第482話 ドラゴン素材
カヌムでそれぞれの反応を見て満足した俺。精霊の世界はなかなか一筋縄ではいかない。とても綺麗な世界をつくってる精霊もいるけどね。
でも綺麗さに見惚れていると、黒山ちゃんの精霊世界のように迷って戻れなくなる場所も多そう。俺も気をつけよう。
『家』に戻って腹ごなしにリシュと散歩。ずっとダラダラ食べてたけど、微妙に食べた気になってない、変な腹具合。お茶漬けでもするかな?
鮭とたらこを焼く。胡麻を炒る。しばらくしたら鮭の皮を剥がして、塩をふって別に焼く。皮の焼き加減は難しい、焦がさず、ぱりっとするように。
ぱりぱりになった鮭の皮をさくっとかじりながら、焼きたらこを適当な大きさに切る。全部はさすがにしょっぱい、残りはまた次のお茶漬けの時に。鮭も今回ちょっと多いかな?
ご飯をよそって鮭をほぐす。焼きたらこを乗せて、【収納】から使いかけのワサビを取り出し、ちょっと擦って添える。海苔を揉んで散らし、仕上げに胡麻。
出来上がったお茶漬けをさらさらやりながら、明日の予定を考える。どうしようかな? 魔法陣はまだ残ってるから島に行ってパウロルおじいさんに座布団見せようかな?
でも永続的なやつじゃない。だいぶ精霊を見ることに期待値が高いみたいだし、何か記念日的な時に贈ろうか。あふんな階段とかどういう反応するんだろ。
よし。畑の手入れをしたら、地の民のところにわんわんの小屋がどうなったか見に行ってみよう。
お茶漬を食べ終えて、食器を洗い、食休みしたら精霊に名付ける。精霊のノートに任せておいてもいいんだけど、たまに直接名付けてる。コーヒーを飲みながらしばらく続け、風呂に入っておやすみなさい。
◇ ◆ ◇
「おう! 島のソレイユ! よく来た」
「島のソレイユ! よく来た」
「よく来た!」
地の民は相変わらず。
代表者――だいたいガムリが一言言って、誰かが繰り返したり、補足したりして、最後は周囲にいる地の民が唱和する。
「こんにちは、犬小屋どんな感じ?」
「上々だ!
「赤銀の谷は屋根の細工がいい」
「硫黄谷は細密な彫刻が得意だ」
「とてもいい」
どうやら得意分野で分業しているらしい。
ガムリは見分けられるようになったんだけど、相変わらず地の民の顔の見分けが難しい。体型はみんな似たように見えるし、何より毛が多い、毛が!
ずんぐりした体に、色味を抑えた丈夫そうな服。なぜかスケイルメイルっぽいチョッキをつけてることも多くって、ますます体型の違いが隠れる。地の民のおしゃれなのかな?
顔だけで判断することになるんだけど、毛と髭がね! 鼻から下は一体になってたりするね! みんなデコは出てるから目から上で見分けをつけることになる。いや、髭の三つ編みとかで判別できるのかな、これ。
「小屋はまだだが、島のソレイユよ、これはどうだ?」
「これはどうだ?」
「どうだ?」
そう言って、俺の前に布の敷かれた盆を運んでくる。
「凄まじく硬いが、美しい」
「防具にもいいが、美しい」
「美しい」
載せられているのは美しい透彫が施されたドラゴンの鱗。ドラゴンの鱗の防具ってファンタジーだけど、やっぱり硬いんだ? これは彫刻された飾り物だけど、量があるしそのうち防具も作りそう。
「小屋にこれも使いたいがどうだ?」
「壁にはめ込むのは、どうだ?」
「入り口の左右に配置するのは、どうだ?」
「どうだ?」
「うん、色も黒いしいいんじゃないかな? 模様は少し、川の流れも入ると嬉しいかも?」
素材にって持って来た黒いドラゴンの鱗は、美しい工芸品に変わってた。
隅々まで磨かれた鱗は、濃い黒水晶みたいだ。そこに施された透彫は、花と葉が絡み合った意匠。わんわんならエス川の模様が入った方が喜ぶだろう。わんわん自体を表すなら嵐だけどね。
「あ、あと俺にこれで壁にくっつけるタイプのランプシェードを作ってくれると嬉しい。4つ頼む」
エスで売ってた、黒いアイアンのランプシェードを思い出す。ゲーム部屋にくっつけよう、そうしよう。
「心得た。これと牙の彫り物は島のソレイユが持ってゆけ」
「心得た。元々島のソレイユのものだ、持ってゆけ」
「心得た。持ってゆけ」
「ありがとう」
お高そうな工芸品を手に入れた!
牙の彫り物は優美に弧を描いた一輪の花。葉が茎を包むように絡み、白い花は清楚に見えるがどこか艶かしい。
牙は塔に飾って、鱗は4つ追加でもらえることが確定したし、ソレイユにやろう。もっと大きなドラゴンの大きな牙なら多層球作ってもらえるかな?
赤いドラゴンも早く解体して、何か作ってもらおう。あの夕日を映したような鱗、綺麗だったし。それに牙の方も先に朱く色がついてた気がするんで、花が色づいたのができるんじゃないかな?
この時はそう思ってたんだけどね!
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