第460話 研究好き
塔の屋上、掛け流しの風呂に入る。入るついでに軽い掃除、特に目に見えて汚れてるわけじゃないし、使っているお湯というか水は、清潔に保つよう精霊にお願いしているやつなんで放置しても平気なんだけど。
風呂掃除って面倒だよね……。
それはともかく、塔に精霊が出入りしすぎて、塔を造っている石が大変なことになってる気配がするんだけど、気のせいだよね? 精霊鉄ならぬ、精霊石? 違うよね?
アオトカゲくんは大きいし、城壁や石畳を伝って島のあちこちに行けるようになったみたいだし、なんかちゃくちゃくと精霊が育ってるような……。
島の精霊はアオトカゲくんの眷属になったのがほとんどなので、大きさも納得。『家』のほうは、神々とか
さて。島のみんなにドラゴン肉はどうしようかな? さすがに人数分の料理を作るのは面倒だし、肉を預けてってのも精霊の助けがないとチェンジリングたちには味が弱くなるだろうし。
あれか。日持ちもするしジャーキー作るか? ミートパイか? ジャーキーは繊維状に解れる胸肉で分厚く作って、割いて食べるとか良さそう? ミートパイは小さめをたくさん作って――うん、そうしよう。
ジャーキーならレッツェたちもギルドの依頼で遠出する時に保存食として便利だし、たくさん作ろう。
カヌムより南にある島では春の薔薇がもう咲き始めている。塔の屋上にある薔薇は日本ではなかった青い薔薇、とても深い青。こっちの世界は精霊の影響で花の色はなんでもござれだ。
俺が珍しがってたので、庭師のチャールズが青い薔薇をくれた。玄関に続く階段のとこに作った日除けの棚に絡む薔薇も青。あっちは色が薄くて可愛いやつ。白と柔らかなピンクの薔薇も少し混ぜてもらっている。
で、可愛らしくぽんぽんみたいに小さな牡丹みたいな花がたくさん咲いて驚かれた。俺のほうは綺麗だけどよくある薔薇だと認識してたら、こっち花弁が一重か二重が多いんだって。多いというか、それしかないみたい?
完全に俺の記憶をもとにした精霊の匠による品種改良です、ありがとうございました。この場所に咲いてるよくあるスタンダードな薔薇の形もやばいんだろうな……。
俺の『家』に咲いてる花の形はやばいのが多いかもしれない疑惑。野菜の形も危ないところ。交配しないと変わらないと思ってたよ……っ!
その青い薔薇と星、海を眺めながらのんびり風呂。ドラゴンの大陸歩きから解体、地の民との宴会まで、俺にしては忙しかったな。
翌日、カヌムは雨。
今日はごろごろするつもりだったのでちょうどいい。カードゲーム部屋の奥、ベッドが置いてある部屋。風がなく静かな雨、鎧戸を開けて外の光を入れても吹き込んでこないようだ。
分厚い石の壁に囲まれた家は、雨の音をほとんど通さないけれど、屋根が近いこの部屋は、瓦を叩く雨の音が聞こえる。窓開けてるしね。
コーヒーを置いたサイドテーブル、枕のそばに丸まっている大福、ごろごろしながら本を読む。
のんびりだらだら――してたら、レッツェとハウロンが来た。
「お前……」
扉を開けて招き入れると、なんか疲れたような顔を見せるレッツェ。
「どうした?」
なんだ、なんだ?
「今回はアタシが付き添い」
ハウロンを見たら、「うふん」みたいな普通の顔でそう言ってきた。
「ドラゴンの肉!」
「うん?」
珍しくレッツェが力んでいる。
「あれ、肉体強化の効果があるだろ!?」
「……あるの?」
毒の有無と美味しいか美味しくないかは出てたけど。
「あったのよ。ドラゴンの血を浴びた体は武器を通さないって伝説があるし、確かにあってもおかしくないのよねぇ」
ハウロンは今回余裕のようだ。なんだか楽しそう。
「黒精霊もほとんど抜いたし、ドラゴンの肉固有?」
精霊の影響が肉に残ってた?
「ドラゴンって風の精霊のほか、色々な精霊が宿るらしいじゃない? あの飛べない形状だと、大地や鉱石、岩石――守りに向いた精霊が多く宿ってたんじゃないかしら? 黒精霊が憑く前に」
「聖獣だったってこと?」
ハウロンに聞く俺。
黒精霊が憑いたのが魔物、普通の精霊が憑いたのが聖獣。人を襲うか襲わないかくらいで、能力の差は特にない。
「聖獣みたいに意思を乗っ取るほどじゃないわね。ドラゴンの鱗の防具を見せてもらったことがあるけれど、鉱石の精霊がやどってたわ。ドラゴンの体は居心地がいいのかしらね?」
「おお? じゃあ、その影響が残ってたんだ?」
「あの巨体からしたら、少ししか食べていないし食べた者に与える影響は、そう大きくないわ。実際、切ってみたら切れたし」
腕を撫でるハウロン。
切ったの!?
「不穏な人体実験反対!」
「俺にとっては大きな影響!」
俺とレッツェの叫び。
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