第468話 町の中
俺というか、緑の魔石を覗き込んでいたメール人が少し離れ、身をくねらせ始めた。
俺を囲む5人が体を揺らし、腕を動かし――はい、『小さいので小麦船いっぱい、中ぐらいので船十杯。大きいのはどうしたらいい? 小麦はどれくらい?』。
ジェスチャー、ジェスチャーが言語か! そして【言語】さん優秀すぎ……っ!
『わかるかな? 無理かな? 取引の石板持ってくる?』
表情は変わらないけれど、少し不安と困惑が伝わってくる。ちょっと子供っぽいというか、純粋な印象も。
『小さいのと中くらいのはそれでいいよ。大きいので町の見学をさせてくれますか?』
って言おうとしたら俺も謎の踊りを踊るっていうね。【言語】さん……っ!!!!!!
『あ、通じてる。わかるんだ? 君の言葉には敵意もないね。いいよ、案内してあげる。緑のちょうだいね?』
ああ、この言語、嘘がつけないんだ。気持ちを伝えるのも込みなのかな? 話してみたら、第一印象の怖さはきれいに消えた。
『うん。先に大きいのは渡しておく』
でもあれです、俺までくねくねするの恥ずかしい。テレパシーとかないですか? え、ない? そうですか。
一人心の中で問いかけ否定しつつ、メール人についてゆく。メール人の手や腕は人間より少しだけ平たい。服装は胸のあたりから広がるワンピースみたいなやつに、袖なしの上着、頭に布の覆い。5人の中で一人だけ、帽子の形が違うけど、中身の見分けはつかないし、男女の別はよく分からない。
相変わらずスーッと移動するんだけど、地面に擦りそうなほど長い裾に隠れて足は見えない。さすがに絶対セクハラな気がするので見せて欲しいとは言えない。違う人種で違う文化でも、布で隠してるってことはそういうことなんだと思うしね。
見せて欲しいって言ったら、求婚になったりして。文化の違いは怖いです。
『ここは広場。あちこちに水がいっぱいなのは、目が乾燥しないようにだよ』
『俺たちより目が大きいしね。噴水、綺麗だ』
彫刻が綺麗な水が吹き出すだけの噴水はいくつか見たことがあるけど、ここのはちょっと凝っている。
大きな噴水に合わせて、周囲の小さな噴水も水を吹き上げ、周囲に水が散る。小さな噴水は真っ直ぐに噴き上がるだけだけど、大きな噴水はドーム型に水を作ってる。
装飾されたボウルをひっくり返したようなのが、噴き出す水を受けて宙に浮かび、そのボウルの曲線にそって水が下に垂れているかんじ。噴き出す水の強弱もあって、ボウルが空飛ぶ円盤みたいに上下するのがちょっと面白い。
なお、とても稀にだけどメール人も瞬きをする模様。それに個別にも動けるけど、集団で情報を共有して同じ考えを持っているっぽい。踊り――喋るのも打ち合わせなしにぴったり揃ってるしね。
花と水と日干しレンガに施された綺麗な模様。広場とかヒトの集まるところは凝っているけど、町の端の方も手抜きがない。そして建造物は規則的。
メール人は大体5人で行動をしてるみたいだ。ヒトはそれなりにいるけど、水の音とか風が木々を揺らすさわさわとした音しか聞こえない。何かやっぱり不思議なかんじ。
精霊たちを見れば、大体どんなところかわかる。白い日差し、明るい日差しとかの光精霊、飛沫、溢れる水とかの水の精霊、花の精霊がたくさん。そして、規則的で穏やかな精霊が多い?
穏やかで同じ生活を続け、あんまり変化は好まない種族ってところかな? 大勢で押しかけたり、こっちの文化を持ち込むのはやめた方が良さそうだね。
精霊たちの姿は、ヒト型も多いけど頭が長くってメール人寄り。そして静かなのは、ジェスチャーで話してるっぽい。水音の精霊とかはジェスチャーと一緒に声も出てるけど。
『君たちはどんなものを食べるの?』
メール人たちに聞いてみる。
『水と小麦と花の蜜だよ』
『なるほど』
周囲を見回して納得する。水と花に溢れた町、町の外では小麦畑が広がっていて、他の作物は見当たらなかった。
メール人が集団からすーっと一人離れていって、他の場所を見せてもらっているところに戻ってきた。
『よく食べるのはこれだよ。これはシャカラダの花の蜜だね』
差し出されたのは薄くて四角く切られた小麦粉を焼いたもの。
シャカラダは町にも生えてる背の高い木に咲いてる紫の花らしい。植えられてる花は、花の蜜が多い種類が選ばれてるんだそうだ。
『ありがとう。いただきます』
無発酵のパンかな? ちょっと硬めでぱりっとする。齧ると小麦粉の味、次に花の香りが鼻に抜けてほんのり甘い味が口に広がる。素朴だけど美味しい。
もぐもぐと食べて水を飲む。ちょっと口の中の水分を奪うので、水がありがたい。癖がなくって口当たりの柔らかい水、軟水かな? 珍しい。
最後に連れて行かれたのは、一番大きくて町の中心のような建物。他の建物と比べて、日干しレンガの壁が厚いし、装飾もこっている。
『精霊の枝』とか神殿とかにあたる場所かな? 統治者がいるなら王宮?
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