第479話 火トカゲくん
「炎のドラゴン……。見ることができて光栄だよ」
どこかうっとりと、ディノッソのドラゴンの精霊を眺めるクリス。
「ああ、俺の相棒だ」
嬉しそうにニヤリと笑うディノッソ。少し背筋も伸びて胸を張っている。
「……
「うぐっ」
「ごふっ」
執事の呟きに、空気を飲み込むディノッソとハウロン。
言われてみれば、顎を撫でてる精霊とクリスの表情は似ている。執事、冷静だな? 笑いの沸点高すぎじゃないか?
「影狼は外せばよかったわ……」
小さくつぶやくハウロン。
「俺もちょっと見てぇな」
机に頬杖をついてやりとりを眺めるレッツェ。
「一時的なものだし、ちょっと見てみるか?」
「本当に一時的なら頼む。ちっとハウロンたちの反応を見ると迷うとこだが、どんな世界なのか一度見ておいた方が対応できることもあるだろうし」
「はい、はい」
大福も見よう、大福も。
早速魔法陣制作に必要な一式を出して、描き始める。えーと、今のは魔力を通した人に見えるようにだから、変えるならこの辺か。
「そこで簡単に要望に応えられるのね」
ハウロンが疲れた感じの声を出す。
「おう。今日の飯はなんだ?」
ディーンが上機嫌で戻って来た。
最近ちゃんと外から戻って飯を食うとき、ディーンが手を洗う。俺がいるときだけかもしれないけど!
「コロッケとミネストローネ。腹減ってるなら肉もつけるぞ? でもちょっと待って」
「ゆっくりでもいいぞ。でも肉も頼むわ」
ディーンが椅子に座って、ハウロンとクリスが食べていたつまみに手を出す。
俺はカリカリ魔法陣を描き上げる。
「で? なんでハウロンは疲れてるんだ?」
もぐもぐしながら軽い感じで聞くディーン。
「なんでかしらね? 何してるのかしら、アタシ。アタシより疲れる人を作りたかったのかしら……」
答えるハウロンはダメな感じ。
「賢い人は悩みも多いって言うしな。バルモアでも手に余るなら、俺じゃ役にたたねぇだろうけど、助けになれることがあるなら言ってくれ」
ディーンはさらりと人に助けの手を伸ばせる男。
「脇にトカゲを挟んで良いこと言わないで! どう反応していいかわからないわ!」
ハウロンが顔を覆って泣く。
トドメを刺す男でもあった。まあうん、脇に挟まれてというか、挟まって脇の下を舐めてるトカゲですね。小さめだし、正面からみないと筋肉に阻まれてよく見えないけど。
盛り上がった胸筋と二の腕の筋肉がいいトカゲ隠し。ハウスのように納まってて、時々ちょろりと出て来たりするトカゲくん。火の精霊でトカゲ型は多くて、こっちでもサラマンダーって種族? 種類? の名前がついてる。
「トカゲ……?」
不思議そうに首を傾げるディーン。
「出来た! で、コロッケと肉ね」
でかいジョッキに入ったビールと料理を出す。ディーンには約束通り肉付き。
「おう、待ってました!」
そして飯に気を持っていかれるディーン。
「あちっ!」
コロッケをがぶっと言って、口の中が熱かったようだ。それでも美味しそうに食べるディーン。
こっちにもコロッケっぽいものはある。小さい俵型で、具はジャガイモじゃなくって穀物の粉と肉を合わせたようなのが多い。場所によって色々。ちょっと不思議。
「……ジーンは見慣れているんだねぇ」
噴き出しはしないけど、クリスの目がトカゲに釘付けになったままだ。
ディーンのトカゲは元々笑う方向よりも、引く方向かもしれないけど。火の舌でチロチロ脇を舐めてるんだもん。ブーツはブーツで女の子型の精霊が嗅いでるし。
「やべぇ、どう反応していいかわかんねぇ……。俺の精霊ドラゴンで良かった、いや、変な性癖なくって良かった」
ディノッソがショックを受けている。
「情報量が多すぎますな」
執事は時々目を逸らしている!
ハウロンは撃沈したままだ!
「食べてからでいいか? この魔法陣を使ったら、落ち着いて食えなくなる気しかしねぇ」
「うん」
レッツェに言われて頷く俺。確実に食ってからの方がいいと思う。
「やっぱみんながおかしいのは、その魔法陣のせいか?」
「うん」
ディーンに聞かれて頷く。
「そこは素直に認めるのね……」
ハウロンが口を挟んでくる。俺はいつでも正直ですよ!
「ディーンも飯食ったら使う? 今ならカッコいいディノッソのドラゴンの精霊が間近で見られる特典がついてるけど」
「使う!」
さすがファン、これだけ怪しい状態だっていうのに即答だった。そして嬉しそうに肉に手を伸ばすディーン。
「お前……、まあいいか。このコロッケっての美味いな、もうひとつくれるか?」
「牛肉の方かな?」
レッツェの手にあるのは、パン粉がデカくてザクザクしてるやつ。カレー味の方は細かいパン粉でちょっとしっとりな感じ。
「これ、こっちの衣でも作れるか?」
「作れるよ?」
「金払うから後で頼む」
レッツェ、コロッケは細かいパン粉派か。
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