第476話 道連れ
俺もアイスもどきを食いながら、二人を眺める。よく食べてくれるな?
神殿で回復、精霊の影響でもって効能が上げられた薬があるとはいえ、腹を壊して命を落とす者が多い世界。
最近、お茶の習慣が広まって腹を壊す人が減ったそうだ。生水じゃなくって、煮沸してお湯を飲んでるからだろうけど、お茶が大変体にいいって爆発的に広まってる。
でも、ハウロンやレッツェをはじめ、俺の周りの人は「生水はダメ、沸かして飲む」って知ってる。経験則なんだろうけど、なんかこう知識の差が激しい世界だ。いや、知識というか、賢明さの差?
で、知ってるはずの二人が俺の出した冷たい物を食べてくれている。冷たい物も腹を壊しやすいって知ってる二人。ビールも飲んでるけどね。
俺の周りはいい奴ばかりだ。
最初苦手だと思ってたディーンやクリスも。うん、顎精霊にも慣れたね! 最初は顎の割れ目を愛おしそうに撫でてる精霊にどんな顔していいかわからなかったけど!
他の人には光の球に見えてることがわかった時は、膝から崩れ落ちそうになったけど。
「ハウロン、ハウロンもクリスの精霊は光の球に見えるの?」
大賢者ならばワンチャン!
「そうね、ちょっとキラキラしてる球に見えるわね。光の精霊なのはわかるし、よく見かける光の精霊よりキラキラしてるのは分かるわ」
「キラキラ……」
それだけなの?
「キラキラしてるっていうのは、強さ的な意味じゃなくって性格、属性的の細分化的にって言えばわかるかしら」
「ああ、光の中でも朝の光とか夕日の光とか」
納得したけど、違う。そうじゃない。
「そう。縁がある精霊、例えばディノッソの火の精霊は割とはっきり見えるけど」
「よし、クリスかディーンと縁を強くしよう!」
「精霊の話よ? ディーンは火の精霊だから、精霊が隠れたいタイプじゃなければ、そのうち見えるようになるかもしれないけど」
ああ……ハウロンの4体の精霊に光はいなかったっけ? ハウロン、光の精霊と相性そんなに良くないのかな?
「すごいね! 見える人に聞いたことがあるけど、大きさだけ違う同じ球に見えるって言ってたよ!」
クリスが相変わらずのオーバージェスチャー付きで、キラキラした目をハウロンに向ける。
「へえ。ああ、そうだ」
「何かしら?」
「何だい?」
「ちょっと飲んで待ってて」
ワインとつまみを出して、俺は作業開始。
書くのは――羊皮紙でいいか。インクは光と火に相性がいいやつ。ペンは購入したガラスペン。
俺の作業を眺めながら、二人がワインを飲む。しばし、俺が紙にペンを走らせる音だけが響く。
「それは精霊を見せる魔法陣?」
「弟が使った奴かい?」
「クリスの弟君が乗ったのは自分の精霊を見る魔法陣、これは人の精霊を一時的に見えるようにするヤツ」
ユニコーンだと思ってたら白い馬頭みたいな精霊だった弟君、元気だろうか?
「ちょっと。神殿の魔法陣はもっと大きいでしょう? 何でそんなに小さいのよ。アナタのことだからそれでも発動するんでしょうけど」
「神殿で魔法陣はいくつか見せてもらったし、他でも色々見たから」
主に精霊図書館ですが。
余計な物は削ったり、長ったらしい文言が書いてあったところを、精霊図書館で覚えた記号に置き換えたりした。漢字で呪文を書ければもっと短くなりそうだけど、精霊が読めないからダメ。
俺が魔力を込めて書いた漢字は、俺が名付けた精霊は読めるんだけどね。漢字が読めるというか、俺が書いた意図を読めるというか。
「よし、できた」
「魔力の通りも悪くなさそうね。ちゃんと発動することだけは分かるわ」
俺がぺろっと持ち上げた羊皮紙をハウロンがチェックする。
「ささ。ハウロン、使って使って」
「興味はあるけど、アタシでいいの? 普段精霊を見られないクリスの方が良くない?」
「見たければクリスの分も作るから」
「うん?」
微妙に納得できない顔ながらも魔法陣が書かれた羊皮紙を受け取り、魔力を流す。
「ささ。クリスの精霊を!」
「うん? ……んふっ」
ハウロンが一瞬梅干しが酸っぱかったみたいな口をして顔を背ける。
よし!
「何だい? もしかして僕の精霊も筋肉質の馬なのかい?」
ハウロンの反応に首を傾げて聞いてくるクリス。
「いや、可愛らしい小さな女の子の精霊だよ」
ただうっとりした顔でずっと顎の割れ目を愛でているだけで。
こうして俺の気持ちをわかってくれる人ができた! 俺はもう慣れちゃったけどね!
「ちょっと! どうするのよ、クリスが見られないじゃない!」
「大丈夫です。慣れます」
「慣れるまでどうするのよ!!! なれる頃には魔法陣の効果、消えるでしょ!」
ちょっと往生際が悪いけど、精霊の姿がはっきり見えるお仲間です。帰って来たら、ディーンのも見えるはずだから、帰ってくるまでここに居座るよ!
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