第498話 メール人の食事
緑の石の謎は解けないままだけど、倉庫の確保はできたので【収納】から以前もらったメール小麦を出す。船1杯分は念の為に残しておこう――
『って、どうしたの? やっぱりここの倉庫使う?』
小麦の袋を出してたら、なんかメール人が新たな小麦の袋を運び込んでいる。
みんな小麦袋を肩に担いで、同じ動きで、同じ間隔で、滑るように動く。そして奥から綺麗に積んでいく。相変わらず五人1組で規則的にクネクネ動く。
俺はまん真ん中にでんと出してしまったけど、端の方がよかったようだ。
『ううん。これはさっきもらった分〜』
『またたくさんもらったの』
『ちゃんと決めた対価はださないとダメなの〜』
『出さないと気持ち悪いの』
『書いてあることは守るの』
そう言いながら、次々運び込んでくる。
メール人たちの見分けはほとんどつかないけど、同じ意識を共有してるっぽいんで見分けることにあまり意味がなさそう。
『自分たちで食べるのなくなっちゃわない?』
運び込まれる小麦の袋を見ながら言う。
そういえば親指の先くらいの魔石で船十艘分とか船乗りが言ってたような……。前回は一番大きいの、町の見学の対価にしてもらったんだった。
約束とか口に出した言葉に縛られて、無理をさせてたら困る。今からまた見学とかに変えられるかな?
『メールは小麦の実は、あんまり食べないんだよ。秘密ね』
『置いとかないと海から来る人が嫌がるからね、時々食べて見せるんだ』
『嘘はついてないよ、海から来る人の前でよく食べるのは四角いやつ』
『美味しくないからね』
『花の蜜、たくさん入れるの』
『最初に来た時、俺が食べさせてもらったやつ?』
花の蜜を混ぜて小麦粉を焼いたような、四角いやつ。素朴で美味しかったけど。
『うん。同じものを食べてると安心するみたい?』
『怖がられたいわけじゃないし、緑の石は欲しいから』
『サービスだよ』
『あんまり町の中に入ってこないけどね』
『あんまりたくさん入ってこられても困るけど』
あの小麦料理は、まさかの気遣いサービスだった。まあ確かに、自分の食べているものと同じものが主食なら安心するかな? これが肉だったりすると別な怖さが出てくるかもしれないけど、小麦だし。
外から人間を呼び寄せるためだけに小麦を作ってるってことかな? あんなに大規模なのに?
『そういえばメールと約束した人しか倉庫のものは持ち出せないの』
『約束の約束も大丈夫だけど、約束がないままお手伝いはダメよ?』
『扉が閉まって出られないのよ』
『倉庫のものを倉庫に戻せば出られるよ』
『気をつけてね』
小麦袋を運び終えたメール人が、倉庫から出てゆく前にそれぞれ告げていく。
『うん。船の人とは
とりあえず猫船長とは契約したし、船員は猫船長と契約してるし大丈夫だろう。
もし猫船長と契約してない人が混ざっても、ダメだったら持ち出そうとした小麦を戻せばいいわけだし。
『そういえば本当は何を食べるの?』
また別なメール人たちに聞く。
水と花の蜜だけ、なのかな?
『緑の石と水と花の蜜』
やっぱり石は食べるのか!
『小麦の花粉を食べるの』
『だから次の分の種があればいいの』
『花を咲かせるのに、時期をずらしてたくさん作ってるの』
『収穫したのもまだあるし、
って、衝撃の事実! 小麦が主食で間違ってないけど、実じゃなくって花粉だった。
緑の石の方は、なんとなく、メールを統べる元というか、女王蜂というか、ダンゴムシの王みたいなのがいて、食べて力をつけてるのかって思ってたんで、食べるって言われてもそう驚かないけど。エクス棒が魔石や精霊の雫を食べるからね。
でも花粉は予想外。
『ジーンは花より実の方が喜ぶでしょう? たくさんあげるの』
『溜まっちゃうからたくさんもってって欲しいの』
『でも決まりは守らないと長続きしないの』
『だから緑の石の分はもっていって』
『この倉庫に置いておくのはジーンの小麦ね』
『ありがとう。俺もなんか、また良さげな花の蜜を持ってくるね』
ジェスチャーしてくるメール人にお礼を言う。
よし、なんか増えたぞメール小麦! 俺が真ん中に適当に出したやつは【収納】にしまっとこう。
猫船長に量の相談して、他は【収納】だなこれ。メール小麦から普通の小麦に替えるのどうしようかな。旱魃だし、全部交換できるほど普通の小麦に余裕がない気がする。
なんか別なものに替える? いや、さっさと旱魃の原因を取り除いて、来年――は無理でも、再来年は小麦と交換――いや、小麦が行き渡れば、メール小麦との交換は別にいいのか。まあ、セイカイが言った海底探索にさっさと向かおう。
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