第495話 契約書ソレイユ版
「というか、この人怪我してる?」
「ああ、海峡で魔物とやり合ったときにな」
猫がベッドサイドの引き出しみたいなのに身軽に飛び乗ってくる。
壊血病って出血しやすくなるんだっけ? 倒れてるのは貧血もある、のかな? 怪我と壊血病でたくさん血が流れたとか。なんかこう、歯茎から血が! 毛穴から血が! という怖い状態ではないみたいだし。
「さっき、精霊に癒しを頼んだので怪我の方も少し良くなってるはずだけど……。船に乗ってて大丈夫そうな怪我?」
毛布めくっていいですか?
「普通だったらな。だが、魔石なしとはいえ、魔物にまた襲われないとは限らない。魔石なしでも襲われるときは襲われるし、
ああ、こっちに来る魔石持った船が魔物に襲われるのに巻き込まれることもあるのか。船が大破するほどの衝撃じゃ、そりゃ無事なものも無事じゃなくなる。
「あんたの船は?」
「俺は陸路」
「陸路?」
怪訝そうな声。
「師匠に修行だって言い渡されたんだよ。メール小麦はうっかり手に入れちゃっただけなんだけど、ここ数年不作だろ? 手に入ったからには、知り合いの商人に届けたい」
修行は嘘だけど、他は本当。
「荒地に魔物、随分とスパルタだな」
「一人ならなんとかなるかな?」
はいはい、そこで師匠の名前を聞いて、聞いて。
「師匠の名前は――いや、いい。あんたは何も聞かずにこっちの願いを聞いてくれた。こちらも何も聞かずに受けるのが筋ってもんだ」
ちょっと! そこまで聞いておいて!? メールの地に一人でふらふらいたら怪しすぎだから、大賢者の名前を出すように言われてるんですよ!!!!
「契約書は俺の方で用意するか?」
「いや、ある」
一番高くて制約が一番きついやつを持ち歩いている俺です。
カヌムのみんなとソレイユに、持ち歩けってぽっけに突っ込まれたので実は五枚ほどある。しかも、俺のことに関して他言無用とかその辺が既に書き込まれてるやつ。
いや、話を進めないで? 師匠の名前を聞いてください。でもしょうがない、それに契約してしまえばこっちのものだ。
はっ!
コートの内ポケットに手をやったところで思い出す。せっかく用意してある魔法陣のチラ見せを忘れてた。
いや、大丈夫、今から内ポケットからブランクの契約書を出す、出すときに魔法陣のチラ見せをするんだ俺!
匂わせっていうのか? いろいろ難しいな。
「この契約書でいい?」
俺の広げた契約書にさっと目を通す猫。
「ああ、構わん。あんたのことをペラペラしゃべるつもりも、条件についてはこれからだが、一度飲んだモンを破るつもりもない。ついでに言えば、船で運ぶモノについて、人であろうが物であろうが他言しない誓いは、乗組員全員がたててるから安心しな」
少し自慢げにしっぽをくねらす猫。
船長にとって自慢の船員か。しっぽに絡んで茶色好きの精霊が頷いてるので本当だろう。
「じゃあ、条件というか運び先はナルアディードで頼む。で、8分の一でいい?」
「願ったりだが、メール小麦は普通の荷より高いぜ? あんたが行きのリスクまで担保する必要はないだろ」
ざっと相場を調べてきたんだけど、ナルアディードとメールの地の運賃は船の荷の4分の一から8分の一。売り上げというか、物品そのものを指すことが多い。同じところにまとめて売って金で分配になることがほとんどなんだけど、義理があってそっちに売るとかあるらしい。
運賃の幅が広いのは運ぶ魔石の大きさによって魔物に襲われる率が変わるから。魔石の大きさはメール小麦の量にも関わるから、自動的に大きな船は料金が高い。
猫の船は大きいけど、復路だけだから安く伝えたんだけど、それでも高かったみたい?
「できればまた取引したいし」
猫だし。
「それに条件があって、そっちの分も俺の指定する商会に売って欲しいんだ」
実質買い取るの俺だけど。
「わかった。魔石のために借金がある、正直助かる」
そのほか大雑把に話を詰める。
大雑把じゃいけないところは、執事かソレイユが監修した文がすでに書き込んであるからね! 今回は商売だし、ソレイユ版を使った。
「ところで、サインってどうするの?」
肉球?
自分の名前を入れて、契約書を猫の前に差し出す。
「血判で」
猫が前足を差し出すと、無言で控えていた男が慣れた様子でナイフでスパッと浅く肉球を切る。
肉球、肉球だったけど、想像してたのと違う!!!
そして出てくる精霊。
まって? どなた様?
「セイカイ……っ!?」
「な……っ」
猫の目がこれでもかと見開かれ、しっぽがぶわっと。大男に至っては、その場に額ずいてしまった。
正解、そう、正解だって思ったんだ。ナルアディードで信奉されてる神様じゃないですか! ちょっと待って、知らない神様も出てくるのこれ? ソレイユのせい?
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