第480話 確認

「さて。俺にも使えるのか?」

レッツェが飯を食べ終え、魔法陣を手に取る。


「使える、使える。そこ、ぷっちって押して」

使えるようにした。


「こうか?」

俺が押すように促したのは、魔法陣の端にちょっと盛り上がったマル印。


「って、もしかしてごろっとするの魔石か? 高ぇのに……」

「小さいやつだし、そう高く無いぞ」


 魔法陣用の厚めの羊皮紙に、薄く削った羊皮紙を重ねてある。中には魔石から魔力を吸収するいつもの魔法陣と、発動させたい魔法陣への誘導の回路図みたいなの。その回路図含めて魔法陣なんだろうけど。


 で、その二枚の魔法陣の間には小さな魔石があって、押すと魔力を吸収する魔法陣に魔石がくっつく仕組み。


「器用ねぇ」

ハウロンは改良バージョンの魔法陣をためすすがめつしている。


「じゃ、俺も」

ディーンが普通の魔法陣に手を伸ばす。


「ようこそ、精霊の顔の見える世界へ」

なかーま!


「さすが格好いいな」

「これが王狼バルモアの炎のドラゴン!」

二人ともまずはディノッソのドラゴンだったらしく、目が釘付け。


 ディーンの目がキラキラしてる、夢の世界だな。でも、すぐに現実に気が付くことだろう。


「うん、私も感動したよ」

「ああ――!?」

クリスの方に目をやったディーンが固まった。


「?」

それを追ってレッツェも。


「そう。はっきり見えることがいいことばかりでは無いのよ……」

ハウロンが口の端を歪めて笑う。


「あー。まあ、可愛らしいもんだな」

珍しく視線を泳がせるレッツェ。


「……布?」

そしてハウロンの精霊が視界に入ったらしい。


「一反木綿みたいだよね」

「いったん……?」

思わず口にしたら、ハウロンが不思議そうな顔。


「俺がいたところにそういう妖怪――魔物がいたんだ。布の魔物」

「ふうん?」

いまいち納得いかないような雰囲気。


「ディノッソの旦那の精霊は思い描いていた通りだな。大賢者様は4体もいるのか、巷の噂じゃ3体って話だったがな」

レッツェが言う。


「アタシには秘密が多いのよ。今回一つバレたわね」

気だるそうにウインクするハウロン。


 頷くディーンたち。


「……」

3体説だったの?


「秘密が秘密じゃない人もいるわねぇ」

俺の方にちらりと流し目。


「俺の精霊はトカゲと女の子か。伝説の方達と比べるとだいぶ小さいけど、2体!」

嬉しそうに笑うディーン。


「伝説か――」

レッツェが視線を執事にやると、執事が笑顔で会釈する。


 小さく肩をすくめて追求しないレッツェ。執事にも蕪を逆さにしたような闇の精霊がいるんだが、俺が糠漬けにしたせいか姿を見ない。


 今考えると人から姿を隠す系の精霊だったのかな? それを俺が掴んじゃったから、警戒して寄ってこないんだと思う。壁の影とか屋根の上とか、俺の視線から物理的に姿を隠してるっぽい。精霊に対して物理的って変だけど。


 多分精霊の視界で見ると、建物とか物理的な物は透けて見える。俺が透けて見える精霊の後ろに隠れようと思わないのと同じで、精霊もそれらに隠れようとは思わないんじゃないかな。


 だから、多分隠れてるのは執事の指示だ。精霊に隠れ方を教えただけかもしれないけど。


 ハウロンの精霊も一体は姿を消す系なのかな? それで3体って思われてたとか?


「つーか、俺のトカゲがずっと脇舐めてるんだけど。これ何?」

「フェチ? あと精霊って、自分が執着したものにしか味がしないらしいから……」

つい視線を逸らして言い淀む俺。


 五人のうわぁという顔がディーンに向けられる。


 火トカゲは、フライパンとか鍋の底についてる煤が好きなヤツが多いんだけどね。ディーンに憑いてる火トカゲくんは、どうしてそれに興味向けちゃったんだろうね?


 幸い喋らないからあれだけど、「うーんデリシャス!」とか「塩味がたまらない」とか思ってるんだろうか。


「ディーンはきっと匂いフェチ精霊に好かれる体質なんじゃないかと思う」

視線を逸らしたまま言う。


「匂いフェチ!?」

脇にいる火トカゲくんを見て、一瞬固まり、下を見て、ブーツにくっついてる女の子の精霊を見るディーン。


 目があったことが分かったのか、笑顔にみえないこともない火トカゲくん。ちょと嬉しそう。憑いてる人のことは好きなんだよね。


 火トカゲくんをはじめとした精霊たちと、周囲の人族の表情の対比がひどい。


「あ、大福」

白くて柔らかそうな猫の姿をした精霊が、尻尾をあげて俺に体を擦り付けるようにして通り過ぎていく。


 向かったのはレッツェの膝。


「ああ、坑道にいた……。住み着いてたのか!」

ディノッソが大福を見て言う。当然ながら視線はレッツェの膝。


 大福は気が向くと人に姿を見せてくれるけれど、煩わしいのか見えないようにしていることが多い。


「ああ、本当にジーンが作ったダイフクにそっくりだね。見られないと思ってたから嬉しいよ」

にこにこしているクリス。視線はレッツェの膝。


「久しぶりにお姿を拝見しました。もっと大きかった記憶がございますが、姿を自在に変えられるのですかな?」

執事、視線はレッツェの膝。


「柔らかそうだな。レッツェに懐いてるのか?」

ディーン、視線はレッツェの膝。


「時々来るのはこの子なのね」

ハウロン、視線はレッツェの膝。


「時々お前らが俺の股やら、アッシュの膝やらを見てる理由がようやく分かった」

仏頂面で言うレッツェ。


 バレてた!?

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