第471話 ルーティン
炊き立てご飯に豆腐とわかめの味噌汁、オクラと湯葉のお浸し、若竹煮、大根の煮物、きゅうりと鳥の中華和え、漬物各種――さっぱりしたものを、ぜんぶちょっとずつ。そしてあさりと生姜の佃煮。
味噌汁を一口、おかずは薄味で寝起きに優しい味。炊き立てのご飯に甘辛い佃煮。濃いめの味付けに負けないあさりの滋味、ご飯のお供にとてもいい。
俺の朝飯は和食と洋食が半々くらい。今日みたいに色々な日は、【収納】から作り置きを出してる。
ちなみにカヌムのみんなは、大体いつも同じもの。パンにバターかジャム、野菜スープとハムかベーコンかソーセージ。アッシュと執事は、それプラス卵があるなら卵料理と、果物か甘いものを少し。
なんか食べるものを毎回変えると疲れてしまうんだって。俺も日本にいた時は、トーストとコーヒーだけだったな。食事というより朝のルーティンだな。こっちに来てからは、朝から動き回るし好きに食べるようになったけど。
朝のルーティンはリシュとの散歩と畑の見回りに変わった。朝採れの野菜や卵で作ることもある。でも俺、生みたての卵は少し苦手だったりする。冷蔵庫で冷えてる卵に慣れてたからかな? ほかほかしてる卵はちょっとなんか抵抗がある。
さて、今日は畑と果樹園の手入れ、いや家畜小屋の掃除からかな。ほぼ放し飼いなんで、すごく臭いってことはないんだけど、やっぱり寝藁は汚れ気味だし、湿っちゃったりするんで取り替える。
リシュは自分の影をたしっと短く飛んで踏む遊びで、短い距離をぐるぐる。うちのこ可愛い。
家畜たちは日の出と共に好きなところに散ってゆく。大体牛は牛同士、豚は豚同士みたいな感じでいるけど。山羊と羊、牛の行動範囲は結構広くて豚は狭いみたい。
夕方まで住人のいない家畜小屋から使用済みの藁を出し――というか【収納】して、藁のあった場所に少し風を通すため他のことをする。小屋の掃除だったり、傷んだ場所の修理だったり。
家畜小屋そばの水路の点検。水路といってもU字溝みたいなかっちりしたやつじゃなくって、半分小川だ。水車小屋付近は深いし、ちゃんと水路っぽいけど。ここは家畜たちが自由に水を飲めるよう、浅めで水面が近い。
で、新しい藁を敷いたら畑に移動。畑の脇に作ってある堆肥や土を作るための場所に、古い藁を出して土にすき込む。他に米糠とか落ち葉とか混ぜているのは色々だ。
少し上の方に水田を作るつもりでいるけど、なかなか手が回らない。今は陸田だけど、やっぱり水田の風景に憧れる。日本にいる時は気にしてなかったのに、特にメール人の一面の麦畑と水路を見たら水田が見たくなった。山だし、棚田になるのかな。一面の〜には遠いけど、少しだけ。
あんまり色々作ると、リシュとの散歩が山歩きじゃなくなっちゃうし。うちの山の中の風景は割と気に入ってる。
「あ、こんにちは」
久しぶりに畑に現れたパルに、リシュがちょっと不審顔。
「はい、こんにちは。畑は変わっていないようだね」
「おかげさまで」
精霊のいたずらを禁止したり色々あったけど、概ね無事です。
「こっちの空いた場所は何を植えるんだい?」
「トウモロコシです」
枝豆も植えたし、シシトウもセロリも植えた。この辺は俺が食べる分だけなんで少しずつ。
「きゅうりも植えたんですけど、ここのはいいんですけど他の土地で失敗するんですよね」
ここはパルをはじめ、精霊たちが手伝ってくれるんで失敗は滅多にない。
育てるのを失敗は滅多にないけど、精霊がやりすぎてヤバいものができることはあることはとりあえず置いておく。
島のきゅうりがね、元気がない。ここと同じように水捌けがよくて風通しがいいとこに植えたんだけど。
「ああ、これかい。来年はそっちのカボチャの苗と接木をおし」
「接木……」
根っこが丈夫な同系の植物に弱い植物の実のなる方をくっつけるんだっけ? 木ならともかく、きゅうりの苗でやるの難しくない?
顔に出ていたのか、伸びてきたら下の方の葉っぱを取れとか、難易度が低い対策も教えてくれた。精霊に頼んで、蒸れないように風を送れとか反則も少々。最終的には俺じゃなくって、みんなが作れるように広げたいので反則は却下。
俺は人の作ったいろんな料理が食いたいの!
「あれ? パル、強くなってる?」
パルの周りの野菜が、力を振るった風でもないのに元気になるどころか育ってる。
いるだけでこれって強くなってるよね?
「私だけじゃないよ。他も多かれ少なかれ強くなったはずさ」
微笑むパル。
「精霊って修行とかするんでしたっけ?」
自由で気まま、自分の好きなこと以外に
パルが修行って合わない、何をするんだ?
「まあそういう時もあるのさ」
誤魔化された!
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