第477話 見えないところで
「来てたのか。ただいま」
程なく帰ってきたのはレッツェ。ディーン、ディーンはまだか。
「おかえり、レッツェ」
「おかえり!」
「ちっと荷物置いてくる」
俺とクリスの挨拶に、そういって部屋にひっこむ。
そっと魔法陣を尻の下に隠す俺。ディーンとディノッソと執事分は作ったんだけど、レッツェはきっといらないって言うと思う。そして見つかったらほっぺたの人権が危うい予感。
「うう」
ハウロンが机に突っ伏して時々震える。
「そろそろ復活していいと思うんだけど」
「僕は、精霊が見えてただ感動するだけなのだけれど、大賢者たる方はやはり色々考えてしまうのだろうね」
クリスは割れ顎愛精霊をそっと愛でている。
とりあえずクリスにも魔法陣を使ってもらった。すごくキラキラ感動して、嬉しそうにしている。多分角度的に自分の顎のあたりに手があることしかわからないだろうけど。
他の精霊に興味はあるけれど、絶対挙動不審になるからと、外にはいかずに居間に自主的に籠っている。
クリスなら多分、朝日の光の精霊とか、その辺なら見えるんじゃないかと思うんだけど。精霊の枝に行けば、色々な精霊がいるんで姿が見える精霊もいると思う。
でもやっぱり本命はディーンに憑いている精霊。それ用に調整した魔法陣だからね!
「はっきり、自分の精霊もはっきり……」
「うん? それは見えてたんじゃないの?」
それともクリスの自分の精霊? 何?
「見えてたわよ! 何かしてもらう時、魔力を渡した時、見ようと意識した時! でも見ようとしなければ普段は淡い光のモヤに包まれて、ちゃんとこの世界が透けて見えてたの! こんなはっきりくっきり、ファンドールがエギマを踏んでるところなんて見えなかったのよ!」
がばっと顔を上げるハウロン。
ハウロンに憑いている精霊は、花弁みたいな髪を持つ華やかな精霊ファンドール、赤い帽子に土色の肌を持つ小人の精霊、薄い青い衣の精霊、一反木綿みたいな精霊。
踏まれているのは一反木綿、これがエギマか。一反木綿じゃだめか?
城塞都市の副ギルドマスターの精霊も、憑いてる人の目を盗んでがぶがぶしてたし、精霊はけっこうちゃっかりしてるというか、見えないことをいいことに、お茶目なことをしているんだな。
ファンドールもこれ、ハウロンに見えないと思ってやってるだろ。
そしてまた突っ伏すハウロン。
「透けないほどなのかい? さすがは大賢者! 私は少し透けて見えるよ!」
クリスが手振りつきでハウロンに賞賛を送る。
魔力の大きさか、それとも普段すでに見ていたからか、どうやら魔法陣使用でも見え方に違いがあるみたいだ。はっきり見えるようにって魔法陣に条件入れとくか。
でも透過しないで視界を塞ぐのも不便だよね、ハウロン4体も周りにいるし。俺も街中とか場所によって、どの程度見えるか調整してるし。
「そう言えばカーンの迎えとかはいいの?」
ハウロンの背中に聞く。
「ティルドナイ王は、中原の某所にしばらくいるわ。建国のため、必要なものを見極めに……」
「あったかくなったから活動してるのか」
寒いと暖炉の前から動かないもんな。
「お前にかかるとやたら庶民的になるな」
レッツェが居間に入ってきた。
「気のせいです。お疲れ」
「お疲れ様、仕事はうまくいったかい?」
「ぼちぼち。――俺よりハウロンが疲れてるみてぇだけどな」
机に懐いているハウロンにちらっと目をやって言うレッツェ。
「で、何があった?」
椅子に座って聞いてくる。
「ちょっとクリスの精霊を見てもらってただけです」
「お前、後ろ暗いことあるのすごくわかりやすいな」
レッツェにジト目で見られる。
くっ。敬語、敬語か。でもつい出てしまう……!
「クリスもジーンに話していいかアイコンタクト取ってるしな」
「え」
クリスを見る俺。目があった。
「ううう。庶民的でぽわぽわなのに私にダメージを与える……」
のそりと起き出すハウロン。
髪が乱れてますよ?
「バルモア……、ディノッソとノートを連れてきて! アタシだけなんて納得いかないわ!」
「お、おう?」
レッツェの袖をつかんで必死の形相。
最近はディノッソ本人の希望でディノッソ呼びだが、時々バルモアの名が出る。ノートも影狼は不穏なのでノート呼び。いっぱい名前があるとややこしいし、有名人だからいらない注目を集めることもあるしね。
後ついでにハウロンの別人格のリンリン、あれも俺に精霊語を試すのに適当に口にしただけだった。もう厳格な方はリンリン老師で覚えたから、今から変えるの無理。
ちなみにあれからリンリン老師に何度か会ってる。ただ、すぐにハウロンになるんで、あんまり話したりはしてない。
「ディーンが帰ってくる前に早く……っ」
そうして力尽きたハウロン。
「また突っ伏した」
「何したんだお前……」
ハウロンにクリスの精霊を見てもらっただけです。本当です。
「私は嬉しいくらいだよ?」
クリスがフォローしてくれる。
で、腰の軽いレッツェが指名の二人を呼んできた。さては、積極的に巻き込んでいくスタイルだな、ハウロン!
「何だ? 碌でもねぇことに巻き込む算段だって聞いたが?」
「まだレッツェ様も詳細を把握しきれていない様子、何事ですかな」
そして積極的に巻き込まれに来た二人。
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