第464話 リプア

 アウロと一緒にタリア半島の飛び地に来ている。


 旱魃かんばつに困って、領主が譲り渡してきた土地だ。元々日差しが強くて雨が少ない土地なんだけど、ここ三年ほどはお隣のマリナ半島共々なかなか厳しかったようだ。


 タリア半島の南、東側の海に面した場所でリプアと呼ばれる地域。本日は今年の分のトマトを植えるってことで見に来た。


 白っぽい土にタリア半島にしては平な土地が広く続く。俺の『家』の周りもそうだけど、緩やかな丘陵になってることが多いんだよね。あとは山岳地。


「我が君、日傘をご用意しましたがお使いになりますか?」

「いや、いい」

どこの御令嬢だ。


 まだ春だというのにかなり暑い。島も水路がなかったらこうなんだろうけど、草も少なく顔を見せている白い土が、余計暑さを増させている気がする。


 アウロはさすがに上着は脱いでいるけど、汗ひとつかいていない。いつもの笑顔でいつもの調子。上着を着てる姿を見慣れているせいか、腕まくりのワイシャツ姿が珍しい感じ。


 島から島民が苗を運び、リプアの人たちが植えている。ちょっと前まではじゃがいもだったんだけど、それはナルアディードで種芋として売った。がっちりと大きく、中身は黄色いやつなんだけど、あったかい土地用のなんで、ナルアディードの商人はこの辺で育てて、西に北に運ぶことになる。


 寒い土地用もつくりたいんだけどね、ちょっとだけだったら『家』の山で作れるけど、たくさん作るにはどこでやっていいやら。


 もちろん種芋として売り払う前に、ソレイユたちと、この実際に育ててくれた人たちには味見をしてもらっている。結構好評で、トマト畑の隅で村人たちの分を作ることを許可している。むしろ保存がきくし推奨。


 村の名前はそのままリプア。本当は俺のものになった土地よりもリプアと呼ばれる地域は広いんだけど、まあ、他は人の住んでない土地だから。去年までは他に3つ村があったらしいけど、続いた旱魃で離散したらしい。


 離散した村の住人は、港で雇われ人足とかで安く使われてるっぽい。あまりいい境遇とはいえないけど、餓死者が出る寸前だったようだし。


 なお、ここの村人は土地ごと俺に売られている。住人は40人くらいだけどね。40人だけど、これは代官おくやつ? それともリプア領とか言って、領主おくやつ? 荘園なの?


 一応村の家のあった場所の近くに集会所兼、役人がいる館を建てた。館というにはちょっと語弊があるみたいな建物だけど、他の家と比べたら立派。


 料理ができる暖炉があって、パン焼き窯もある。ここでまとめて作って、薪の節約をしている。家ごとにパンを焼いたりなんだりで、火を使っていると薪代が馬鹿にならない。ここらへんも木はほとんど生えてないしね。


 一応領主の森ってことで、雑木林みたいなとこがあるけど、なんといいうか村全体の薪を一年間賄ったら更地になるんじゃないかと心配になるようなあれでした。


 パン焼き窯を作る前は、ここの人たちは穀物をそのまま湯で煮たようなものを食べていた。村の広場で大鍋で煮て配ってたらしい。


 今の雑木林は養生中ってことで、立ち入り禁止にしてある。下生えも生えてきたし、枝も伸びてきた。ただやっぱり暑いんで、思ったほどは育っていない。精霊はいてくれてるけど、得意な環境じゃなさそう。


 植えてもらっているトマトは皮が厚くて、剥いて食べる加工用のトマト。煮込み料理とかに使うやつ。日本の皮の薄い、生で食べても美味しいトマトはお預け。食料問題やら流通を考えたら、保存して美味しい方がいい。育てるのが簡単なのも大歓迎。


 作業をしばらく見せてもらっていたけど、島から来た人たちが指導しながら、特に問題なく村人によってトマトが植えられてゆく。もうちょっと土地の精霊が元気だと農作業も楽なんだろうけど。


 でも初めてみた時は、熱射の精霊とか直射の精霊とか乾いた風の精霊とか崩れた土の精霊とかがいっぱいで。せっせと手入れを始めたら、熱射の精霊は熱を含む精霊、崩れた土の精霊は少し乾いた土の精霊とかに変わった。


 気候に左右される精霊は、気候の変化に合わせて性質も変わるらしい。ドラゴンがいた場所みたいに、ずっと同じ気候の場所はそこにいる精霊も、もう性質の変化ってあんまりしなくなるらしいけど。


 どれ、ピザでも作ろうか。一応、こういう野菜を作ってるんですよってことで、食べさせとかないと。そのためにたくさんトマトの瓶詰めを持ってきた。


 あとソレイユから豚を一頭持たされてる。物理的に俺が持ってるわけじゃないけど、島から来た人が運んできた。


 祭りや特別な日に肉を気前よくふる舞えることがいい領主ってもんらしい。丸焼きですよ!

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