第478話 ひっかけ
「本日はこちらです」
小ヤリイカに野菜を詰めたやつのオーブン焼き、牛肉コロッケとカレー味のコロッケ、白インゲン入りのミネストローネ。ワインとパン。
今日はずっとおやつを食いっぱなしだったので、俺は昼抜きだったりする。ハウロンとクリスもずっと飲み食いしてたし、単体でつまめるものにした。
ミネストローネは栄養の偏りの是正用。俺も今日はジャンクなものばかり口に入れてたし。
「そしてこちらです」
魔法陣を差し出す。
「魔法陣? 虫除けか?」
「あれは羽虫にも効いて、重宝しております」
ディノッソと執事。
そういえばルタ用に虫除け作って、ついでに配ったっけ。下水の虻やらは、日数をかけて綺麗に退治された。虫だと卵を見逃すことが多いらしくって、卵が孵る日数分間を置いて、もう一回やったらしい。
羽虫はこの季節、普通にたくさんいて、鎧戸を開けると入ってくる。別に刺したりはしないけど、顔についたり口や目に飛び込んできたりと鬱陶しいヤツだ。
「一回使い切りよ。もう私とクリスは使ったわ」
微笑みを浮かべて二人を見るハウロン。
「使わないという選択肢は?」
笑顔を貼り付けたまま平坦な声で執事。
「アンタ、何か企んでないか?」
ディノッソがハウロン相手に縦皺を眉間に作って、半眼になってる。
「信用ないわね。これはただ、一時的に精霊を見るための魔法陣よ。
肩をすくめて見せるハウロン。
企の否定はしてないね!
「碌でもねぇ予感がするな」
レッツェが魔法陣を一つ手に取る。
「あ。レッツェはやめておきましょう? この精霊たちの事件に、アナタまで巻き込むつもりはないわ」
そっとレッツェの持つ魔法陣を手で押さえる。
「精霊関係か……。毎度レッツェに解決してもらってるしな。せめて精霊関係くれぇは、こっちがやらなきゃしょうがねぇな」
「レッツェ様よりは、私どもの領分でありましょうな」
二人がそれぞれ魔法陣に手を伸ばし、潔く発動させる。
「ふ、ふ、ふ」
俯いたハウロンの口角が、にやっと上がる。
「何!?」
それに気づいたディノッソ。
「ふふふはははは! かかったわね!」
ハウロンが声を出して笑う。
「何が目的か知りませんが、ヘタをすればレッツェ様も巻き込まれておりましたが……。以降、手助けが得られなくなる覚悟ですかな?」
平坦な声だけど、言っていることが微妙に脅迫。
レッツェ、みんなに頼られてるなあ。
「いや、まあ。俺は魔法陣、使えねぇし。どんなもんか見ようとしただけだぞ? クリスがずっとそわそわしてるし、事件というより本当に碌でもねぇ事な気がしてるんだが」
うん。だからレッツェの精霊剣は、自分で魔力が吸えるツタちゃん渡したんだし。まあ、魔力を吸う術式を組み込んだ魔法陣なら、レッツェも使えるだろうけど。だったら魔石から吸う方式でつけた方が便利かな?
「私にとってはステキなことだったから、普通に勧めればいいといったんだけれどね」
申し訳なさそうに言うクリスは、レッツェが二人を迎えに外に出た間に、ハウロンに口止めされてた。俺もだけど。
そしてその顎を撫でている精霊。
「ぶ……っ!」
「……」
一拍間を置いて、噴き出すディノッソ、表情を消す執事。
「どうした?」
二人の様子に怪訝そうなレッツェ。
すっと顔を背けて答えない執事。口元を押さえて前屈みになってるディノッソ。
「おっと、そろってんな!」
そこにディーンが戻ってきた。
「お? 俺の分もある?」
机に並んだ料理を見て、俺に聞いてくる。
「あるよ」
「おう! と、っと。手ぇ洗ってくるぜ!」
荷物を床に投げ出し、席に着こうとして思いとどまって中庭に向かうディーン。
「あ、みんなはもう少し食べられるか?」
ハウロンとクリスは俺と一緒にだらだら食べてたからあれだけど、他の三人はもうちょっと量が多くてもいいかな?
「いや、俺はこれで十分だ。食った後に、酒のつまみは欲しいかな? 長くなりそうだからな」
レッツェ。
「私もこれでたくさんだよ。ジーンの料理は美味しくて、もっと食べたくなってしまうけどね!」
クリスもオッケー。
「アタシもいいわ。酒の肴はこの二人ね」
上機嫌のハウロン。
「お前ら……っ!」
ディノッソが恨みがましい目を向けてくる。
「これが目的でございましたか……」
こっちを見ない執事。
「ちょっと俺の見ている世界を見てもらいたかっただけです」
悪気はない、ただ巻き込みたかっただけです。
ディーンには早くブーツを脱いで欲しいね!
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