第518話 おやすみ
ただいまとクリスを送り届け、おやすみと家に帰ろうとする俺。
「待って。今回の話、話は?」
「とても眠いので後でお願い」
袖を引いてくるハウロンに正直に答える。
「私も少し休ませてもらうよ」
待っていたハウロンには悪いけど、クリスも眠かったらしい。
「夕食どきに起きてくるよ」
さすがに話し疲れたので、ちょっと間をおかせてください。
「あんま無茶すんな。後でいいからゆっくり休め」
ハウロンに一階の居間に引き止められていたっぽいレッツェが、クリスと俺に水――湯ざましを注いでくれる。
「うん」
「色々あったからね。期待に沿いたいところだけれど、ちょっと失礼するよ」
そういうわけでカヌムの屋根裏部屋、ベッドに潜り込んで昼寝ならぬ夕寝。外はまだ明るいけれど、鎧戸を閉めてしまえば家の中は暗い。小さな隙間から陽が一つ二つさし込んでいる。
隙間からさす陽って、なんか埃がやたら見えるなあって思ったところで意識が落ちた。
気づいたらさすがに真っ暗。何時ごろかな? 寝過ぎたか?
もそもそと起き出し家の前の路地を覗くと、借家から明かりが漏れていた。まだ起きてるようだ。
あの星の並びが正面にあるってことは、夕食には遅い時間だけど、まだ寝静まるって時間じゃないな。
夜空の星の位置で、大体の時間を計る。この時期、みんなと飲んだ後、帰る時に見える星の位置はもっと西の低いところにある。
「こんばんは」
扉を叩いて返事を待たずに入る。
「おー、来たな? クリスはまだ起きてこねぇぞ」
ジョッキ片手にディーンが言う。
「クリス、大活躍だったから」
カメの上でしゃべり通しだった。
「セイカイからの頼み事は上手くいったのね?」
「うん」
レッツェの隣に座りながらハウロンに答える。
借家の一階、みんなが集まる居間にはクリス以外の借家に住む面々。どうやら飲みながら起きてくるのを待ってたのかな? カーンは暖炉の前で不動だけど。
「ちょっと夕飯、ここで食わせて」
寝て起きたらお腹が空きました。
「いいわよ、ここまで待ったんだから待つわよ」
頬杖をついてこっちを見ながらハウロン。
見られていると食べづらいんだけど。そう思いながら、【収納】からご飯を出す。
ほかほかご飯、じゃがいもと玉ねぎの味噌汁、赤蕪漬け、小鉢に肉じゃが、冷奴、豚の角煮と煮卵半分。メインは千切りキャベツに分厚いアジフライ一枚、カキフライが二つ。
冷奴に鰹節をかけ、味噌汁を一口飲んで、アジフライに手を出す。【収納】のおかげで、揚げたて。ソースにつけて一口、じゅわっと染み出すアジのさらりとした脂、ふわふわの身。
「ジーンが食ってると美味そうに見えるんだよな」
「実際美味いしな」
酒を飲みながらディーンとレッツェ。
「どうぞ、腹に隙間があるなら」
酒を片手にチーズを食っている夕食は済ませただろう面々に、アジとカキフライを出す。
ソース、タルタルソース、レモンの入った小皿も各自の前に。揚げ物は二つの皿に分け――いや、テーブルについていないカーン分も入れて三皿用意。皿にタコカラ追加。
「あー。肉とパンの次に揚げ物好きだな」
肉と炭水化物の男、ディーンが次に好き宣言は揚げ物。カレーの時にも言ってた気がするので一位二位が不動で、三位は時々で変化するんだな?
赤蕪漬けもいい味。京都の方の赤蕪はずいぶん酸っぱいけれど、これは山形の方の味付け。どっちも美味しいけど、今日はこっち。
牡蠣はふっくらサクサク、油断すると火傷するような汁が溢れ、潮の香りがして、すぐミルク――という表現でいいのかこれ? ――のような味が広がる。好き嫌いが分かれるけど、タルタルソースが全てを解決する。
タルタルがなくてもいいのはハウロン、レッツェ。俺とディーン、カーンはタルタル派。
「ああ、いい匂いだね。私にも食事をくれるかい?」
そして、自室から降りてきたクリスはこれでもかというほど絞って掛けるレモン派。
クリスにも俺と同じ食事……のご飯と味噌汁抜きを出す。俺と違って、酒で夕食にする感じ。
「は〜。変わった場所でとる食事も美味しいけれど、落ち着いてしみじみと美味しいと感じるのは、やっぱり我が家だね!」
「借家だけどな」
クリスに笑いながらツッコミを入れるディーン。
「話は食べながらでもいいのよ?」
クリスが酒と揚げ物を食べたところで、話を聞く気満々のハウロンが話を促す。
「ああ、もちろん話すとも! あんな神秘的な体験は初めてだよ!」
恍惚とした笑顔のクリス。
神秘的……? 不穏なカメに乗って、セイカイの腹具合を治すため、かりんとう饅頭に一生懸命ヴァンの恋バナをしたことが?
強いていうならウフが一番神秘的だけど、クリスに見えてなかったよね?
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