうだい! なんでいきなり契約後の顔合わせで大賢者とか精霊王とか聞かされるのよ!!」

ソレイユがぷりぷりと怒る。


 こう、ソレイユって目の前に『品物』がなければ、倒れたりしないんだよね。


「本当に。『大事』が人とずれてるのよ! 伝える物事の一般的な優先順位ってものを考えなさいよ」

ハウロンの叫びには指導が混じる。


「数度しか会っていない俺ですら、驚かされる。……大変だな、あんたたち」

猫船長が騒ぐ二人に同情の眼差しを送る。


「ジーン様は、いきなり結果だけを目の前に持って参りますからな」

ボソリという執事。


「人より遥かに長い年月を過ごしてるけど、アタシの精霊を使われたり、王の枝で穴をつついたり、ダンゴムシを握らされたり!」


「王の枝? ダンゴムシ?」

猫船長が怪訝そうな顔をする。猫なのに縦皺が!


「ダンゴムシは子供っぽいいたずらね?」

少し不思議そうなソレイユ。


 ソレイユ、いたずらでダンゴムシを握らせるほど俺は子供じゃないです。


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