第461話 不変で普通でありたい者
ハウロンがうっかりマッドサイエンティストだった。いや、マッドな魔法使いだった。実験のために自分自身を切るのやめてください。話の流れからいって、絶対その腕切ったろう!?
ハウロンの腕の当たりに目をやりつつ、コーヒーの用意をする俺。
「力が強くなったのはジーンが
何だかうきうきしているハウロン。
「あんたらの多少は俺にとっちゃ大きな変化だがな」
レッツェが半眼になりながら椅子に座る。
「楽しそうでなによりだけど、痛い系の実験は……」
思わぬハウロンの研究熱心ぶりに戸惑う。
「同意する。ジーンもその辺は一般的感覚で何よりだが――。精霊で焼いたって何だ!? コラ!」
レッツェも人体実験反対派でなにより。でも、久しぶりにほっぺたの人権が蹂躙される。
「のびる、んおびる!」
もがっとなりながら抗議。
「大丈夫、そっちは一時的なものよぅ。いつもより強く出てるみたいだけれど。ドラゴンの体は精霊の力の影響を受けやすいか、溜めやすいかするみたいねぇ」
片手にカップ、片手を頬にやって首を傾げるハウロン。
ハウロン、レッツェを眺めて、やたら嬉しそうなのは何故? まさか人体実験対象じゃないよね? せめて観察対象に!
でもそうか、ドラゴンって精霊の影響受けやすいのか。だから大昔のドラゴンの盾とか、強いんだ。
地の民の倉庫に眠ってたドラゴンの盾、ガムリが精霊剣――というか精霊斧でがつんとやって見せてくれたことがある。精霊が憑いてるわけでもないのに、精霊斧で盾に傷一つつかなかった。
少なくとも精霊が影響を与えた
「……」
「むおっ!?」
などと思ってたら、またほっぺたをのばされたんですが! すみません、よそ事考えてました!
「ドラゴンてぇ珍しいのがいた、目眩しになる大賢者もいた。血抜きはしかたねぇとして、精霊を料理に使うな。日常的な作業に使ってるとクセになるぞ」
叱られる俺。
もうだいぶクセになっています。
「ごめんなさい」
最初、料理の場所に精霊は入れないようにしてたんだけど、チェンジリングや精霊の味覚のことを知ってから、歯止めがあやしい。いつの間にか誰に出す食事か考えないで、精霊に手伝ってもらってる。
「いいじゃないの。美味しくなるんだし」
【収納】から料理を出すことに卒倒しそうだったハウロンが、何か悟ったみたいだ。
あ。もしかしてハウロンも、ファンドール――ハウロンの側にいる精霊、火の乙女だ――に料理手伝ってもらってる? 火力の調整、手伝ってもらうと楽だし。
「分かってて使ってるならともかく、ジーンは何となく使ってるだろ。心配にもなる」
レッツェがため息をひとつついて、ほっぺたから手を放す。
心配されるとちょっと照れる、そしてちょっと嬉しい。レッツェの言う通り、料理に精霊って普通な気がしてた。ちゃんと意識して使うようにしないと、ギルドの依頼の最中とか他の人がいるところでも無意識に使ってしまいそうだ。
「まあ、精霊をせっかくドラゴンから抜いたのに、また新しく呼び寄せて憑けたってことだものねぇ。確かに何も考えていないわね」
笑うハウロン。
ぐふっ! そういえばそうだった。言われるまで気づかなかったよ!
「それにしても、レッツェも強くなったんならいいんじゃないの? ――他の人たちに強くなった理由を聞かれたら困るってことかしら?」
ちらっと俺を見るハウロン。
「そりゃ、大賢者様に理由は擦り付ける。それがダメならディノッソの旦那だな」
「じゃあいいじゃない。何で嫌がるのよ?」
ハウロンにドラゴンのこと擦り付けてもいいんだ? いいこと聞いた。
「一つ、俺にゃ
コーヒーに口をつけながら、明後日の方に目を向けているレッツェ。
「二人とも、怪我をする前提とか自分で傷つけるとかはやめないか……?」
体を張るのやめて?
「今はドラゴンを食べたばかりで影響が大きいんでしょうけど、食べた物は出るんだし、もし効果が残るにしてもおそらくほんの少しよ」
大部分の精霊を抜いたと思うしね、っとハウロンがレッツェに向けて言う。
「アンタらの少しってぇのは、凡人の俺にはデカそうだ」
肩をすくめるレッツェ。
「俺もちょっと精霊に力を借りる境目が怪しくなってきた。前に計画してたように目くらましの精霊をつけて、その精霊に注意してもらおうかな」
俺の身体能力とか色々おかしいことを隠すため、ディーンやディノッソ、アッシュみたいに小さな精霊にそばにいてもらう計画。
「精霊の方がストッパーって……。何か相性のよさそうな精霊がいたの?」
「赤い方のドラゴンから抜いた『細かいの』で、かっこいいのを作ろうかなって」
「……」
「……」
二人が黙った!?
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