第492話 ソレイユの船講義
一応、契約か誓約かいれるつもりだけれど、ソレイユに相談。
「と、いうわけで。ちょっと知り合いから助言を受けて、現地で船を捕まえようと思うんだけど」
ソレイユの仕事を邪魔している気になりつつ、二日続けての島だ。
「あなたの移動方法を知っている友人が周りにいるのね……」
「ああ。同じことできる人もいるぞ」
大賢者って言うんですけどね?
「……」
執務机に両肘をつき、ソレイユが頭を抱える。
島でははっきりカミングアウトしたわけではないけど、居ないはずの塔から出て来たり、倉庫にものをどっさり増やしたりしているので、【転移】と【収納】はそれとなくバレている。
契約してるし隠してないともいう。【転移】はともかく、【収納】はナルアディードに大々的に商売してる人がいるからね。
ノートたちの『王の枝』探しの一員だし、いつか会ってみたいな。商売が商売なだけに、あちこち移動してて滅多にいないそうだけど。
「我が君の住う場所はどのような別天地なのか――」
「こんなのばかりか?」
アウロとキール。こんなのってなんだこんなのって!
なんか住んでる場所とか色々誤解が産まれた気がするけど、初めて顔合わせした時のノートの様子を思い出すと、誤解させといたほうがいいのかな?
カヌムにいるとか、ノートが斜め向かいに住んでるとか。
迷った末に黙る俺。どうゆう者だと思われてるのか、ちょっと不安になってきた。前に言われた隠れ里に住んでる人とかって思われてそう。
「別世界のことは考えても仕方がないわ。商売の話をしましょう」
ソレイユが顔を上げて、きっとした表情をする。
「うん」
「どんな船を選ぶかは決めているの?」
「いや、なるべく大きい船?」
できればネズミとか虫がいない船がいいです。無理だろうけど。
「うーん。まず、自分の商品を所有する船に積み込んで運ぶ船長と荷主が一緒というのが普通ね。でもこれ、単独と複数で所有してるパターンがあるから気をつけて」
そういえばそんなこともちらっと聞いたような?
「複数はめんどくさそうだ」
「商人だけでなく、造船に関わった船大工や手工業者が所有権を分けていることもあるわ。ただ、メールに行くような船はおそらく単独でしょうけどね。一攫千金的な側面があるから」
こう、話を聞いたらナルアディードの船は単独も多いけど、北方の船はほとんどが共有だって。船の売上の16分の一とか、細かいと50分の一とか。雇われ船長もいるけど、その場合は船の所有者から権利の一部を譲渡されて、自分の儲けのために頑張るかんじらしい。
「できれば所有者が船長、もしくは所有者も一緒に乗っている船を選んだほうが面倒がないわ。荷を運んだあとで権利云々言われるのは面倒だもの」
「わかったけど、なんかそういう人は、ちゃんとメール人と交渉成功させてそうだな」
なんかこう漢気がありそうなイメージ。
「1番の問題は海峡の途中で魔物に襲われること。魔石を海に投げ込んで、その気配に魔物の注意が向いている間に逃げるという話だから――肝心の交渉材料を失くしているパターンね」
「なるほど」
せっかく行ったのに世知辛い。
「メール人は、緑の石以外を望まないから、エスで荷を下ろして勿体無いけれど空船なの。行きは逃げ切れることが多いんだけど、あの海峡で船を巡らせてなんてしてたら魔物に襲われるから、進むしかないのよね」
「ああ、そんな船を捕まえるんだな?」
ソレイユの話をふんふんと聞く。
「私としては、メールで空船を捕まえるのはお勧めしないわ」
「なんで?」
「荷を積んだ帰りは、海峡での危険が跳ね上がるの。せっかくのメール小麦が海の藻屑と消える可能性があるのよ」
「あー。わかったそれはなんとかする」
「なんとかできるのね……」
視線を逸らすソレイユ。
周囲の精霊の名付けを頑張って、荷物積んでても速く動けるようにするとかこう……。あとは先回りして魔物を追い払うとか。
倒しちゃうとその後の商売のバランス崩しそうだしなあ。魔物が減ってメールにバンバン人が行くようになったら、メール人も落ち着かないだろうし。
その後、メール小麦がナルアディードに着いた後の話をざっくりまとめる。細かいことはソレイユにお任せ。
そういうわけでメールに――行く前に、花の蜜をお土産用に集めよう。やっぱり精霊の影響をたくさん受けてるやつがいいのかな?『家』の花ならどれでも大丈夫だろうけど。
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