第528話 遺跡の中

 エクス棒で石畳の隙間から生えている草を払いつつ、一番大きな建物の入り口を目指す。石畳はずれて、かしいでいるのはあるけど割れてない。端の欠けくらいはあるけど、なんというかどれだけ厚いの? みたいな。


 タイル状じゃなくってキューブ状なのかも。付近の建物は、崩れてるというより倒されてる、みたいな感じ。これ、使える建材を誰か持ってったな? 石畳が乱れてるのも掘り起こすときに、隣までずれたって感じ。


 先には人工的な石材と、自然のまんまみたいな巨石が混在してるのが見える。今までこの辺で見てきた縦に割れて崩れやすそうな低い岩山じゃなくって、いかにも固そうな灰色の岩がゴロゴロしてる。


 卵型とか平たい丸いやつとか、なんか河原にあるような形のでっかい岩がそこかしこにある。この辺りで採れる種類の石じゃないような? 石が採れるところに町を作ったのかと思ったけど、違うのかな? わざわざ運んだの? いや、この不思議な石がここにあって、やっぱり町を後から?


 進んでいくにつれて小さな黒精霊が目に付くように。エクス棒の先でピシッと押さえて、名付け。


『はいはい、馬石黒1号』

『馬石黒2号』


「わははは! 相変わらずだな、ご主人!」

「いいんだよ、分かりやすければ」

笑うエクス棒にそう返す。


 だって仮の名前だし……って、今更だけど黒精霊も仮でいいんだろうか。普通の精霊のように、他に興味を持って好いた相手に改めて縁を結ぶ、って聞こえはいいけど黒精霊の場合はどう考えても悪いことに使われるね! 使われるっていうか、憑いて悪さするね!


 まあ、うん。分かりやすさを優先する俺を許せ。


 黒い精霊は、この残された石にくっついてるみたいで、いるのは足元。建物の中に入ったら、上の方にも出てきそうだけど、今は石畳の上だからね。


 進むにつれ、黒精霊の数は増えてる。黒精霊の数と比例して、石畳もしっかり綺麗に揃って、草の生える隙間もなくなってきた。奥に進むほど綺麗に残ってるみたい。


 黒精霊でも精霊でも、精霊が生まれて憑いてるモノは丈夫だってこともあるけど、黒精霊が憑いてない端っこの方を人間が荒らしてったんだろうね。


 周囲の建物にはもう少し大きいのがいそうだけど、とりあえず外にいるのは手でむぎゅっと掴めるサイズ。今はエクス棒で押さえてるから掴んでないけど。


 丸い岩は規則的にあるわけじゃないので、道は真っ直ぐじゃない。岩の上に岩が載ってたり、あんまり規則性は感じられない。そしてこの町を造った人たちは、この巨石をどかすとか、避けて造るとかは考えてなかったみたい。


 丸い岩が屋根のように半分被ったやつやら、岩と岩の間に石壁を作ってるやつやら、建物が大変個性的。


「さて、この建物が一番大きいかな?」

「いかにも、って感じだな、ご主人!」


 建物から黒い細かいのがモヤモヤと湧いて、石畳と建物の中に沈んで溜まっている。人は精霊たちがいると周囲を眩しく感じることが多いみたいだけど、黒精霊の方は暗く感じる。それはきっとこの『細かいの』のせいなんだろうな、と思いつつ中にはいる。


「うわ〜」

「おおお!?」


 建物の中を暫く進むと、色とりどりのキノコ。ばふん。

 

 ちょっと一旦退却。建物の外に出て、身をふるって洋服をぱしぱしと叩いて胞子を払う。


「ご主人、ご主人、あれつついたらばふんってするかな?」

エクス棒がわくわくと期待した目で俺を見る。


「すると思うけど、ちょっと待って。胞子が体に悪そうだし、準備しよう」

マスクですよ、マスク。


 随分前、鍛冶をやる前の段階のあの煤だらけになった経験を生かして、マスクとゴーグルはつくったのだ。


「おー、かっこいい!」

「エクス棒もつけるか?」

「おう!」


 というわけでマスクとゴーグル姿の二人。俺はさらに服の中に胞子が入らないようにコートの袖についてるベルトをキュッと締め、ブーツを履き直す。


 その上で精霊に頼んで、空気の層でコート。胞子もばふんと大変そうだけど、中には黒精霊たちがたくさんいそうなので、今回は外からじゃなく、名付けた精霊をコートの内側に入れてお願いした。


「よし、準備オッケー」

「おっけー!」


 再び建物の中。


 キノコ。形状がなんかいろいろで、大丈夫なのかここ? ってほどたくさん。大きいのから小さいのまで、大きいのは俺の背丈どころか天井近くまである。


 黒精霊の影響受けてるだろうし、見た目的にも食べられないだろうなこれ。そう思いながらキノコだらけの周囲を見回す。


 キノコの中には傘の下が発光してるのもあって、その下に羽虫が群がってる。小人の帽子みたいなキノコは、傘の下のヒダがぼわっと膨らんだかと思うと、てっぺんからばふんと胞子を吐いて縮む。ぬるんと水飴みたいに粘液が垂れてる緑色のキノコ。ヒトデみたいな物の上に丸いのが載ってるキノコ――


「ご主人、ご主人」

エクス棒の催促。


「確かにこの丸いの、つつきたくなるよね」

ヒトデとくっついた丸いやつは、真ん中に空気穴みたいなのがあって、中は空洞っぽい。というかこれ、ツチグリのでかいの?


 エクス棒の先でぐいっとつつくと、思った通りばふんと胞子が飛ぶ。ついでに少し大きめの黒精霊も飛び出す。


「おっと!」

エクス棒を持つ手とは反対の手でむぎゅっと捕まえ、目を見据えて名付け。精霊の名付けは気合です。

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