第529話 なんで?

 つんとつついてはばふん。むぎゅっとして名付け。時々未熟(?)なのか、突いてもばふんとしないキノコもある。


 エクス棒的には『何もなし』<『ばふん』<『黒精霊が飛び出してくる』のようだ。俺的には『何もなし』<『黒精霊が飛び出してくる』<『ばふん』、確かに黒精霊が出てきたほうが当たり感はあるけど。ばふん、楽しいよ、ばふん。


『ぶああああ』


 そして『何もなし』の下は、つついたら『ぶにっ』とするキノコ。これに当たるとエクス棒が泣き笑いのような悲鳴をあげる。


『なんだろうな? 水か細菌が入ってぶにっとしちゃったのか、それとも古くなると中から崩れるのかな?』


 俺の斜め前の頭上で固定してあるライトの魔法、視界は確保してあるので見るからにくたっとしてるキノコは避けてるんだけど、時々『ぶにっ』に当たる。


 キノコが生えてるだけあって、建物の中は外とは比べ物にならないくらい湿気ってひんやりしてる。作られた石壁は分厚いし、灰色の岩はなんかひんやりしてるんだよね。湿気ってるのは粘液キノコのせいだったらやだな。


 そう思いながら、なめこマックスみたいなぬめぬめした液体が溢れてるキノコを避けつつ、他のキノコはとりあえずつつく。


 傘のヒダが光ってるキノコはつつくと発光が強くなる。光に集まってた羽虫が驚いて四方に散るのだが、またすぐ集まってくる。というか、この羽虫も半分は黒精霊だな? 


 一応名付けてみると、どうやらダンゴムシタイプで集団で一個の精霊のようだ。ただ、ダンゴムシと違ってこの群がっているので完結してるみたい。隣のキノコの羽虫は別な黒精霊。


 俺のライト、魔法だからね! 虫は集まってこないので快適です。まあ、ゴーグルしてるし、精霊に頼んで空気の層で覆われてるし、目や口に飛び込んでくることはないんだけど。


 先端にぽこんと卵がついてるようなキノコはつついたら網がボワッと広がって、捕獲されそうになった。網が触れた他のキノコが網ごと巻き上げられ、卵型の先端に飲み込まれていく。


 これ、黒精霊がついてるからとかじゃなく、食虫植物の一種だよね? そしてこの大きさ、対象は虫じゃすまない感じ? ファンタジーキノコ怖いんですけど。


 そういえばここのキノコって食えるんだろうか? どれもこれも食えそうにない見た目をしてるけど。


 【鑑定】の結果、粘度の高い液体を滴らせてるやつと、網を広げるやつは食えることが判明。網を広げるやつは網だけが可食部分のようだ。


 ――液体まみれのキノコの食えるという説明は見なかったことにした。かわりに、この餅とかみかんに生えた青カビみたいな色の液体は、薬の材料になるそうなので採取。


 なかなか楽しいし、素材も手に入れられるしいいなここ。


『なんで。なんで楽しそうなの?』

『なんで。なんで無事なの?』

『なんで。なんで変な格好なの?』


 おい、最後!

 確かにゴーグルにマスク、コートの袖は絞ってあるし、ズボンの裾は靴下にインだけど! 胞子が入り込まないことを優先にしたらこうなるだろ!


『ご主人、なんかワカメみたいなのが床にうにうにしてる』

『うん。ここの黒精霊の親玉かな?』


 キノコをつついていたら、どうやら遺跡の中心部についていたみいたいだ。多分だけど、子供の声でなんでなんで言うワカメっぽくってボスっぽい黒精霊がいるし、ここが中心だろう。


 ここにもデカい丸い岩がある。上は天井を越えているし、奥の方は壁を越えているので全体はわからないけど。


 灰色の岩の表面にはキノコや苔が生えており、ぽちゃぽちゃと水が滴っている。最初は苔かキノコから出てるのかと思ったんだけど、岩から水が染み出してるみたい? 


 なるほど、粘液キノコのせいだけじゃなくこのせいで湿ってるのか。岩のあるこの部屋は、水に濡れて床が黒い、水溜りというには微妙だけど、歩くと時々ぴちゃって音がたつ。


『なんで。なんで二本足で立ってるの?』

『なんで。なんで二本足で動いてるの?』


 訂正します。ここの黒精霊はワカメではなくホラー風味でした。石畳の湿った床から、だんだんせり上がってきてます。


 最初に認識できたのは床に広がる長い髪。次に頭部、白目のない赤黒い目。小さく動く口のせいで、声は聞こえるのに独り言を呟いているような印象。


『なんで、なんで受け取ってくれないの?』

『なんで、なんで一緒にいられないの?』


 うん、独り言だね! 俺と意思疎通するつもりないみたいだし、意味がわからない。


 上は髪の長い少年か少女、下半身は馬。ケンタウロス、ケンタウロスさんですか? あ、でもしっぽがサソリだ。



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