第493話 精霊の好む人
ミツバチみたいな精霊が蜜を集めてくれている。
いや、小さな精霊たちがみんな、つまみ食いしながら手伝ってくれているのだが、ミツバチさんがいっとう収穫量が多い。次いでチョウさん、ハチドリさん。
俺も蜜の多いサルビアみたいな花をぶちっととって、きゅっと根元を絞って集めてるけど効率が悪くてだめ。小さなガラス瓶に5ミリも貯まらない。
精霊は触りたいものにちょっとだけ触れる。人間や動物相手には難しいけど、植物とか水とか火とかには大抵触れる。
精霊の小さな手が花びらを透過して、蜜だけを手にする。手のひらにまんまるの花の雫。きゃっきゃっと喜んで、他の精霊にぶつけたりするので、収穫量はそれほどでもない。それでも俺よりはあるけどね!!!
ミツバチやチョウ、ハチドリの姿に近い精霊は、元の生き物の習性がちょっとあるのか、凄く真面目に蜜を集めてくれる。
『家』の庭や山の中を回って、せっせと採取。本物の虫たちが起き出して、吸っちゃう前にってことで朝早くから頑張っている。害虫は入れてないけど、花粉を媒介する虫は必要なんだよね。
うちは精霊のほうが多いけど。
リシュはエクス棒を咥えながら俺の周りを行ったり来たりしている。地の民にもらった綱は、ひとところに落ち着いて真面目な顔をして齧ってるけど、エクス棒を咥えている時は伏せて齧ってみたり、嬉しそうに咥えて跳ねるように移動したりする。
とりあえず百花蜜、サルビアみたいな花の蜜、アカシアみたいな白い花の蜜各1瓶ずつ。蜂蜜みたいに黄色くなくって、さらりとした透明な蜜だったり、うっすら黄金色だったり。
よし、お土産準備OK!
精霊たちにお礼を言って、魔力を持っていってもらう。はっきり言って俺じゃ集められなかったのでとても助かった。
籠に瓶を詰めて、メールの街の外に【転移】。正面からお邪魔します。
『こんにちは』
『こんにちはジーン』
中に入って、一番初めに会ったメール人に挨拶する。やっぱり5人でくねくね、ボディランゲージ。俺も謎の踊りを体が勝手にする。
メール人の見分けは難しいけど、たぶん見分けがつかなくても問題ない。たくさんのメール人が情報を共有している。メール人は集団で一個だ。
『今日はちょっと、港にいる船に用があって来たんだ。これ、お土産、うちで採れた花の蜜』
『ありがとう。この地に咲く花以外の蜜は初めてだよ』
メール人から喜びが伝わってくる。
『全員に回らなくってごめんね』
『うううん。とうさまとかあさまに捧げるんだ。そうしたら僕ら全員に味がするんだよ』
なかなか不思議なシステム。
『小麦ありがとう、色々助かる人がいるんだ』
『ジーンの役に立ったならよかったよ』
メール人としばらく話して、ほんわかした気分で人間のいる港へ移動。
さて、船は一艘と限らず頼みたい。11艘分の小麦があるけど、旱魃はすでに年単位で続いてるって話だし、範囲が広め。困ってる人全部には行き渡らないと思う。
なにせ中原は戦乱中で畑どころじゃない場所も多いし、困ってるのは旱魃が起きてるとこだけじゃないんだよね。カヌム周辺には流石に影響ないけど。
カーンの国づくりにも協力したいけど、飢饉で困っている人に届けるのが先だ。どっちにしても、メール小麦をソレイユに届けて、ソレイユが売り払って普通の小麦を買うって作業が入る。
カーンとハウロンのところには、とりあえず小麦を船二杯分くらい届けてもらおう。最初に船二杯分って伝えてるから、それでやりくりできる範囲で人を集めて、色々始めるんだと思う。
穀物の確保はできた。あとは野菜とタンパク質かな。タンパク質はエス川で魚を取れるし、野菜はものによっては穀物より収穫が早くできる。うん、大丈夫そう。俺は今のうちにバナナとかマンゴーとか植えとこうかな。
港に着くと船が停泊している。けっこう傷がついてる船も混ざってる。最初派手に壊したなって思った船を解体してて、他の船の修理の素材に当ててるみたい。
メールの地に船に使える様な木はないもんね。あったとしても多分木は譲ってくれないと思う。メール人が取引に使うと決めた小麦以外は難しいんじゃないかな? なんとなくそんな雰囲気だ。
さて、壊れてる船を中心に観察すればいいのか。魔物に襲われて「緑の石」を失ってる可能性が高いしね。うんでも、修理の中心にいる人望がありそうな人に聞いちゃった方が早いかな?
話しかけなければ、存在を認識されないことをいいことに、働く人たちを近くで観察する。
おっと、船について来た精霊発見。話ができるタイプかな? 青緑の服を着た人型で下半身が丸い精霊。人型に近いしいけるかな? 保険もかけておこう。
『やあ、ちょっとここにいる人の中で、気に入ってる人いるなら教えてくれるか?』
『こんにちはー。ボクのお気に入りは、あのいっぱい茶色い人。茶色っていいよね!』
しまった! 話はできたけど、その茶色の人がいい人なのか判断できない……っ!
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