第533話 馬の国報告

「馬だから埋まってたんだと思います」


 カヌムの家で不定期に、でもそう間をおかずに開催されるカードゲーム。最初は大体お互いに近況報告をしながらなので軽いゲームか食事。


 メンバーはレッツェ、ディノッソ、執事、ハウロン、カーン。カーンはゲームに参加するより、ただ話を聞いていることのほうが多い。チェスみたいな駒を使うゲームは好きみたいだけど。


 今日はリバーシ。俺とレッツェ、ハウロンとディノッソが対戦して、カーンと執事は見学。盤はもう一セットあるけど、テーブルのスペース的に。カーンが座ってる場所の方と別れてやることもあるんだけど、最初は話をするために集まっている。


 そして冒頭の今日の冒険の総評。


「……」

2本の指で眉間を抑えているカーン。


「……」

額を押さえて俯いているハウロン。


「……」

目を押さえて上を向くディノッソ。


「……」

ただ笑みを浮かべて黙る執事。


「……語呂合わせで言ってるのか、話の要約の仕方がどうしようもねぇのかはさておいて、その棒は拾ってきたのか?」

黒い駒をひっくり返して白にしながらレッツェが聞いてくる。


 大丈夫、俺は今回角が取れている! 白を黒にひっくり返す俺。


「埋めて来た」

元あった場所に埋め戻して来ました。


「『王の枝』を犬が穴掘って埋めて来たみたいに言わないで!?」

ディノッソが叫ぶ。


「いや、だって一応、群れのリーダーが王を引き継いでるみたいだし」

馬はなにもしないけど。


 それをいうなら俺もエクス棒に対してなにもしてないし。


「馬……。3本目の『王の枝』……には、ならなかった」

ハウロンは色々まとまらないようだ。


「力技で枝と契約を交わすことは避けたか」

カーンが言う。


「避けるもなにも、俺は別に『王の枝』を集めてるわけじゃないし。棒の好みは、もっとこう握りやすくて取り回しがきくかんじのこう」

うまく説明できないけど、魔の森によく落ちてるやつです。こんな感じのこう――


「その手つき、やめて! 『王の枝』をその辺の棒と同列どころか、下に持ってくるのやめて!」

ハウロンが抗議してくる。


「その馬がいる場所、大国に狙われたりは?」

「人間があの場所に入り込んだら、草原を麦畑とかにしそうだけど、馬がいない場所は黒精霊が幅をきかせ始めるみたいだし」

パチリと黒を白に変えるレッツェに答える。


 あの草原はあくまで馬のためのもの。そして『王の枝』の半分以上が朽ちている状態では黒精霊がポコポコ生まれる。


 俺が黒くなった『王の枝』――ケンタは朽ち始めていた『王の枝』を食ったのだそうだ――を、焼いてしまったので今までよりは生まれるペースも遅くなるみたいだけど、馬を追い立てたら、残った部分も真っ黒になるだろうし、どうだろうな?


 ケンタをはじめキノコの黒精霊は本体からあんまり離れられないか、日陰が好きなのかと思ってたけど、馬を守る『王の枝』が健在なんで、黒精霊をどうこうしなくても草原に出てこれなかったようだ。


 俺がやったことは、ただ単に棲家にお邪魔してばふんばふんさせただけ。


 一つ二つ誓いを破ると黒精霊が寄って来て、全部の誓いが破られかけると『王の枝』が病んで黒くなる。


 学習したので、エクス棒が黒くならないように気をつけよう。キノコいっぱいつついたし、4センチボディだし、大丈夫だと思うけど。


「って、あーっ!」

盤面が白い。


「四つとも角とったのに!」

「角ばっかり狙ってるからだ」


 考え事してたらレッツェに負けた、考え事してなくても負けるけど! 今回は勝てると思ってたのに!


「ううう。この『王の枝』より、オセロの勝負の方が大事な雰囲気が……。大変な話、大変な話なのよ……」

ハウロンが下を向いたままぶつぶつ言っている。


「ノート、生きてる? ……だめだ、固まってる」

ディノッソが執事の前でハンカチを振るが、笑顔のまま不動。


 ノートって『王の枝』のこととなると、ハウロンより反応がひどいよね。


「レッツェは『王の枝』は気にならないの? なんで落ち着いていられるの?」

「俺には関係ない枝だろ。遠くで平和ならそれでいい」

ハウロンに答え、座り直してワインを飲むレッツェ。


 ドライレッツェ。でも俺もそう思う。


「うん。俺が関わった後に酷いことになったんじゃ気になるけど、平和ならいいよね」

そんな場所があったなー程度の思い出で。


 その後はみんなの近況を聞いて、夕食を食べて、ゲームをして酒を飲んで。


 ティナが肉屋の子供にプロポーズされたとかで、ディノッソが呪詛を吐いたり、レッツェに冒険者ギルドでの依頼の話を聞いたり。


 あ、カーンの国に、マンゴーとパパイヤをお願いしました。


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