第539話 船上へ

 デザートを食べた後、港に移動。ファラミアにも声を掛ける。


「よろしいのでしょうか?」

声をかけた俺ではなく、ソレイユに確認するファラミア。


 俺に対する沈黙のなんちゃらの項目は契約に入れてるけど、ソレイユの専属で契約してるからね。


「ええ。おそらく隠す必要はない相手……よね?」

そしてソレイユも俺ではなく、ハウロンを見て口角を上げて見せる。


「ノート、なんかソレイユとハウロン分かりあってない? 気のせい?」

「気のせいではございません」

ノートがいつもの表情でさらっと答える。気のせいではなかった様子。


 気のせいじゃないのは分かったけど、何で? 答えてはくれたけど、微笑むノートからの説明は期待できそうにない。


 相変わらずナルアディードは建物がひしめいて、窮屈な感じ。でも大抵どの場所も多い少ないはあるけど人の流れがあって、活気がある。


 脇目もふらず歩いている商売、商売! って感じの人もいるけど、そぞろ歩きながらあちこち覗いている観光客もいる。このナルアディードは野心に満ちた人たちか、ある程度富を得た人たちでいっぱい。


 土地と建物が限られていて、空いた場所に入りたい人がたくさんいるから、失敗するとさっさと追い出されるからね。船が沈んで一夜にして没落、なんてことも多い。ナルアディードから出ていかずに船人足になることもあるけど。


「あれ? いつもより混んでない? なんか荷船が着いたとこ?」

港に人がいっぱい。そして多くが同じ船を見上げている。


 珍しいものが届いた時とか、野次馬がひと目見ようと集まることがある。荷を運ぶために行き交う、船のそばにはさすがに寄らないけど。邪魔をすると遠慮なく、手押し車とかで跳ね飛ばしてくるからね。


「キャプテン・ゴートをひと目見ようと来ているのよ」

「え」

ソレイユの答えに思わず声をあげる。


 そういえばソレイユがそんなことを言っていたような? 日本にいた時も猫駅長とか、周囲になんにもない駅が観光地と化してたし、こっちも人間のその辺の行動は一緒なんだな。


「これはまた目立ちますな。私は少し噂を撒いてから・・・・・・・・・、上で合流させていただきます」

そう言っていきなり気配を消す執事。


 急に消えた気配にびっくりして、周囲を見回すけどすでに執事の姿はない。


「どこに……?」

いつも無表情なファラミアの眉間にかすかな皺ができている。そういえばファラミアも同業者でしたね? 


 ファラミアはすこしの間、頭を動かさず目だけで周囲を確認していたが、諦めた様に小さなため息を一つ。


「ソレイユ様、私も船上で」

ソレイユに一礼して、ファラミアも雑踏に姿を消す。


「アタシたちは正面からね。落ち着くまでは、はっきりした国の情報をだすつもりはないけれど。――少しナルアディードで商人たちの噂になった方がやり易いでしょう?」

「ええ、買い付けも販売も名の知名度と信用が大事。キャプテン・ゴートの船に招かれるなんて、それだけで箔がつくわ」


 そう行って、雑踏から出るソレイユとハウロン。ああ、執事が言ってた噂って、大賢者のことと、大賢者が所属する新しい国のこと? 確かに信用度というか知名度でいうと、ずっと砂漠にいたカーンよりハウロンのほうが高いよね。


 それは置いといて、衆人環視の中で、スカートとローブで縄梯子を登るつもりな二人。ハウロンは割と器用に登るけど、ソレイユは大丈夫なの? ハイヒールだし、器用に登ってもスカートはまずくない? 見えない? 俺が最後に登って下からの視線を遮るべき? でもそうすると俺に見えない? 


「おおお!?」

「何だ!? 浮いたぞ!?」


 迷いつつ、ついて行ったら、ハウロンが一反木綿で上まで運んでくれました。ものすごく周囲がざわついている。


「なんだあれは!?」

「いったいどういうこと?」

「大賢者だってよ」

「ええ! 伝説の?」

「なんでナルアディードに?」

「じゃあ、あれは精霊がやってるのか!」

「とうとうどこかの王に仕えるらしいぞ?」

「青の精霊島のソレイユ、キャプテン・ゴート、大賢者! すげー顔ぶれ」

「なんの商談だ?」

「また新しい海路とか?」

「いや、国を建てるとよ」


 驚き不思議がってる声の中に、大賢者、精霊を使役するとか、王国とかの単語がだんだん増えて来た。どう考えても出どころは執事です、本当にありがとうございます。


 あの群衆の中で、一言か二言くらい隣の知らないやつに聞かせては移動するを何度かやった感じ? 大勢いるからハウロンの姿も知っている人がいるかもしれないけど、王国のことを知ってるとは思えないし。


 なお、俺のことはスルーされてます。認識阻害万歳!


 甲板に着地すると、ファラミアといつもは猫船長についてる大男がいた。その大男が無言で船室への扉を開ける。


 全員が中に入り、ぴたりと閉じられる扉。


「はああああああああ! アンタは! レッツェの目の届かないところで、何をやってるの、何を!」

「ちょっと、聞いてない、聞いてないわよ! 大賢者相手!!!!」

「あの初老の方は一体何者ですか?」


 俺の胸ぐらか肩を掴んで、ガクガクしてきそうな勢いのハウロンとソレイユ。そして二人から一歩下がったところで無表情に聞いてくるファラミア。扉を閉めた格好で固まっている船員。


 狭い通路がカオス!

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