第483話 花の香り
島の塔、コレクションの棚に牙の花を飾りに来た。
すでに飾ってあるドラゴンの
黒く染まった牙は中は白いのかと、地の民が彫った花をみながら思う。黒精霊に全てが侵食されたわけじゃなく、一部元の色が残ったのかな?
黒いドラゴンっていっても、最初に見た黒精霊に憑かれていないヤツは爪や牙は白かった気がするし。個体によるのかな? オレンジのやつは、爪にも牙にも先にほんのり色がついてたし。
うん。なかなかよくディスプレイできた。
そういえば外殻だったな、と思いながら棚を眺める。この外殻も綺麗に磨けば、地の民が作ってくれた浮き彫りと同じく、少し透明感のある黒になるんだろうか。真っ黒かな? 外殻は外殻で格好いいんでこのままにしとくけど。
魔石の中で綺麗なやつ、カーンの宝物庫からいくつかもらった大昔の金貨、地の民にもらった綱の切れ端、土偶にもらった巨木の枝の輪切り、いい感じの棒――棚の空きはたくさんあるけど、いつかいっぱいになるといいな。
ちょっと感慨深く棚を眺めていたら、外が騒がしい。というか、でかい声がする。
なんだろう?
この部屋は外の音はほとんど入ってこない。この塔は分厚い石壁で、コレクションが痛まないようこの部屋には窓がひとつしかない。窓のある作業台の方を振り返る。
「えーと」
縦に裂けた瞳孔、金色の目がこっちを見ている。
デジャブ。これはドラゴンが同士討ちする前に、崖の裂け目で見たアレです。なんでこんな近くにいるの?
『匂いがする。人間、匂いがする』
ドラゴンの口から言葉が聞こえる。
よく聞くと、風船から空気が漏れるような音をうんと低くしたような感じなんだけど、今日も【言語】さんは絶好調のようです。
「『何の匂い?』」
ものすごくドキドキしているけど、大丈夫なはず。
ドラゴンは風の精霊との契約で縛られて、自分のテリトリー――ドラゴンの大陸の南の端の方に来た人間、相手がドラゴンに危害を加えた人間しか襲えない。
だからこの場所は大丈夫。実際、向こうから話しかけて来てるし……って。
「『あれ? 人間に近い思考がある?』」
見学に行った時に見たドラゴンは、なんか野生動物っぽかったんだけど。
『長く生きた。私は長く生きた』
「なるほど?」
長く生きたドラゴンが、本能より理性がまさったり、暇になって人間の言葉を覚えたりはファンタジーの定番だ。最初からしゃべるのも定番だけど。
『風の精霊、私と共にある風の精霊。音の精霊、音の精霊の憑く私は人の言葉に合わせられる』
えーと、共存してる風の精霊の系統が音の精霊で、人間の声に変えられるってことか? 非常に残念ですが、話せていないです。
「『俺はドラゴンの言葉も分かるから……』」
ちょっとどう言っていいか困る。喋れてないって、はっきり伝えるべきか。
『そうか。では尋ねよう、私は尋ねる』
「『うん? なんだ?』」
よーし、よし。
ちょっとドラゴンに慣れて来たぞ? 気配が怖いっていうより、でかいから怖いんだな。カッコいいって思うけど、同時に巨大すぎて怖い。
あれ、もしかしてこの瞳の大きさからいうと海に浸かりながら覗いてる? いや、体は上の方で首を伸ばして覗いてる?
待って。このドラゴン、絶対ナルアディードからとか見えてるよね!?
『子。私の子の血の匂いがする、何故だ』
……。
どっち!? いや、黒いドラゴンは飛べなかった。このドラゴンはここをのぞいてるということは飛んで来たはず。オレンジの方か! 食わなくてよかった!
え、【収納】から匂い漏れ!? いや、違う。
「『これ?』」
棚から牙を取って、窓の方に移動する。
黒い牙1本と、花の彫刻になった牙。
『それだ。花のカタチのせいか、風の精霊の運ぶ匂いが強い、それだ』
花から香りを連想した精霊がなんかしたの? 困るんですけど。地の民の方に行かなくってよかったけど。あ、でもここがドラゴンの縄張りから近いからかな?
「『えーと、この牙の持ち主は魔物になってたんだけど』」
『分かる。若い者は同族殺しもするが、ドラゴンは老も若きも魔物となった同族を積極的に殺す』
物騒なんですけど。
「『で、オレンジ色のドラゴンが同士討ちになって、二匹とも亡くなってたんだけど……』」
『夕日の燃える。夕日の燃えるが如き鱗ならば私の子。どこだ? 竜玉』
「『竜玉?』」
あの龍が手に持ってるやつ? こっちのドラゴンも持ってるの? 拾った覚えないから、同士討ちしてたあたりに落ちてるのかな?
『心臓の中。心臓から生まれる玉だ』
心臓か。
俺が丸っと体ごと持ってますね!
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