第532話 埋まって

 馬たちに見守られながら草原を歩く。


『えー。あの岩の形って、馬だと思う?』

『馬に見えなくもないけど、そのほかのなんかにもみえるぞ、ご主人!』


 俺もそう思う。


『馬に見える形の岩と、馬に見える木、星の位置が――』

昼間ですよ!!!!


 わいなんに教えられ、『王の枝』を草原で探しています。ヒントがざっくりすぎて無理じゃないかと思いつつ、だだっぴろい草原を風に吹かれながら探しています。


 ちなみにケンタくんが侵入したという禁足地です。


『ご主人、この辺の精霊に聞いちゃだめなのか?』

『聞いてわか――るな。よし、聞こう』

精霊は『王の枝』や『精霊の枝』に集まる。特に『王の枝』は精霊を生み出すこともできる存在。


 あれ? エクス棒も精霊生み出せるの? もしかして精霊ノートがポコポコ増えるのって、エクス棒の影響もある?


 探している棒より身近な棒に謎が出てきた。エクス棒はエクス棒だからいいけど。


『えー。精霊のみなさん、この辺に俺が持ってる以外の『王の枝』ってある? 埋まってるらしいんだけど』


『たぶんあるなん』

『おそらくあるなん』


 俺の呼びかけに気づいた風に揺れる草の精霊、若草の精霊が答える。


『あっちなん』

『こっちなん』


 言葉は違うけど、同じ方向を指す精霊。


『ありがとう』


 草の精霊は本体があるその場からあまり離れられないらしく、案内はない。


『そっちなん』

『こっちなん』


 でもここには色々な草の精霊がたくさん、風の精霊もいてついてきてくれてるけど、案内は草の精霊が交代で。


 草原の草が波のように揺れて、進む方向を示す。さわさわざわざわする音の中に精霊の声が混ざる。


 さて、到着。


 草が風に逆らって倒れ、渦のような模様を作る中心。ミステリーサークル? もうわかったから、立ち上がってくれてもいいぞ?


 さくっとエクス棒を地面に挿す。


『ありそう?』

『あると思うけど、深そう』

エクス棒が微妙な顔。


 円匙えんぴ登場。シャベルは、刃の上が平で足をかけて穴を掘るもの、スコップは刃の上が曲線で先端がまっすぐで土をどかすもの。円匙はシャベルで、さらに刃が鋭く根切りに便利、愛用中!


『ごめん、ちょっと脇にどいててね』

草を土ごと剥がして、脇にどける。


 『家』の畑なんかの草は精霊が少ないし、気にせず山羊くんにもぐもぐしてもらっているんだけど、ここの草には精霊がたくさんいる。しかも草を本体としている精霊がほとんど。


 なんか悪い気がして、穴を埋めたら戻す前提です。刈り取ったら刈り取ったで火口の精霊とか、寝藁の精霊とか、馬草まぐさの精霊とかになるんだろうけど。


 隣にエクス棒を突き立てて、身体能力に任せて地面を掘る。エクス棒の先までは掘ってオッケー。


 掘ったら穴の底にエクス棒を突き立てる。


『どう?』

『んー。あと2回くらいかなあ?』


 2回繰り返してあとは手作業。小さなスコップで土をどけながら『王の枝』を探す。土の精霊がもぐもぐもぞもぞしてるんで近いんだと思う。


『お?』

白っぽい石のような棒の一部を見つけた。泥を落としながら慎重に掘り出す。


『眩しい』

『ああ、ごめん。えぇと、あなたがここの『王の枝』?』

『いかにも左様』


 杖みたいな『王の枝』。白い石のような質感で、チェスのナイトみたいな馬の頭がついてる。そして下は灰色に染まって朽ちて、元がどんな長さだったのかわからない。


 これはもしやケンタが融合した黒精霊分……、いや、ケンタ程度じゃ足りない気も? ケンタ、何度も倒されたんだっけ? それで?


『そなたは人間か、精霊か』

『今のところ人間です』

俺が人間だと思っていれば人間です。実体あるし。


『では去れ。ここは馬の地、馬が自由に駆ける地。他の誓いは破られておる』

『誓いが破られて、なんで無事なの?』

いや、破られていない誓いが残っているのに黒く染まったのはなんで? が正しいのかな。


『誓いを守るべき人間も、破る人間もおらぬからだ。残る誓いも破れかけたが、その前にいなくなった』


 誓いは願い。馬か、ここで馬が自由に駆けてるからか。今は遠巻きに集団でこっち見てるけど!


『人間がいなくなっても、誓いが守られていれば『王の枝』は無事なんだ』

『人間と馬は同等という誓いもなされておる。そして我の所有は馬に譲られた』


 最初の願いが有効だった。多分何代か代替わりしてると思うんだけど、代々馬好きが続いてたのか。でもケンタの時の王様はだめだったみたいだな? ああ、それで全部の誓いが破られかけたのか。


『なんでここに埋まってるの?』

『馬たちは枝を運ぶことをせぬゆえに』


 落ちてそのまま埋もれてったのか。まあ、馬も渡されて困るよね……。



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