第462話 フラスコの中の精霊
「ううう。色々見ないふりをしたのに」
項垂れるハウロン。
「見ないふり。研究熱心だと思ってたのに」
マッドな感じに。
「ドラゴン、ドラゴンの研究はまだ手の届く範囲なのよ! ドラゴンの血の効果を研究した末の薬や特殊な効果やなにかは、研究して同じ結果を得られるのよ! 困難ではあるけれどドラゴンを手に入れられれば! ノートの言うところの範囲内なの!」
ハウロンがばんっと両手で机を叩いて腰を浮かす。
「ドラゴンを範囲内って言えるのもすげぇけどな」
レッツェがハウロンとは別なところを見ながらぼそっと呟く。
ドラゴンは頑張れば手に入れられるってことかな? ハウロンの全力魔法を見られるチャンス?
「ドラゴンのあの黒い『細かいの』が一つの精霊になったのも気のせいじゃないのよね!? というか、漂うだけの『細かいの』を操るだけでもう……っ」
机に手をついて、中腰のまま項垂れる。
「きゅ〜〜〜ってして、ぎゅってするだけだぞ?」
吸い出した後、1箇所にぎゅうぎゅうにすれば勝手にくっつきあって一つになる。
「感覚的なものを擬音で説明されてもわからないわよ! ――かと言って、順序立てて理論的に説明されても理解が追いつかないでしょうけど。後絶対魔力が足りない!」
ハウロンが顔を上げて抗議した後、疲れたように続けてとすっと座る。
「ドラゴンから抜くのは多分何とかなるわ。神殿の精霊落としのための陣を応用すれば。でも集めるだけならともかく、圧縮のようなことは無理ね。『細かいの』は溜まったとしても、お互いが触れると弾かれたように散れてゆくこともあるし」
範囲外といいつつ、色々考えてるハウロン。
「昔、『細かいの』を集めて、ガラスフラスコの中で精霊を生み出したって主張した男がいたけれど、あれも眉唾よねぇ」
頬杖をついてため息をつくハウロン。
「フラスコの中のモノとかガラスの中の妖精って呼ばれてるやつか?」
ハウロンにレッツェが聞く。
フラスコの中のモノとかガラスの中の妖精? フラスコの中の小人っていうのなら俺も聞いたことある。錬金術のホムンクルスのことだよね?
「最初は良きことを告げるけれど、だんだん凶事を告げるようになる人の形をした
少し落ち着いたのか、声が平静に戻っている。
ハウロンを落ち着かせるには何かを説明させること。覚えた、覚えた。
「精霊をガラス瓶に閉じ込めるのはできるよね?」
俺も執事の精霊をガラス質でコーティングされた壺――ぬか床に突っ込んだし。おかげで、なかなか姿を見せなくなっちゃったけど。
ハウロンのコーヒーカップのそばに、リンツァートルテをそっと出す。粉にしたナッツたっぷりの生地にシナモンを始めいくつかのスパイス。挟んだジャム違いで赤スグリとラズベリーの2種類。ジャムはうんと煮詰めて甘く酸っぱく濃くした。
「そうなんだけど、フラスコは口が狭いでしょう? 不定形な精霊が入り込んだ可能性はあるけど、見た者が違うって否定したの。フラスコの
ハウロンが話しながらフォークを手にとり、どっしりしたリンツァートルテを崩す。
それを確かめてレッツェの前にも。リンツァートルテは作ってしばらく置いておくと外側までしっとりしてしまうので、作りたてで食べるか、少し焼き直す。
せっかくナッツ入りの生地だし、外側は少しカリっと香ばしく行きたい。焼き直すのもちょっと楽しい。【収納】があるから滅多にしないけど。
「とにかく、集めることはできないこともないけど、くっつかないのよ。自然界ではくっついてひとつになったり、触れると弾けて散っていったりするけれど、人の手が入って成功したという話は聞かないわ。あらこれ美味しいわね?」
「コーヒーにも合う」
ハウロンの後を継ぐようにレッツェ。
「結構好きなんだ」
もぐっとする俺。
アッシュは同じ甘酸っぱい系でもふわふわしたスポンジと生クリームが好み。俺は苺ショートは好きだけど、他はタルトとかどっしりしたものの方が好きだ。お
「これは何か変な効果ついてねぇだろうな?」
ギクッ!
「いやまあ、【収納】に入れてあったのは、さっきの会話の前だし……」
視線を泳がせる俺。
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