第463話 竜と龍
「ま、ここで出す分には効果の期間も限定されるし、かまわねぇけど。少し自分が出してるもんがどういうもんか自覚しろ。その辺の子供に菓子をホイホイやって、貴族の目にでも止まったら、お前じゃなくってその子に――美貌への探求は怖いぞ」
そう言って俺の方をちらりと見て、リンツァートルテを口に運ぶレッツェ。
そういえば、元の世界でも美貌のために女性の血の風呂に入ってた人がいたような……。美貌への執着はこっちの世界でも同じか。俺の作った菓子は今まで大体美容系だったもんな。
俺は認識されない気楽さがあるけど、代わりに菓子を持ってた子に執着の恐れが。カヌムでティナたちの友達におやつをあげたことがある。その場で食べてくれたけど、家族に食べさせるって持って帰られたりしてたら危なかったかも。
……反省します。これから、島はともかくカヌムでは俺のことを知っている人にしか料理は出さない。出す時には、精霊の手伝いのないもの。
「……」
レッツェがコーヒーを飲みながら俺の肩を軽く叩く。
出回ってない食材は使わないよう、そっちには気をつけてたので、引き続き精霊の手伝いの方も気をつけよう。カヌムの一階の台所は来るのを遠慮してもらうの復活かな。
カーンに出す料理は『家』から持ってきたやつにすればいいし。一階は狭いんで、集まるのは食堂状態の2階かカードゲーム部屋だし。
「創ったといえば、ノートそっくりの精霊もよね。あれは過程も何で生まれたかも理解できるわ」
声を出さずに笑っているハウロンが話題を変える。
「そうなんだ?」
「名前を連ねたメモ帳じゃないけど、親子3代かけて作った玉に精霊が生まれた話は何件か聞くわね。後は多くの人の信仰を集めた神像なんかも理屈は同じ。ただ、一人で短い間に生み出すなんて、普通そんな魔力ないわよ? やれって言われても真似できないからね?」
自覚してね? の副音声が聞こえる。
でもそうか、
「で? どんな精霊を造るんだ?」
レッツェが聞いてくる。
「……ちょっと、馴染むの早すぎない?」
意外そうな顔でレッツェを見るハウロン。
「何か精霊を連れてる方が、ごまかしがききそうだっつうのは前から言われてたことだしな。何よりドラゴン型つうのは俺もちょっとは憧れる」
レッツェが珍しくわくわくしている?
「かといって、自分にはいらねぇからな? ツタで十分だ」
俺がレッツェにも精霊はどうかと言い出す前に釘を刺される。
「もう一匹のドラゴンは焼けた鉄みたいにオレンジなんだよね。翼があって、尻尾が長くて。多分、『細かいの』にも憑いてたものの形の記憶があるみたいで、それになっちゃうかな? 俺のドラゴンのイメージがもっとちゃんとしてれば変えられるのかもしれないけど」
理想はあるけど、いざ具現化しようとしたら多分色々怪しい。
実はちょっと絵に描いてみようとして挫折。空を飛んでいる時には前足を小さく想像し、地上にいる時にはぶっとく想像してた。前足ひとつとってもイメージが一定しないことに気づいた。
「もっとドラゴンちゃんと見ないとダメかな」
うーん。
ディノッソの精霊をそっくり真似るのは芸がないし、お揃いは嫌がられるかもだし。
はっきりイメージを浮かべないまま違う姿を願ったら、レッツェとかディノッソになりそうだし。俺に助言とか、止めてくれるとかのイメージの方に引っ張られそうな予感がそこはかとなく。
途中で軌道修正して事故って、ハウロンとかソレイユができて冷静に止めてくれる前に叫んで失神する精霊とか。
「カーンが増えても困るし」
「増やさないで? 我が王!?」
ハウロンが叫ぶ。
ディーンとクリスは心配はしてくれるけど、止めるタイミングで応援してくれそう。執事はもういるし、アッシュを作ったら変態だと思います。
「レッツェ、どんなドラゴンがいいとかある? 絵とか彫刻の見本があると嬉しいんだけど」
精霊図書館で借りた本の挿絵、いまいちなんですよ。
いや、生態とか解体方法、効能ばかり調べてたからか。ドラゴンの格好よさを押した本を探せばいけるかな?
「うーん。あの黒いドラゴンを見たら、大分抽象化されてる絵しか見たことねぇって分かったからな。物語に出てくる聖なる守護竜や、人間を歯牙にもかけねぇ強大な竜ってのは、俺が知ってるのは文章だしな」
「変わったところで、南西の海の霧を超えた大地にいるっていう、蛇と鳥を合わせたような竜とか、東の果ての幻の島にいる翼もないのに飛ぶ竜とかどう?」
レッツェとハウロンが言う。
「東の果てに島あるの?」
東の果てで、翼もないのに飛ぶって龍?
「聞いたことなぇな」
「古い錬金術師の言い伝えね」
日本的な島の
「どちらも人の住まない聖獣の土地って言われてる場所ね」
肩をすくめるハウロン。
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