第525話 島の発展具合

 クリスの彫像――いや、彫ってないな? 鋳物でもないし、こういう場合は何て言うんだろう? 


 精霊金の表面に『細かいの』がまとわりついている。まとわりついているというか、出入りしている? そのせいか、精霊金は普通の金よりキラキラしてるし、明かりがなくてもうっすら輝く、らしい。


 『細かいの』が見えるんで俺には精霊と精霊金のどっちが光ってるのかよくわかってないんだよね。一回精霊が見えない状態で見てみようかな。どっちにしろクリスの像は輝いてそうだけど。


 俺の塔の精霊鉄も、昼間は全くわからない程度だけど、朧に光ってるはず。精霊灯をつけてるから夜もわかんないけどね!


「これ……こんなに市場に出したら価格が崩壊する……」

「いや、出さないぞ?」

俺に自由にしていいとはいってたけど、やっぱりクリスのものだと思うしね。


「ええ、出さないでちょうだい。そして重み、重みで机の天板がへこみそうだから、へこみそうだからあああああああ」

半泣きのソレイユ。


 金は想像するよりすごく重い。ソレイユが両手で持ち上げて持ち上げきれず、プルプルしている。


 すかさずキールがクリスの像を掴み、床に下ろす。


「うう、精霊金の塊、この動き出しそうな像を床置き……」

ソレイユはこの精霊金で商売する気はないようだけど、高いものを直置きに抵抗があるようだ。


 あと動くと思います。


「我が君、飛び地に設置する体制ができるまでお預かりください。――見た目にも警備していることがわかるようにしませんと、悪戯に盗人ぬすびとが訪れ、手始めにと周囲の家に押し入るかもしれませんし」


 あー。クリスの像は大丈夫でも、とばっちりが周りに行く可能性があるのか。アウロもキールも、人間がどうなろうと気にしないみたいだけど、俺の領の住人が欠けることがないよう気にしてくれている。


「うん、わかった」

「いっそそれ・・を囮に据えて整えよう」

悪い顔をして笑うキール。


「来るのが悪いのですからね」

いい笑顔のアウロ。


 ……いや、駆除することを楽しんでいるのか? せめて守るほうと両方に意気込みがあることを願っとこう。


 住人の募集は締め切り、これ以上外からは受け入れない。代わりに観光客を増やす。宿屋の準備も整ったしね。


 ただそれでも申し込みでいっぱいだそうで、船着場のそばにある合宿所みたいな宿はナルアディードで月にいっぺん抽選会やってるんだって。


 広場に面した高級宿は、島の『精霊の枝』への寄付額が多い人が泊まれる一種のオークションみたいなことになってるようだ、ちなみに宿代は別。一番いい部屋はナルアディードの商業と海運ギルドの長が毎回張り合ってるそうで、連泊してるそうだ。


 滞在制限つけてるし、交代でくればいいのになんでか被るんだって。儲かるからいいけど、島相手の商売でも張り合うし、すこし鬱陶しいってソレイユがこぼしてた。


 おやつにチーズタルトを渡して報告会終了。


「そういえば、『精霊の枝』に人間サイズの楽器が揃いました。楽器の手入れをする人間も雇いましたが、こちらは半分劇場の手伝いを兼ねます」

「ああ……」


 あのハニワに楽器、騒音公害で訴えられたらどうしよう。一応まわりに普通の民家はない配置なんだけど。


「管楽器と弦楽器で揃え、打楽器などは避けました」

にっこりとアウロ。


 やっぱりうるさい判断なんだな?


「劇場のほうは始まったのか?」

広場に面してある劇場は、音楽堂も兼ねている。


 演劇の効果音が生音というか、まあオペラみたいな感じなので、舞台は奥行きが広く音がよく響くように作られている。響けばいいってもんじゃないけどね。


 楽器の演奏や一人芝居みたいなのはちょこちょこやってるんだけど、本格的なのはまだだ。どちらかというと、劇場の広場に面した階段で、やってる確率のほうが高い。


「本格的なものはまだです」

「専属劇団はいないけど、ナルアディードに来る予定の劇団に、こっちにも寄ってもらう予定よ。観光客がもっと増えてからじゃないと、客席が埋まらなくって元がとれないわ」

アウロの後をソレイユが継ぐ。


「なるほど」

巡業みたいなものかな? 呼ぶのにも金がかかるだろうし、初日は住人で埋まるかもしれないが、その後は観光客がいないと島にいる人数的に辛そうだ。


「すぐよ。すぐに劇団や音楽家からぜひ上演させてくれって頼んでくるようになるわ」

ソレイユがニイっと唇を持ち上げる。


「そういえば、楽器職人が『精霊の枝』に一晩置いたバイオリンの音色が艶やかになったとかいてったぞ? 大丈夫か? 伝説の楽器なんかできないだろうな?」


 キールの言葉に目を逸らす俺。


 『精霊の枝』に精霊を立ち入り禁止にするわけにはいかないんですよ!

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