第467話 メール
せっせと進んで四日目、本日はお休み。多分そろそろ地図にある港町に着くので、休憩がてら情報収集。
主に住んでる人の性格。何を好いて何を嫌がるのか、やっちゃいけないこととか。実際行ったことのある人に聞く方が、本で調べるより分かりやすいってことで、ナルアディードの酒場に来てる。
「ああ、黒い大きな目のヒトたちか。どうって言われても、言葉が通じねぇからなぁ」
ひげもじゃのおっさんは、ついさっきナルアディードに着いて、酒場に駆け込んだ船乗り。
昼間から酒を飲んですでに出来上がってる船乗りもいるけど、長い航海を無事終えて、狭い船室から解放されたお祝いなのだろう、とても騒がしい。その中から話が聞けそうな程度の酔っ払いをチョイスしている。
「言葉が通じないまま交易してるの?」
「まあな。俺たちゃ緑色した宝石を持ってく、あっちは小麦をくれる。大昔の約束らしい」
俺の奢った酒を飲みながらおさんが言う。
「おかしな具合の奴らだが、魔石でしかも親指の先より大きけりゃ、十の船の船倉がいっぱいだ。まあ、緑の透明な魔石ででかいのなんて滅多にお目にかかれねぇけど、普通の宝石や小さな袋いっぱいの魔石だってそれなりさ。なにより行きは他のもん乗せて、途中で売り払えるからな!」
何か愉快になったらしく、ゲラゲラ笑うおっさん。
「わははは! メールの奴らか? あいつらは俺たちみてぇな人間じゃねぇからな! 顔を合わせるのがちょっとで助かるぜ!」
「ぶはっ! なんてったって緑の宝石出すだけだからな!」
笑い声に誘われたのか、仲間の船乗りが笑いながら会話に加わってくる。そしてあっという間に酒と女の話にシフト。
船乗りに呼ばれてるメールっていう土地だか町だかの名前と、交易の仕方しか分からない件について。とりあえず緑色の魔石をポッケに入れてけばなんとかなりそう?
ナルアディードは、中原とかカヌムがある大陸とエスがあるドラゴンの大陸に挟まれた大きな湾にある。エス川より東に、狭い海峡があってそこから南下して東に向かってる。
ただ海峡の入り口は少し行くととても狭くなって、進むと広くはなるけど今度は砂が溜まって浅くなる。北方と貿易するような大きな船は使えないらしい。
内海を行き来する船ほど小さいわけじゃないけど、移動距離の割には小ぶりだそうだ。ナルアディードで何か積んで、エスで売り払って海峡へ進むことが多いって。
ついでに海峡はドラゴンの縄張りから微妙に外れる場所で、魔物が出るらしく、命懸けで給料がいいのだそうだ。うん、俺がイルカと千本ノックした海のことだね!
そう言うわけで、やってまいりましたメール。
真っ黒な目が顔の三分の一くらいあって、頭が長い。男も女も長い裾の衣を着ていて、足をどうやって動かしているのか体が全く揺れず、スーーっと流れるように移動する。肌は青い。
え、待って。
本当に人間じゃないとは思ってなかったんですけど。いや、ドワーフもいるし? エルフもいるかな? くらいには思ってたけど。俺のこの世界への認識が甘かったようだ。
俺も俺の周りにいる人も元の世界の「人間」とはちょっと違うしね。目の色とか髪の色もそうだけど、顔の彫が深かったり日本人みたいに童顔だったり混じってるし。
北に行くと彫りが深くて身長2メートル? みたいなムキムキ半裸もいるし。半裸は関係ないか。なんで毛皮着ながら半裸なんかちょっと理解できなくってつい。
そういえば、北は黒山、東は魔の森――で、人が住める地はその真ん中だけって聞いたような聞かないような……。あれってもしや他は人以外の町があって暮らしてるってことだったりする?
日干しレンガかな? 家、道は黄色がかった象牙色。カヌムやナルアディードの家と比べて色味は地味だけど、積み方と表面に塗った粘土を削って模様が作られていて、美しい。
小麦ってことは
えーとどうしよう? 俺の存在に気づいてるのか気づいてないのか、丸っとスルーされて、目の前を行き交っているメール人たち。【言語】さんで、言葉はわかるはずだけど、とても話しかけづらいです。
まさか港から入らないと認識されないとか、交流断固拒否とか――? 一応、緑色した魔石は持って来たけど、港に行ってどこかで見せればいいのかな?
色が濃くってしかも透明度が高いやつを大小選んできたんだけど。
「うをうっ!!!」
ちょっと途方に暮れて、緑の魔石を出してそれに目をやった一瞬。
目を上げから思いっきりメール人に囲まれてます! 気配がなかった、怖いよ!
瞳が真っ黒で瞳孔との境がわからない。そもそも瞳孔がないのか、全部瞳孔なのか。瞬きもしないで、その黒い目で俺を、俺の手の中の魔石を見ている。
もう一度言います。
怖いよ!!!!!!!!!
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