第469話 メール人は乾燥に弱い
建物の中は、日干しレンガで凹凸をつけた幾何学模様。町中で見たものよりも規模が大きく細かい。壁によってはレンガではなく、花みたいな模様が透かしになっているんで、床にその模様の影ができている。
雨がほとんど降らない地域? その割に水が豊富だけど。ガラスの類ははまっていないし、カヌムみたいに鎧戸もない。模様の隙間から吹き込んでくる風が気持ちいい。
奥に進んでゆくと色のついたレンガが混じり始めた。レンガの色は緑と青、白。表面だけ
生き物ではライオンのモチーフが多い。うん、ちゃんとライオンだって分かる絵になってるの凄い。レンガひとつずつ部分的に必要な色を付けて、組み合わせて大きな絵にするの大変そう。しかもこれちょっと浮き彫りもしてある。
でっかいライオンの壁画を眺めながら、廊下を歩く。
『この生き物は近くにいるの?』
『いるよ。でも近づいては来ない、距離をとったお付き合いだよ。お互い危ないからね』
距離をとったお付き合い……。
お互い危ないってことは、メール人の方にも何かしら攻撃手段があるということ。こっちの世界は魔物もいるし、ライオンがどの程度の扱いになるか微妙だけど、うん、穀倉地帯を持ってて人間に攻められてないってことはそうなんだろうな。
戦ったらメール人って強いんだろうな~と思いつつ、俺には戦う理由も必要もないので、のんびり見学させてもらいます。
魔物と黒精霊とは一通り戦うけどね。素材も取れるし、俺も戦闘経験は積んでおかないと、いざという時困るし。戦うことになるかどうかは分からないけど、俺と似たようなモノなんだろう――『人形』くん。
天井は高く、あちこちに飾ってある花は、焼き物ではなく石から切り出した感じの壺に生けてある。基本、室内は明かりもなくって薄暗いんだけど、代わりに涼しい。
床下から水の流れる音がする。もしかしたら、俺の島と一緒で、水はここから流れ出しているのかもしれない。
『この奥は立ち入り禁止。ごめんね?』
『いいよ。俺、初めて来たんだし』
むしろここまで入らせてくれるの大丈夫かな? って思う。
ここで止められるのは、この先に大事なものがあるってことだろうし。大事なものの場所を教えていいの? ってなる。本当に大事なものは別にあるパターンかもしれないし、フェイク情報かもしれないけど。
『畑とか町の外も見ていい?』
『いいよ。麦は踏んでも大丈夫だけど、花は踏まないでね?』
ということで、今度は町の外。大規模
遠くの水路は見えないけど、緑が直線的にわさわさしてるから分かる。
『水魔法?』
『魔法じゃないよ。でも魔法って伝えた方が船でくるヒトには理解しやすいみたいだね』
灌漑用の水路はあるものの、日陰がほとんどない場所で畑の手入れをしているメール人たち。作業しているメール人たちはみんな、水球の中にいる。手を伸ばす前方だけ薄い水の膜がざぷんと割れてる。
俺が土偶のいる湖に潜る時に、大気や風の精霊にお願いして空気の層を体の周囲に作ってるのと一緒っぽい。俺のも魔法かどうかは怪しいし、そういうことかな?
水路があるんで水関係の精霊もたくさんいるけど、精霊が個別に願いを聞いている気配はない。ないけど『こまかいの』が精霊から流れ出してメール人に集まってる。
一面の小麦畑に水路のそばの木々、彩る花々。葉の間を飛び回り、水路で休みと気ままに過ごす精霊たち。
『ここの人たちは、船に乗って来るヒトより精霊に近いのかな?』
それも水の精霊。人間よりも地の民よりも精霊よりに感じる。
『うん。でも君ほどじゃない。君はよく分からない』
『俺も自分でよく分からない。俺は俺だけど、精霊に造られた体だからね』
『勇者なの? それにしては気配がへん。色々混じってる』
ああ、精霊の属性の気配も分かるのか。勇者って召喚した神の属性に傾くはずだし、黒精霊まで捕まえてる俺はさぞかし変な気配なんだろうな。
『来た方法は勇者と同じなんだけど、野良なんだ。あちこちフラフラ観光しながら精霊に名付けてるんだけど、黒いのも含めて片っ端からしてるから変なんじゃないかな?』
『黒いのにも?』
『うん、耐性あるから。――ああ、俺が渡した緑色のは魔石だから、利用するなら影響受けないように気をつけて』
大きいのは黒いのの影響があるって聞いたし、メール人が精霊に近いなら人間より影響されやすいかもしれない。
『大丈夫、コワイのは綺麗にするから。ここの精霊には名付けないの?』
『町に来る前にちょっと名付けたけど、ここの人たちは精霊と共生してるみたいだし、俺が名付けちゃなんか嫌だろ』
メール人はどう考えても精霊が見えていて、蝶々がそこにいるくらいの感覚で暮らしている。
見えてるすぐ近くにいる精霊が、知らない誰かの影響下って嫌だと思う。
『やっぱり変わってるよ』
メール人に変わってるって言われてしまった……っ!
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