第465話 ひと段落。

 島から持って来た豚が焼けている。


 畑作業をやっている間、村の年寄りたちが鉄串をくるくるやってこんがり――表面焦げてるけど――焼いたものだ。地面には浅く穴が掘られ、中には白と黒のたっぷりの炭、風が起きるとまだちろちろと火が起きる。


 アウロが表面の焦げたところを大きなナイフの背で落とす。で、最初の何人かのために切り分けるのは俺の仕事だ。


 まずは村長へ、次に役人二人。一人は村人から任命、一人は島から時々通い。小さな村なんでこれで済む。やることは農業の指導だしね。


 基本、領地の中のものは全部領主のもの。でも、ところによっては領主の直営地以外だと土地を持ってる人もいる。あれだ、王様が貴族に領地与えてるやつの規模が小さくなったやつ。


 この世界は王様がいて下に貴族がいる場所もあるし、俺みたいに領地持ってて独立してるのもいるしで、いろんな制度が入り混じってる。


 とりあえずうちは自由に使っていい畑の区画を解放中、他は全部俺のもの! というと強欲っぽいけど、干上がりかけた広場の井戸を掘り直したし、色々疲弊している土地なんで、薪と当面の食べ物を少し援助している状態。今のところ持ち出しの方が多い。


「おお、ありがとうございます。美味いですな」

ニコニコと上機嫌な村長。


 他の人たちも笑顔なことにほっとする。なにせ見たことのないような得体の知れないもの、というか毒の噂があるものを作ってもらってるからね。トマトだけど。


「おかげで一人も餓死せずに済みます」

急に重い一言!


 村の主要な人に肉を配った後は、村長と役人さんに丸焼きの管理を任せる。焼けてるところを切り取った後は、またくるくる回して焼いて、焼けた表面を切り落として、の繰り返し。


「これから配る食べ物は、今日みんなに植えてもらった野菜だ。トマトというんだが、毒はない。季節にはそのまま焼いたり煮たりして食べられるが、今回のは少し干してオイル漬けにして保存しておいたものだ。自分たちがどんなものを作ってるか、食ってみてくれ」


 トマトの説明を演説の代わりにして切りあげる俺。面倒なので話は短くします。話している間、集会場で焼いたピザが配られる。チーズとドライトマトだけのピザ。


 精霊の手伝いはなし、トマトは島で採れたもの、小麦その他はナルアディードで買ったやつ。村人が興味津々に手に取り、ざわめく。


「この赤いやつ?」

「これが俺たちが今日植えたやつか?」

「いい匂い」

「チーズ、いいやつだぁ!」


 おい、最後。そこじゃない。

 

 トマトが毒だっていう話さえも伝わってない田舎な気配? 毒だって言われてるトマトとだいぶ姿が違うし、同じものと思われていない? どっちだろう?


 ああ、そういえばもう少し緑が戻ったら牧人を雇って、牛か羊を飼おう。島よりたくさん飼えるから色々捗るはず。


 精霊が頑張ってくれてるし、大地が薄く緑で覆われるのもそう遠い先の話ではないはず。休憩所として『精霊の枝』をどこかに作りたい。


 でも集落は小さいし、広場の真ん中は井戸だし、場所に困る。広場を囲むのは生活してる人がいる建物だしね。元々『精霊の枝』がないような小さな村だ。


「我が君、どうなさいました?」

俺が難しい顔をしていたのか、アウロが聞いてくる。


「いや、『精霊の枝』を作ろうかと。枝は置かない・・・・・・けど、精霊の休憩所として。やっぱり集会所にくっつけるか」

水の流れる花々が多い場所。


「それがよろしいかと」

アウロが笑顔で答える。


 普通、領主とは切り離してあるものなんだけど、村と離して作るよりはいいだろう。あとは森が森らしくもどればそっちでも休めるだろうし。 


 とりあえず丸焼きもピザも好評。トマトは保存も効くってことで、村人の期待値が上がってるようだ。


「我が君は領民の心を掴むことが上手い」

キラキラしているアウロ。


 ハードル上げないでくれますか? 飯で釣って仲良くなっても、仲良くなるだけじゃ領主の仕事はできないことくらいは分かる。まあ、直接の仕事はお願いした役人さんがするんだけどね。


 俺はしたいことの希望を言うだけで、調整やら大変なことはソレイユたちがやってくれてるし。


 頑張ってくれてるソレイユには後で何か贈ろう。多分、地の民がドラゴンの鱗で何か美術品を作るはず。何を作るか聞いてないけど、ハウロンの話からすると、地の民は何を作っても高性能の道具か美術品になるらしいからね。


 とりあえず飛び地での仕事は上手くいった。青の島はもちろん順調だし、領主のお仕事は落ち着いたかな? 


 やるべきことはやったし、ドラゴンを探して南の端にはたどり着いたし、明日からは東の探索に乗り出そう。

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