第520話 伝説の勇者の像爆誕

 ハウロンとレッツェが俺の顔を見る。


「だいたいそんな感じです」

間違ってはいない、見解の相違はあるけど。


「丁寧語で視線を合わせない……」

俺ではなくレッツェを見ながら、確認を取るように呟くハウロン。


 レッツェに答え合わせを求めるのやめてください。


「かり……溶岩ドームの精霊からクリスがもらったのはこれ、セイカイからもらったのはこっちです。あとこちら、甘味です」

預かっていた精霊金と潮涸珠しおふるたま、かりんとう饅頭を置く。


 かりんとう饅頭、上がひび割れてるけど、もうちょっとひびを大きくして側面まで入れたいところ。


「なんだ? 前に出してたマカなんとかか?」

レッツェがかりんとう饅頭を見て聞いてくる。


「マカロンとは別」

「おお! 深海の孤独な乙女、彼女がモデルかい?」

クリス……。


 そういえば、出会った頃は俺やアッシュのことをなんとかの君とか言ってたっけ。うん、あのころはちょっと引いててごめん。


「溶岩ドーム……」

なんともいえない顔でハウロン。


 他はともかくハウロンは溶岩ドーム見たことありそうだよね。というか、かりんとう饅頭みて呟いたってことは、見たことあるよね。実際はもっとごつごつしてるんだろうけど。いや、こっちなら綺麗に半球に膨らみそう。


「待て。それは精霊金か?」

おっとカーンから待ったがかかった。何を待つのか謎だけど!


「はい」

「えええっ!?」

素直に返事をしたら、クリスから驚きの声が上がった。


「マジかよ、すげー! でけぇ〜」

ディーンが目を見開いて精霊金の塊を眺める。


「この大きさ……。贅を凝らした立派な城が建ちそうだな」

レッツェは驚くを通り越して呆れている気配。


「深海の孤独な乙女は、よほどの大精霊ね。この量は伝説になるわ。実際、精霊に気に入られて、持っていた鉱山の金が精霊金に変わって――火の精霊の時代の始めの話なのに、いまだにエスとナルアディード周辺で有名な話だわ」


 ハウロン……。かりんとう饅頭が大きな精霊なのは間違いじゃないけど、その精霊金はたぶんおそらく拾い物です。


「……滅びの国に向かう王は精霊の怒りに触れた。沈んだのはエスとナルアディード付近の海」

「そういえば、拾い物だと言っていたよ!」


 ちょっと! 俺が言わなかったのにカーンとクリスで答え合わせが始まった!? カーンは眉間を抑えて俯いてるし、ハウロンが顔を引き攣らせてる!


「金ならともかく、精霊金はもらいすぎだよ! 金だって、一晩の語りには破格だけれど、場所と相手を考えて受け入れたのだよ?」

クリスが慌てて俺に訴えてくる。


「俺に言われても困る。クリスがもらったものだし、遠慮なくクリスの好きにしていいと思うぞ?」

「好きにしていいというならジーン、君に譲るよ!」

もらった物がなんなのか分かった途端に焦ったみたい。深海にいきなり連れてった時も落ち着いてたのに。


「いや、俺は持ってるし」

「持ってるなら、多少増えても困ることはないだろう? 私には使い道が思いつかないし、過ぎた物は身を持ち崩すきっかけだよ!」

さすが依頼の報酬を娼館で散財する男は言うことが違う。散財はディーンほどじゃないけど。


「クリスが解決したのは確かだろ、その報酬――ああ、旱魃で困ってたマリナの町にこの精霊金でクリスの像を作ろうか。もし金がいることになったら、言ってくれればクリスに戻すし」

「あら、いいじゃない」

そう言うと、自分の引き攣った頬を撫でながらハウロンが同意する。


「私の?」

「そう、『この精霊金にクリスの姿を写してくれる? できるかな?』」

俺がそう言うと周囲の精霊と顎の精霊が精霊金に触りに来た。クリスに断られる前にさっさと行動にうつす俺。


「またアタシの精霊が……」

ハウロンがガックリと項垂れる。


 精霊金や精霊銀などは精霊にとって加工がしやすい。俺の塔の格子は精霊鉄で精霊に頼んで造形してもらったし、カヌムの屋根はこれでもかってほど薄い精霊銅で水の染み入る瓦の下を覆っている。


 ハウロンのファンドールは好奇心旺盛で、色々やってみるタイプ。今回も俺の呼びかけで参加し、他の小さな精霊とクリスの顎の精霊と協力してあっという間にクリスの姿を作り上げた。


「うん、すげー精巧だな」

なんともいえない顔でディーン。


 思い切り困った顔してこっち向いて座ってるクリスの像ができた。完全に今の姿です。


「ごめん。クリス、ポーズとって」

「こうかい?」

クリスが立ち上がって片手を腰に当てる。


「剣持ってマント羽織ろうぜ、マント」

ディーンが笑いながらテーブルに立てかけられていたクリスの剣を手に取る。


 とりあえずマントっぽいものを【収納】からだして、クリスの肩にかける。


「これ使いなさいよ」

ハウロンも大きなブローチ――マント止めを出してきた。声がちょっとやさぐれてるけど。


「おー、いい感じだな」

エールを飲みながらレッツェ。


「『これでもう一回お願いします』」

もう一度精霊たちがきゃっきゃと楽しそうに精霊金に触れる。


「『ありがとう』。完成」

「すげー! アッシュの腕輪ん時もすごかったけど、こっちもすげー」

でき上がりというか、できてゆく過程に感動してるディーン。


「まさか私がそのまま像になるなんて……。すごいね!」

「本当にすごいわね。人の精霊に気軽に……」

クリスが大袈裟に感動し、ハウロンが涙を拭う。


「これで町というか、村に飾っとくから」

「私の像はともかく、精霊金だよ? 盗まれないのかい?」

「大丈夫」

精霊警備つけるし。


「で? こっちは?」

レッツェが潮涸珠を指差す。


「玉です。俺が正直に言うと色々ダメなことを発見したので、クリスに聞いてくれ」

ほっぺたの人権は守るよ!

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