第527話 暗い遺跡

 なんなん言う精霊たちが示した方向に【転移】。岩山と、低い岩が突き出たとこ以外は草原。結構見通しはいいけど、建物っぽいものは見えない。


 草に埋もれてるとかいうオチはないよね? 石の文明の時のものなら、建物もきっと石、ある程度原型とどめてるんじゃないかと予想してるんだけど。


 『地図』はウフのおかげで南半球は大体埋まっている。北も少し。この地図に出てるとこと出てないとこの、多い少ないの境目が赤道ならだけど。風の精霊とか色々いるし、全部が全部ウフの眷属ってわけでもないようだ。それでもすごいけど。


 すごく詳しい場所は大気の精霊たちかウフ本人が低いとこまで行く場所? もしくは興味がある場所? 『地図』はまだ謎が多いね。


 謎はともかく、問題は俺が行ったことがない場所も『地図』が出ちゃったんで、どこに行ったか行ってないか分からなくなるとこかな。今はまだ南半球はドラゴンの大陸の突端くらいしか行ってないから分かるけど。


 とりあえず北半球を埋めよう。でも楽しむことを忘れずに。


 で、今は黒精霊との争いになるかもしれないので、腹ごしらえ。ナンですよ、ナン。


 『食糧庫』に望んだものは、応用が効くように食材、再現が難しそうな調味料系が中心。そして、料理があれだった場合に備えて、おにぎり、豚汁、カレーライス、ハンバーグ、某カップ麺など、いくつか料理そのものもリクエストしている。


 【全料理】は食べたことあるものなら再現できます! とか言われても、どんな能力なのかさっぱりわからなかったしね。


 選んだ基準は、俺がローテして食べてても飽きないもの、時々食べたくなるけど再現が難しそうなもの。というわけで今回のカレーは、学校帰りに何度か食べたことのあるヒマラヤカレーを名乗る店のマトンカレーです。


 少しオレンジっぽいカレーには、玉ねぎ、トマト、ニンニク、生姜、クローブ、シナモン、ターメリック、レッドペッパー、ブラックペッパー、カルダモン……、【全料理】を持ってる今ならわかるけど、日本にいた時はガラムマサラって、単独スパイスだと思ってたくらいだし。 


 こっちに飛ばされて、まともに食べていなかった時の記憶のせいで、【収納】にはこれでもかってほど食料を詰め込んでいる。もらった能力もいつかなくなるんじゃないかと、少し不安があったんで、しばらくは【収納】に入れとく以外も食べ物は持ち歩いてた。


 俺が食べ物に執着してるのは、完全にあの体験のせいだ。日本にいた時はそこまで食べることに興味なかったもん。飯と寝床は大事です。


 馬たちがもぐもぐと草を食むのを眺めながら、ほかほかのナンをちぎってカレーをすくい、もぐっと。うん、美味しい。


 距離があるしこっちを気にしてない風に悠然といるけど、馬の耳が時々俺の方に向く。慎重に距離を測りつつ、俺がどんなものか見ている感じ。大丈夫、警戒しないで? 俺も見てるだけです。


 マトンは煮込まれて柔らかく、それでいて噛みごたえがある。時々ローリエがゴワッと口に残るのも懐かしいかんじ。ぺっと吐き出してマンゴーラッシーを飲む。これは俺が作ったやつ。


 カーンの国でマンゴーを作ってもらう計画だけど、植えるための整備の進捗聞かないと。


 ナンはバターたっぷりで、時間が経つと染み出してきちゃうんで冷めないうちにさっさと食べる。ご飯でもナンでもカレーは飲み物だね。


 さて、出発。


 【転移】して名付けて方向を聞き、【転移】して名付けて方向を聞く。だんだん精霊の数が減ってくる。黒精霊に近づいてきてるからかな? 魔の森は黒精霊もいるけど普通の精霊もそこそこいるんだけど。


 魔の森は、木や石や土、そこにあるものが精霊の本体だったりしたので、黒精霊より強くて、他の精霊を守ってたり隠してた。この場所と違って様々なものがあって、様々な精霊を受け入れてた印象。


 黒山では、黒山ちゃんが普通の精霊たちを受け入れて、黒精霊たちとは同じ場所にいるようで少しずらして、黒精霊とはお互い触れられないようにしてた。


 ここはもしかしたら、精霊たちが言ってる黒精霊が一番力のある精霊なのかもしれない。近づかないにこしたことはない、と。


 ちらっとみんなに叱られそうな気がした。でも続けて大きな精霊と契約したせいで、黒精霊の契約とのバランスがとれてない。いや、これはバランス取らなくてもいいのかな? でも契約すると痛みが取れるみたいだし。


 ユキヒョウの友達の馬に聞いた話だと、怒りと痛みに支配されてる感じが、契約するととりあえず痛みは治って冷静にはなれるとか。落ち着くのは元々ある程度思考ができる精霊だけかもしれないし、人間嫌いなのはそのままらしいけど。


 まあ、痛くなくなるならいいことだよね。小さな黒精霊をむぎゅっとして名付ける。


 目の前には積み上がった石が崩れた建物。足元の草原もまばらで、敷かれた石畳の隙間から生えてる。太陽が照っているのにそこだけなんか暗い、少し迷宮に雰囲気が似てるかな? なんというか、いかにもな感じ。


「エクス棒」

腰からエクス棒を引き抜く。


「あいよ!」

棒が伸びて、ぽこんと先が開いてやんちゃなエクス棒が姿を見せる。


「割と雰囲気ある場所だけど、平気?」

「平気、平気!」


 ということで、冒険です。馬に譲った話も気になるしね!

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