第526話 馬の地

 昨日、島と畑の確認を終えて、今日は東への冒険を再開する。ハウロンにメール小麦が着いたことは伝えたし、お弁当は持ったし、準備よし!


 メールで出会いとか色々あって、セイカイに絡まれたりで止まったけど、海岸線を東にたどってゆく途中だったんだよね。


 クリスの像はとりあえず俺の『収納』の中。金の鎧を潰したもの(推定)だから、等身大というわけじゃないけど、1/4スケールクリスみたいな何かだ。金の鎧は当然ながら人が着られるよう、中身はないからね。それでも40キロオーバーある気がするんだけど、ソレイユ結構力持ちだな?


 考え事をしながらメールの地に【転移】。ここから神々にもらった地図に現れている場所のギリギリまで【転移】。ナルアディードで人間制作の地図は、不完全なんだけど、もう少し先までポツポツ到達地点があるみたい?


 俺の地図と比べると、すでにだいぶ陸の形が違う。俺が手に入れられた範囲でのことなんで、もしかしたらもっと細密な地図があるのかもだけど。


 海岸線を地図に出しつつ、陸の中を行く。地図が海だらけになっても困るし、なるべく陸地を表示していきたいところ。精霊に名付けて、地図に陸地が現れるのが楽しい。時々失敗して海岸線が出なくって、戻ることもあるけど、それもまたよし!


 今俺がいるところは岩ばっかり、岩の層の上に細かく崩れた岩が薄く積もって、そこに根の浅い草がたくさん生えてる感じの場所。


 乾燥してるせいか、枯れ草混じりなせいで綺麗な緑色とはいえないんだけど、秋から冬になるくらいの日本の畦道みたいなそんな印象。暑いけどね。


 人の気配はない、代わりに岩の精霊と馬がいる。そう、なんか馬の群れがたくさんいる。サラブレットみたいなやつじゃなくって、もう少しずんぐりしてるやつ。少し筋張って見えるけど、力強く速い。


『なんでこんなに馬がいるの?』

名付けた精霊たちに聞く。いや、俺が知らないだけで野生馬ってこんな感じ?


『馬はいい生き物なん。だから精霊も手助けするなん』

『人が馬の王に枝を渡して繁栄を願ったなん。人は滅びて枝は朽ちたけど、岩の精霊との盟約が少しだけ残ってるなん』

『盟約がなくっても馬はいい生き物なん』


 よし、今日の昼はヒマラヤカレーにしよう。ナンはチーズ……いや、普通のほうがいいかな? チーズナンは後でおやつにしよう。


 って、そうじゃなくって。


『人が馬に枝を譲ったの?』

『なん。人のくせに人嫌いで馬が大好きだったのなん』

『そう聞いたのなん』

『前はいっぱい人がいたのなん』

『詳しいことが知りたいなら、人のいない人の家の精霊に聞けばいいなん』

口々に言う精霊たち。


 意思の疎通がスムーズなのは、ここが昔人がたくさんいた土地だからかな? 栄えたのは岩だか巨石だかの文明の時代あたりだろうか?


 なんなん言う精霊たちは、鶯色の衣を纏って風に吹かれている。多分この草原の精霊なのかな? 草は馬にもしゃもしゃされてるけど、なんか嬉しそう。馬が思い思いに過ごして自由だ。


 ルタを連れてこようかな? いや、喧嘩するかな。


『ありがとう、聞いてみたいから家の場所教えてくれる?』

『僕らは近づけないなん。あっちにあるなん』

精霊が指す方向は、内陸の方。


『えーと、近づけないっておっかない精霊なの?』

『なん! 真っ黒だからなん』

『食べられちゃうなん』


 ……。

 黒精霊に会うの勧めるのやめてくれないかな!?


 精霊はこれだから油断ならない。


『その精霊しか知ってるのいないの?』

『詳しいのは人のいない人の家の精霊なん』

『一部始終を見ているなん』


 人のいない人の家って、廃墟? なんか昔からいる力の強い精霊が黒精霊になった雰囲気が言葉の端々からするんだけど。もしかして人が住んでた都市の遺跡とか、城の遺跡かな? 


 普通の民家が本体じゃ、朽ちて力を保てない気がするし。遺跡に住み着いた強い黒精霊かもしれないけど。んーでも一部始終を見てたってことは元々そこにいたのかな? 


 竹は欲しいけど急ぐ旅じゃなし、ちょっと寄って行こう。やばそうなら見るだけで逃げる方向で。馬の繁栄を願った人の話って、ちょっと気になる。


 でもその前に安全なところでカレーだね!

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